建築家 永山祐子 x SACLAB
「機能と楽しみを持った、新しい場としての境界」

都市部に住宅を設計するとき、ほとんどの場合は建物の外壁自体が境界線となる場合が多い。そのため、境界線にさらに敷地を囲むような塀を建てることはあまりない。狭い土地にめいっぱい建物を建てるという昨今の住宅事情によって、塀のない家も増えてきている。時代とともに境界上の仕切りは変化している。生け垣、竹垣、板塀からコンクリートブロック、コンクリート塀に。時代によって境界の素材は移り変わり、その時々の町並みをつくり出している。境界に立つ仕切りとしての塀は道側の面は公共の風景、内側は住人の風景となる。仕切りは敷地と道、敷地と隣地を区切っているものであると同時に、その2つを“つなぐ”ものでもある。

話を住宅地から街中にうつしてみると、商業地区では各店舗が自分のブランドイメージを公共に表現するツールとしてファサードデザインに力を入れている。表参道、銀座などでは各ブランドが境界線上に個性を競い合ったファサードが並ぶ風景が見られる。ここでは境界は多種多様な表現が並ぶ場となっている。

個人住宅と周囲環境との新しいつなぎ役として、公共の中の新しい風景をつくるツールとして、どのような物が考えられるか。単なる敷地分割線として境界を捉えるのではなく、機能と楽しみを持たせることのできる可能性を持った新しい場として境界をとらえていきたい。そこからどんなコミュニケーションが生まれるのか、そういう意識から今回のプロジェクトを考えていった。

「勝田台のいえ」 Photos by Daici Ano

千葉県勝田台の店舗兼住居。1Fは手前にパティスリーと、奥に厨房、2、3Fはオーナー夫婦と2人の子供、4人家族の住居となっている。1階手前の店舗部分の上部は1層分の空隙を設け、3階住居がその上に配置される断面構成となっており、1階前面道路から見ると、店舗の上に住居のボリュームが浮いているように見える。店舗の屋根はガラス貼りとなっており、下から住居部分の下部が見える。店舗は前面道路に面した部分の壁の高さが1.8mとなっており、店内の奥に進むにつれ高くなっている。道路との境界を一般のブロック塀の高さ程度とする事で店内は塀に囲まれた空き地のような感覚の場所となっている。

ここでも境界部分に一般的な塀はない。むしろ塀の延長がそのまま建物外壁となり建築化しているともいえる。店舗と、その上に浮かぶ住居は1つの建物ではあるけれど、一方から他方を外から眺めるような視点があり、各々が独立した存在となっている。それぞれの場所は周辺環境に対して違う距離感をもっている。店舗は低い塀で囲まれただけの街路から続く外部的な空間。住宅は街路から浮いており、街路側が壁となっているので直接周辺の住宅が見える事はなく、より浮遊感のある周辺から少し切り離された場所となっている。そんな中で住居空間は風道を造る事で風と音だけは通り抜け、街の気配が感じられるようになっている。建物を建て替える以前の住宅(1階店舗、2階住居)訪問の際、南の街路側のカーテンは道からの視線を気にして閉め切ったままとなっていた。また、小さい子供の走る音が下階の店舗に響く事を気にしていた。そういった問題点の解決も今回の構成を決めるきっかけとなっている。

店舗から住居に移動したときに気持ちの切り替えがあるように長く変化のあるアプローチとしている。公共性の高い場所から周辺環境から切り離された独立性の高い場所、周辺との距離感をシチュエーションによって変える事で1日の大半を過ごす事となる1つの建物内の、働く空間と家族と過ごすプライベートな空間に流れる時間に変化を与えたいと思った。

永山祐子/1975年東京生まれ。昭和女子大学生活美学科卒業後、1998-2002年 青木淳建築計画事務所勤務。2002年永山祐子建築設計設立。2006年~2012年、京都精華大学、昭和女子大学、お茶の水女子大学、名古屋工業大学などで非常勤講師を勤める。主な作品に「LOUIS VUITTON 京都大丸店」「丘のある家」「ANTEPRIMA Singapore ION店」「カヤバ珈琲」「SISII」「木屋旅館」「豊島横尾館」など。ロレアル賞奨励賞、JCDデザイン賞奨励賞、AR Awards(UK)優秀賞、ARCHITECTURAL RECORD Award, Design Vanguard2012 (USA)など受賞多数。
http://www.yukonagayama.co.jp/

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