vol.56
「サ」


ある言語のネイティブスピーカーでない人は、ときに面白いネーミングを考えつくものだ。

折り紙にヒントを得てデザインされたアンブレラである「サ(Sa)」(89ドル)は、日本語の「かさ(傘)」の「さ」、「さめ(小雨、霧雨などの雨)」の「さ」、そして、傘を「さす(差す)」の「さ」からの連想で、その製品名をつけたという。

既存の洋傘は、基本的に金属製の骨に防水布を張ることでキャノピー(雨よけ)を構成し、その開閉のためのメカニズムが外部に露出している。したがって、組み立て工程が複雑化し、故障や破損が発生する可能性も少なからず存在する。

これに対してサは、外側と内側に配された2つのソフトな樹脂製キャノピーに、同一素材でできたガイドパネルと呼ばれる細い板状の構造材が一体化され、それらの組み合わせが、開かれたときにテンションを生じるようにつくられている。

また、ポールやハンドル部分も樹脂製で、ジャンプ開閉のためのメカニズムは中空部分に内包され、外に露出していない。これにより、製造工程が簡略化されるとともに素材自体の着色による剥げないカラーリングを全体に施すことが可能となり、リサイクルの容易さと壊れにくさも実現した。

閉じた後でキャノピーを巻きつけて持ち歩く際にバタつかせないため、バンドではなくマグネットを利用している点もスマートだ。

メーカーでは、サのフォールディングタイプである「サ・コンパクト」も開発中であり、こちらは同じ基本構造を応用しつつも、キャノピーの折り方を工夫して対角がほぼA4サイズと等しい三角形に畳まれる。そして、直角に倒されたハンドルがストッパーの役目を果たす。

見慣れた傘の全体形のイメージはほぼそのまま維持しながら、ここまでドラスティックに構造を見直した量産製品は、これまでなかったと記憶する。デザインが果たせる役割は、身近なところにもまだ存在することを再確認した。