リビングデザインセンターOZONE
「三越環境デザイン+FURNITURE DESIGNS」展

三越の家具加工部のこれまでの歩みと、現代の暮らしのための提案を、家具と年表とともに紹介する展示が、リビングデザインセンターOZONEで明日まで開催されている。

▲ 徳川公爵邸のための肘掛け椅子のデザイン画。広間用、チーク材と指定されているのがわかる。消印に昭和2年。これまでなかったような彫刻的な装飾に、職人は苦労したことだろう。

▲ 三井男爵邸のための長椅子のデザイン画。素材に橘と記されているのが興味深い。

日本初の百貨店として、三越呉服店に家具加工部が設けられたのは、明治37年(1904年)のこと。西洋式の生活空間を提案していくうえで、図案家2名を英国ハロッズに派遣し、美術学校にも留学させていたようだ。帰国後、図案家たちは、徳川公爵、三井男爵の邸宅の内装設計や家具のデザインを担当し、習得してきた海外のデザインをすぐさま実践してみせたのだろう。そうした華族や上顧客へのプレゼンテーションに使われたオリジナルの図案集は10冊以上に及び、その後、現在の三越環境デザインに受け継がれて、大切に保管されているという。

そのオリジナル図案の一部を見ることができる展示は一見の価値あり。徳川公爵邸のための肘掛け椅子のデザインからは、英国の17世紀末の家具様式を忠実に再現しようという試みがうかがえる。一方、三井男爵邸のための長椅子は、ルネサンス時代のモチーフを取り入れたデザイン。これらが製作された20世紀初頭といえば、ヨーロッパではアールヌーボー様式が席巻していたと思いがち。しかし、アールヌーボー様式はあくまで最先端の芸術表現であり、現実には富裕層を含む大部分の英国人が、17世紀、18世紀の家具とともに暮らしていたのだろう。

こうした家具デザインを三越の図案家たちが必死に学び、オピニオンリーダーたちが取り入れることで、日本に洋式家具が広まっていくのだが、それまでなかった家具のデザイン画を通じて実際に家具を製作していった職人たちの苦労まで、これらの展示は想像させてくれる。(文・写真/長谷川香苗)

▲ 三越家具設計室に在籍していた城所右文次が昭和12年(1937年)にデザインし、今でも生産されているバンブーチェア。竹の弾性を生かしたカンチレバー構造。アルヴァ・アアルトのアームチェア Model 31(1931年デザイン)からの影響が見て取れる。


「三越環境デザイン+FURNITURE DESIGNS」展

会 期 10月24日(木)~11月12日(火)
    10:30~19:00

会 場 リビングデザインセンターOZONE
    7F リビングデザインギャラリー