大きく変わりつつある水回り機器ーーグローエのデザインヘッド、ポール・フラワーズに聞く

近年、水栓・シャワーヘッドといった水回り機器が、大きく変化している。

▲グローエの変化を印象付けた「レインシャワー アイコン」(ヨーロッパ仕様)

ドイツ・ディッセルドルフに本拠地を置く、業界最大手であるグローエの変革が大きく影響しているのだ。2005年、同社デザインヘッドにポール・フラワーズが就任して以来、人をワクワクさせる製品を発表し始めたのである。会社はしだいに変わり、ついには業界初の、企業としてレッドドットを受賞するデザインカンパニーへと転身を遂げた。トップが変われば、当然業界全体も変わる。グローエの変化は、注目すべき出来事だろう。

最もポール・フラワーズの名前を初めて聞く人も多いと思う。彼はアップルのジョナサン・アイヴと同じ教授に学んだ経歴を持つ人物である。そう聞くと、俄然興味が湧いてくるのではないだろうか。

▲来日し講演を行ったポール・フラワーズ  Photo by Joe Suzuki

最初に紹介すべきは、ポール・フラワーズが就任早々に発表したカラフルなシャワーヘッド「レインシャワー アイコン」だろう。なんとも不思議な形。穴の部分だけ水が出ないので、ちょっとした節水効果もある。しかも色を含め、思わず手に取りたくなる佇まいをしている。このようにデザインの力で、人々の行動を促すのがポール・フラワーズの得意とするところだ。今春、日本でもようやく発売となった。

▲今春日本でも発売になった「レインシャワー アイコン 100」。直径約10㎝のシャワーヘッドで、価格は1万円強

同社製品はすべて、ポール・フラワーズと彼の下にいる20名ほどのデザイナーが手がけている。分解してみればわかるが、シャワーヘッドの内部は均一に勢いよく水を出すために、機械式腕時計のような複雑な構造をしている。こうした高品質な機器をつくるのに不可欠なのが、デザイナーとエンジニアのコミュニケーションだ。デザインを外部に依頼する同業他社も少なくないが、グローエは自社の持つ高度な技術を活用するため、デザインをすべて内製する。現代の自動車の多くが、インハウスでデザインされるのと同じだろう。

だからこそ、自動車のように一目でそれがグローエ製品とわかる共通したイメージをつくり出すことも可能だ。例えば、レバーの角度を水平より7度上げた形にしているのもその1つ。研究の結果、導き出した人が最も手を伸ばしたくなる角度で、製品に共通して採用している。これも近年グローエが取り組んでいる、ワクワクするデザインの具体化だ。

また、ポール・フラワーズは、1つの製品の物語を、いつも一枚のスケッチで表現する。例えば「アリュールブリリアント」。四角く切り抜かれた小窓から水が流れるのが見え、水の存在を強く意識させる水栓だ。レバーはもちろん水平より7度上がっている。このスケッチには、ランボルギーニが登場しているのが見えるだろうか。人々は一目で、角張った意匠に共通する物語を理解するはずだ。男性が水栓を選ぶ傾向の強いイタリアでは、ランボルギーニのような「アリュールブリリアント」が、多くの男性をワクワクさせるに違いない。

▲角張った意匠が特徴の「アリュールブリリアント」。ポール・フラワーズは、デザインの持つ物語をいつも一枚のスケッチにまとめている

この秋発売になる「グローエ グランデラ」は、逆に優美な姿をしたものだ。細く背が高いにもかかわらず、力強さを示すため下部が広がっている。エッフェル塔に通じる意匠だ。しかもこのデザインは、コンデナスト社の『TRAVELER』誌が選ぶ世界のトップ500ホテルのうち、75%のホテルにマッチするデザインであるという。

こうしたアプローチは、ポール・フラワーズがマーケティングや品質管理といった製品開発に関わるすべての分野を統括していることの表れだろう。

▲「グローエ グランデラ」。光が美しく回るよう、断面が正方形でも円でもないことがスケッチからわかる

ここ2、3年、グローエは「水を楽しむ」をテーマに、水栓やシャワーヘッドの開発だけでなく、水のある経験をより楽しむべく、ワクワクの方向をシフトさせている。いち早く業界でデジタルを取り入れ、さらにはiPodを使って温度や照明の色合い、音楽までをコントロールする家庭用スパ「グローエ F-デジタル デラックス」を発表した(日本未発売)。少々意外だが、バスルームで使うオリジナルのキャンドルも登場させている。

▲「グローエ F-デジタル デラックス」のスケッチから、豊かで楽しそうなバスライフが伝わってくる

最近の日本の住宅やマンションのリフォームで、必ずと言っていいほど水回りに手が入るのを見ると、人々がこの分野に高い関心を持っているのがわかる。そして業界最大手であるグローエがこれだけ変わったのだ。近い将来、日本の水回りがどのようになるのか、本当に興味深い。(文/ジョー・スズキ)

ポール・フラワーズ/1972年英国生まれ。IBMやフィリップスなどを経て、2005年にグローエのデザインヘッドに。現在は同社副社長として、製品全体の統括を行っている。Photo by Joe Suzuki




ジョー・スズキ/ライフスタイルを中心に、国内外のメディアに寄稿する文筆家・写真家。特に海外デザイナーや社長のインタビューを得意とする。デザインプロデューサーとしての顔も持つ。