「future | 未来の道路とカーデザイン」
ーーデザインのあしもとより

近年のクルマの進化は著しく、特に安全性に関する技術は次々と実用化されている。一方で道路環境もETCやカーナビの普及によって、移動性、利便性が高まり、今後もさらなる技術革新が期待されている。しかし、改めて道路環境を眺めれば、クルマや通信の技術は個々に進化しているものの、道路そのものは大きく変わっておらず、クルマと道路のコミュニケーションは良好とは言えないようにも思える。そんな状況は、本当に人のためになっているのだろうか。

こうした問題意識から、第4回となる「デザインのあしもと」では、テーマを「FUTURE~未来の道路とカーデザイン」として4月4日に開催。クルマと道路の関係性、未来の姿などについて議論を行なった。まずはじめに、現在の道路の先端技術であるITS(高度道路交通システム)の概要を鹿島建設に紹介頂き、さらに詳細な技術についてデンソーに解説頂いた。そして、本田技術研究所には、カーデザインの制約、考え方、道路との関係性について紹介頂いた。

まずはじめに、ITSとは「人とクルマと道路の間で情報の受発信を行い、道路交通が抱える事故や渋滞、環境対策など、さまざまな課題を解決するシステム」であり、「安全性」に関するブレーキアシストや運転者監視、レーンキープ、「利便性」に関してカーナビに代表される多様な道路情報、地域情報の受発信、「円滑化」に関するETCや渋滞情報などが代表的な技術である。こうした技術の中で、利便性、円滑化に関する技術は、道路の諸問題を解決し、運転をスムーズで快適にする技術であるため受け入れやすい。しかし安全性に関しては、人の命に関わる問題であり、丁寧に慎重に考えなければならない。ITSにおける安全性の技術については、さまざまな要素の自動化が話題になっている。

ここで議論になったのは、クルマの自動化はどこまで進化するのか、すべてが自動運転となることはあるのか、という点だ。もし全自動になるならば、クルマの概念は大きく変わり、そのデザインもより自由なものとなる。しかし、ホンダ、デンソー担当者の見解はともに同じで「全自動にはならない」ということだ。これには「人とクルマの責任の所在」に要因がある。つまり、人が運転をしなくなることにより、事故が起きたときの責任はクルマ側になる。自動車業界共通の見解は、おそらく将来にわたり「最後の判断は人」ということだろう。

ならば、全自動とはいかないまでも、運転操作の大半をクルマに頼ってしまうことは本当に良いことなのか。例えば、危険察知の感覚が衰えることで、逆に危険が起きやすくならないだろうか。あるいは歩行者側が安心して、危険回避の判断が遅れることはないだろうか。そもそもすべてのクルマが同じ性能にならなければ、このシステムは完全にはならない。これについては、会場からも「自動を当たり前に感じることの危険性」を指摘する声が上がった。交通事故は、人とクルマと道路の関係性によって生じる現象である。そのため、クルマの技術だけが先に走ってしまっては、どこかでズレが生じる気がする。

会場からは、全体の視点で理想的な道路環境を考えることが重要であるとの意見と同時に、現状の技術革新には合理化、効率化ばかりが目立つことに違和感を覚えるとの意見が聞かれた。このことは、人、クルマ、道路を取り巻く環境に通じる倫理観と、合理性と同時に情緒性の視点から考えることの必要性が求められていることを意味する。

スマートウェイの概念(鹿島建設株式会社)

次にクルマのデザインに話題は移る。この中では「HONDA」のブランディングの話なども興味深く聞かせてもらったが、ここでは、クルマの視点による道路の問題点と、クルマと防護柵の安全性の考え方について紹介したい。まずクルマ側から指摘された問題点は、特に高速道路に見られる道路端部の形状で、排水のための極端なくぼみや中央分離帯の植栽、段差などが挙げられた。道路端部のこれらの状況は、事故回避の際に最もコントロールしなければいけない衝突の瞬間に、溝にタイヤを取られたり、植栽でスリップしたり、段差に乗り上げてしまったりと、コントロールを失わせる要素となっているのだという。

高速道路の端部の形状(株式会社本田技術研究所)

次に衝突の安全性について、クルマは安全規定に基いてバンパービームの高さを決めている一方で、ガードレールはクルマのタイヤのホイールとボディ側面の衝突を考慮して高さを決めている。クルマとガードレールの高さの関係は結果的に一致しているが、実は開発段階でのコミュニケーションは取られていない。また、安全性能評価については、クルマ側は対車両、対人間の安全性について衝突実験を実施しているが、対防護柵の実験は実施していない。

これに対し防護柵側は、小型乗用車と大型貨物車の2種のみを対象に衝突実験を実施して、安全性能を確認している。ここでも情報やデータのやりとりはないと言う。その他にも、クルマのボディは、縁石や車止めの高さなどに配慮してクリアランスの高さを決めていたり、細部にわたり車両と道路施設との関係性は存在しているものの、コミュニケーションを取りながら開発を実施することは今のところないようだ。

今後、クルマと道路がコミュニケーションを図ることは、双方の新しいデザインを生み出すきっかけになるかもしれない。

防護柵と車体の関係(株式会社本田技術研究所)

人、クルマ、道路の関係性については、ITSの進化やクルマの技術革新によって、今後ますます広がりを見せる。しかし、クルマの性能が上がり、自動化によって安全性が向上しても、クルマや歩行者は全く予測できない挙動を示す。つまりは、技術に頼るばかりでなく、人の意識を育てていくことも足並みを揃えて考えなければならないのである。つくる側だけでなく使う側の考えを含めた「インフラマネジメント」という概念は、今後ますます普及させていく必要があり、行政と企業が連携した教育システムなども議論されるべき課題なのかもしれない。

次回は、引き続き人、クルマ、道路のコミュニケーションの視点から、クルマのサイズと機能を整理しながら、道路の安全性と横断構成のあり方について考えてみたい。(文/御代田和弘)

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