商品化への道のり
「太洋塗料 前編」

東京都が主催する「東京ビジネスデザインアワード」は、都内の中小企業とデザイナーのマッチングよって新たな事業の創出を目的としたビジネス提案コンペティション。2013年、第1回のアワードでテーマ賞を受賞したのが太洋塗料株式会社とデザイナー/アートディレクターの小関隆一氏とのマッチングである。両者の協業によって生まれた商品「マスキングカラー」は発表直後から高い評価を得て、約2年を経た今、好調な売れ行きを見せている。

塗料を使った新たなホビーツール

太洋塗料株式会社(大田区)は、業務用塗料を製造しているメーカー。新品の扇風機の羽を汚れから護るために覆っている青色のフィルムなど、工場から出荷される電化製品の養生用に特殊な水系塗料「ストリッパブル」を製造している。この業務用ストリッパブルの新たな用途開拓を期待して、同社は「塗って、はがせて、色も自由自在 “水系はくり塗料”」というテーマで東京ビジネスデザインアワードに応募した。テーマに対してデザイナーの小関隆一氏が提案したのが「一般の人が塗って“はがせる”絵の具」の開発。はがせるゆえに可能な新しい塗り方があるのではないかと考えた。「ストリッパブルは業務用なので巨大な缶に入っていますが、それをチューブのように押し出すかたちの容器にすれば、一般の人がマーカーペンのように使って楽しむことができそうだと考えたんです」と小関氏は説明する。

▲ペンタイプのマスキングカラーは、道具を必要とせずその場ですぐ使うことができ、へら状のキャップを利用して、描いた線を伸ばしたり、表情を付けたりもできる

初めて聞いてイメージできるネーミング

工業用に使われているマスキングテープの製造方法はそのままに、色にバリエーションを与え、一般の人が使いやすいような姿かたちにしたら……。アイデアは固まったが、新しい製品を市場に投入しブランドとして定着させるために重要なのは初めて見て、聞いて、用途とネーミングが合致すること。「マスキングテープが塗料になっただけだからマスキングカラー。このネーミングがひらめいた時点で、これはいけると思ったんです」と小関氏。

▲デザイナー/アートディレクターの小関隆一氏

デザインを感じさせないシンプルさ

太洋塗料の既存の技術をそのまま生かす提案のため、マスキングカラーの開発は順調に進んだ。絵を描くように装飾的に使うことを想定して、色はローズピンク、マリーゴールド、ゴールドなど、ポップかつ季節感を意識した20色で展開。最も工夫したのは塗料のボトル容器だったと小関氏は言う。「色については、太洋塗料はお手のものなので開発はスムーズに進みました。しかし、ブラシなどを使うことなく塗料を直接壁などに塗ることを想定すると、容器の扱いやすさが重要です。子供や女性の手の力でも容易にボトルを握って中から塗料を絞り出せることが求められます。そうしたボトルをデザインするため、容器の厚み、塗料がこぼれにくくするための口の部分のデザインなど、何度も試作を繰り返しました」。

そんな工夫を感じさせないほどシンプルにボトルのデザインに仕上がった。「『どこがデザインされているんですか?』と周りから思われることが多いんです。それは僕たちの思惑どおり」と小関氏は言う。それは違和感なく使い方がすぐにわかることにつながる。新しいものが浸透していくうえでこうした要素は重要だろう。(文/長谷川香苗、写真/西田香織)

後編に続く。

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