「Automotive Innovation Forum 2014」レポート【前編】

2014年10月、虎ノ門ヒルズで催された「Automotive Innovation Forum 2014(AIF 2014)」は、米国オートデスク社の主催による自動車業界の関係者に向けた恒例のデザインセミナーだ。

午前のセッションは基調講演から始まった。米オートデスクのオートモーティブ開発部門ディレクターである、ステファン・フーパー氏が壇上に立って、同社の取り組みと戦略をテーマに講演。

▲ステファン・フーパー氏

近年の自動車業界のトレンドを、同社各製品の最新機能を交えながら概観する内容だ。カーデザインの分野でコンピュータ化が一段と進み、「高度なテクノロジーへのアクセスが容易になっている」とフーバー氏。

興味深かったのが、軽量化に関する言及。使用素材の構造までをコンセプトモデルのデザイン領域に組み込む動きがあり、「同じ材料であっても3割の軽量化が可能」だと言う。スライドでは自動生成のデモンストレーションを行った。

ジュネーブモーターショーで発表したコンセプトカーのリアルタイムレンダリングも披露。HP社のワークステーションのマシンパワーも手伝って、昨年よりもそのスピードが早いように感じる。

ショールームにおける購入体験の変化にも言及。今後は「オキュラスリフト」のようなAR(代替現実)テクノロジーとの融合で「コンセプトカーをあたかも運転しているような没入型の体験をユーザーにもたらす」方向性が浮上しているようだ。

そのほかにクローズアップされたのが「クラスA」データというキーワード。単なるデザインデータではなく、特別な呼び名を冠した理由は午後のセッションで明らかにされた(レポート後編で解説)。

続けて、ふたりの研究者が講演を行った。カーデザインの話題に止まらず、例年のAIFではクルマの未来を占うような特別講演が用意されている。今年のテーマは「自動運転」だ。

ひとり目は、米ED Design 社のCEO 兼デザインディレクターである、マイケル・ロビンソン氏。MAAL(Mobile Autonomous Automobile Laboratory)という研究機関の主宰者でもある。これは自律走行車を実験・開発するためのコンソーシアムだ。

▲マイケル・ロビンソン氏

これまでに高速列車、ヘリコプター、ラグジュアリーヨット、掘削機、超高層ビル、ホテルの内装、高速列車の駅など、数多くのプロジェクトをリードしてきたロビンソン氏。彼が設立したMAAL コンソーシアムでは、フル電動の自動運転車両「モバイル ラボラトリ プロトタイプ」を開発している。

「世界中で年間に120万人が交通事故で亡くなっている」という話題から始まった講演は、デジタルモビリティとなるクルマが自動運転化することにより、2050年に交通事故をゼロにすることができる、という夢を描く。「ハンドル禁止の世界では、カーデザインが形状的に変わる」とロビンソン氏。

「誰かが同乗しなくてはいけないが、米国では4つの州で自動運転のクルマが走行できる。ただし、クルマのデザインは2000年代止まり。2020年のテクノロジーにあったデザインを考えなくては」と主張。

映画のキャラクターや舞台設定を持ち込む話術に説得力があった。『アイアンマン』『2001年宇宙の旅』といったSF作品に加えて、『ドライビング Miss デイジー』を例に、専属運転手にスポットを当てる。

電脳化された近未来のクルマでは、エージェントのVPA(バーチャル・パーソナル・アシスタント)が執事のような役割を果たすと予言。車車間通信も発展するだろうと述べた。

MAALのプロトタイプは、2015年に技術検証を行った後、翌年からサプライヤーやネットワークを拡充して実際に製造する。その後、レンタル事業で実績をつくり、メーカーの協力を募って2020年には大量生産へ漕ぎ着けたい考えだ。

続いての講演は、バージニア工業大学の客員教授であるデニス・ホン氏。RoMeLa(ロボティクス&メカニズムラボ)という組織を基盤に、ロボティクスの研究に励んでいる。

▲デニス・ホン氏

二足歩行型ロボットの開発に力を入れるホン氏は、「DARwin(ダーウィン)」シリーズで「ロボカップ」(ロボットによるサッカー大会)に出場、4連覇を成し遂げている。

また、「DARwin-OP」というモデルは、オープンソースのモデルにした。ソフトウェアとハードウェアを無料公開、CADファイルも配布している。

「DARPA(米国防総省)ロボットチャレンジ」という競技会では、ロボットの「Odin(オーディン)」がクルマを運転。その後、自律走行車を開発するきっかけになった。

最後にホン氏が紹介したのは、全米視覚障害者連合(NFB)の要請を受けて、目の見えないドライバーが運転できるクルマの開発。ただクルマに乗るだけではなく、視覚障害を持つドライバーが判断して運転するのが特徴だ。ロボティクスの助けを借りて、路上の箱をよける、他のクルマを追い越すといった開発風景のムービーを紹介。

生まれて初めてクルマを運転したという、視覚障害を持った男性の充実した笑顔が印象的だった。

自動運転で人々の命を守る、人が自立して動き回れる。ロビンソン氏とホン氏のテクノロジーの使い方は一見すると真逆だが、ともに自動車のある社会を良くする方向性に歩みを進めている。

クルマのもたらす価値は1つではない。命を救うことと、運転の楽しさを両立させることは、テクノロジーの利用で可能になると思わせる講演だった。(文/神吉弘邦)

後編につづく

当日の基調講演、特別講演については、下記サイトよりご覧いただけます。
Autodesk MFG Online https://www.youtube.com/autodeskmfgonline1/

当日のセッションで配布された資料の一部を下記サイトで掲載しています。
http://www.autodesk.co.jp/seminar-event/manufacturing/aif-2014