2014年度東京ビジネスデザインアワード
最優秀賞、優秀賞を発表

東京の中小企業とデザイナーによる新たなビジネスの創出を目的として東京都が主催する東京ビジネスデザインアワード第3回を迎えた本年度は、中小企業から応募のあった23件のテーマに対してデザイナーから104件のビジネスデザイン案が寄せられた。その中から11件のテーマとデザイナーによるビジネス案とのマッチングが実現し、アワードのテーマ賞を受賞。このほどそれぞれのデザイナーによるビジネスプランの公開プレゼンテーションが行われ、最終審査を経て最優秀賞と優秀賞が発表された。

審査会の冒頭で審査委員長の廣田尚子氏は「アワードの11という数を多いと感じるかもしれない。しかし、東京に存在する中小企業の多さ、さらにその技術力の高さや特殊性を鑑みると、もっとアワードを与えたいくらい」と述べ、東京の製造業に潜むポテンシャルに期待を寄せた。

その上で、デザインについては「今の時代、製品の形をデザインするだけがデザインではないことは多くのデザイナーが理解している。つくった製品を社会に広めていくところまで踏み込んで、販促物の制作に始まり、展示会への出展、販路開拓にいたるまでビジネスプランを描いて、それを実行に移していくマネジメント力が求められている」と指摘。

そうした視点からアワードを受賞した11件には、日本を訪れる外国人用の電子タグ型パス、外国人を歓迎するための外国の国旗で覆われたバナーといったインバウンド需要を想定したビジネス案や、祈りのためのオブジェといった宗教性を伴わない多様化する祈りのかたちの提案などに時代性を感じることができた。

最優秀賞を受賞したのは医療用光学部品の製造を行うカドミ光学工業とクラウドデザイン。クラウドデザインは精緻なガラス接合技術を生かした形見箱としてのオブジェを提案。直径6センチほどの容器に遺骨、遺灰など、亡き存在の一部を納めるようにできている。光学ガラスの加工技術とデザイン性が見事にかみ合ったといえるデザインであり、機能を祈りという精神的な行為に置き換える美しいオブジェの提案だった。その一方で、現代の祈りのためのツールという視点で見ると、複数の仏具メーカーとデザイナーとが住空間に合うホームファーニシングとしての仏壇を発表している。こういったなか、今後どのような製品が完成するのかが気になる。

▲最優秀賞「光学ガラスの特徴を活かした祈りのための道具」カドミ光学工業×三浦秀彦氏、久保井武志氏

優秀賞には特殊プリント加工会社の楽プリとデザイナーの佐野文彦氏による表裏使用可能なイベント用多機能ハッピの提案と、中央パフ製作所とアートディレクターの小関隆一氏によるバフ独特の縫製技術を生かした布製品ブランド提案の2件が選ばれた。リバーシブルのハッピは染色の工程で水を全く使わないからできる両面染色という特殊印刷技術を生かした提案。コンサートなどのさまざまなシーンに合わせて表裏を着分けることができる。

絵柄の装飾性に一瞬驚いたが、デザイナーの佐野氏は「ハッピという意表を突いた案だけれども、自分の周りにいるアイドルとイベント企画などを行っている知人や音楽プロモーターを通して製品化すれば売ることができるルートは持っている」と説明する。使い手がはっきりしていて現実味のあるビジネス提案だ。プレゼンテーションでは、アイドルの歌のパフォーマンスが披露され、ファンたちがハッピを着てライブで盛り上がる実際の使用場面のシミュレーションが行われ、提案に説得力を持たせていた。

▲優秀賞「表裏使うことができるイベント用多機能ハッピ」楽プリ株式会社×佐野文彦氏

▲優秀賞「バフ独特の縫製技術を活かした布製品ブランド」有限会社中央バフ製作所×小関隆一氏

テーマ賞を受賞した企業、デザイナーはいずれも受賞の喜びを素直に表現していたものの、東京ビジネスデザインアワードは将来性のある事業計画に対するアワードであり、ここからがスタート。試練も待ち受けているということをみな認識している。今後、11組のテーマ賞受賞者の動きを追っていきたい。(文/長谷川香苗)

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