新刊案内
稲葉なおと 著『匠たちの名旅館』

『匠たちの名旅館』
稲葉なおと 著(集英社インターナショナル 2,310円)

吉村順三と村野藤吾は、いわずと知れた戦後日本を代表する建築家。けれど、平田雅哉の名は記憶になかった。東京工業大学建築学科を卒業した著者も、そのように綴っている。

本書は、大観荘(熱海)やつるや(福井・あわら温泉)、西村屋(城崎)をはじめ、なだ万や吉兆も手がけた数寄屋建築の大棟梁・平田の「万亭(南紀白浜)」に始まり、吉村順三、村野藤吾の旅館を辿っていくドキュメンタリーだ。名建築を守り伝える当主たちの苦闘や思いを引き出し、名旅館といえども、いかにその保存が難しいかが伝わってくる。

およそ90ページ分には、著者撮影の写真もふんだんに盛り込まれ、見応え十分。

また、もう1つ目を惹くのは、書店で見たら誰もが手を伸ばしたくなるような、端麗なタイトル文字やブックデザインだ。大森裕二が手がける装幀と本文デザインについては、集英社インターナショナルのブログに詳細が記されている。

余談ながら、目次にある「大工一代」とは、1961年に池田書店から、2001年には建築資料研究社から刊行された平田棟梁の書籍。ひじょうに評判が高く、森繁久彌主演の同名映画にもなったそうで、興味深い。

四六判、368ページ。以下目次より。


平田雅哉の宿
 一、大棟梁の面影──南紀白浜・万亭
 二、茶室大工から数寄屋建築家へ──大工一代
 三、面白みのある建築──熱海・大観荘
 四、稀有なひと──芦原温泉・つるや

吉村順三の宿
 一、名建築の名宿──京都・俵屋
 二、京に残るふたつの宿──天橋立・文珠荘新館
 三、宿に生きるこころ──嬉野温泉・大正屋

村野藤吾の宿
 一、ホテル建築家としての素養
 二、師の教え
 三、昭和を代表する数寄屋建築──京都・佳水園
 四、美しき屋根の感触──伊豆・三養荘
 五、建築家のこころを守る宿──奈良・信貴山成福院客殿

旅のはじまり(浦辺鎮太郎)
 一期一会の宿──旅館くらしき