創業125年を迎えるヤマハのチャレンジ—サン・テティエンヌ国際デザインビエンナーレより

数あるプロダクトの中でも楽器の歴史は長い。一人ひとり表現の仕方が異なるパーソナルなプロダクトゆえに時代とともに多様化していても不思議ではないのに、それぞれの楽器の形に大きな変化は見られない。そうした中、ヤマハは15年ほど前から音響機器のあり方を探ってきた。3月にフランスのサン・テティエンヌ市で開催された国際デザインビエンナーレでは、ヤマハの研究開発から生まれた新たな音響機器やプロトタイプを展示し、来場者に体験してもらうことで今後の楽器のデザインの可能性を広げ、ワクワク感を与える試みとなった。

パーソナルギター「Reframe」

例えば、ギターと聞くとひょうたん型のボディから弦を張ったネックが伸びた形が思い浮かぶ。リュートに起源を持つギターはなぜ4世紀ごろから形がほとんど変わっていないのか? 椅子やファッションが昔と大きく変わったように、楽器を演奏する状況に応じてギターの概念を崩してみたらどうなるだろう? そのためにギターを構成する要素を一度バラバラにして、長方形型に再構成してみたのがコンパクトなパーソナルギター「Reframe」だ。鞄のような形はどこへでも持ち運べ、楽器を弾く機会をさらに広げてくれる。またBluetooth対応のスピーカー「Wrap & blur」はスピーカーの存在を消してみる、というスピーカーの存在そのものについて問い直すデザインだ。

Bluetooth対応のスピーカー「Wrap & blur」

「楽器には、デザインするうえでこれといった方法論=レシピがないんです。楽器は音を出す道具ですが、音を出すだけが目的ではありません。人それぞれに異なる音楽体験や感情をもたらします。楽器を演奏する場合、useとは言わず、playと言いますよね。誰が扱っても同じ結果をもたらすことが求められる機械と違って、楽器は扱う人によって結果が異なります。楽器を演奏する場所や姿勢も人それぞれ違う。だからデザインにもっとヴァリエーションがあっていいと思うんです」とヤマハデザイン研究所所長の川田 学氏は言う。

パソコンを使えばどこででも均質な音楽を生み出すことのできる時代。それでも楽器という身体的な音楽メディアは消えない。10年後、どんなデザインの楽器が登場するのか想像するとワクワクする。(文/長谷川香苗)

サン・テティエンヌ国際デザインビエンナーレでのヤマハの展示についてはこちら