サンテティエンヌ国際デザインビエンナーレより
「街の歴史とつながる展示たち」

サンテティエンヌはフランスで初めて鉄道が通り、産業革命がいち早く起こった街。金属加工、ガラスなどの産業や企業の研究機関も多く集まる地域でありながら、こうした産業はふだん生活者とのコンタクトポイントがないため、フランス国民の間でも知られていないことが多い。先日のデザインビエンナーレはこうした街の潜在的な資源をデザインによってあらわにする格好の場でもあったようだ。

サンテティエンヌ美術デザイン学校の学生、Céline Renaudie と Maxime Burnichonが地元企業と製作したベンチ。©Alexandra Caunes

1922年創業のトレリエ・フォレジエンヌは、食品業や自動車、建設業向けに金属部品を製造する金属加工メーカーだ。第2次世界大戦中は銃器への需要から大きく成長した。しかし、近年では新たな取り組みとして金属加工技術を生かしたオリジナルのアウトドアファーニチャーの開発に力を入れている。その研究開発の一環としてサンテティエンヌ高等美術デザイン学校の学生とともにアウトドア・ファーニチャーを開発し、ビエンナーレの期間、公共の場や中庭に設置し、来場者が一息つく場を提供していた。産学連携の取り組みは各地で行われているが、トレリエ・フォレジエンヌの試みのように成果をひとまず社会の中に置いてみることも重要であろう。ビエンナーレ中は展示を解説するガイドツアーもあり、デザインを通して武器と金属加工業というサンテティエンヌの過去と今について触れる機会になっていた。デザインをした学生たちは、ふだん見慣れない形のアウトドア・ファーニチャーに思い思いの姿勢で座る来場者の姿から、座る際のふるまいについてさまざまなヒントを得たことと思う。

鉱山跡の鉱山博物館。労働者たちが就労後、作業着を脱いで吊るしたままの状態が残された空間は演出でもなんでもなく、真実そのままが圧倒的な力を放つ。

メイン会場の元武器工場以外でもサンテティエンヌと地元産業とのつながりを気づかせてくれる展示が企画された。1973年まで稼働していた鉱山跡をミュージアムにした鉱山博物館ではヨーロッパのガラス工房やメーカーと美術学校がガラス技術の応用を探る作品を展示した。サンテティエンヌ近郊はロワール川が流れ、ガラスづくりに適していたことから19世紀より建築用ガラスが盛んに生産されてきた。なかでもサンテティエンヌ近郊のサン・ジュスのガラス工場はフィリップ・スタルクがバカラのショールーム用に、ピーター・マリノが上海のルイ・ヴィトンショップ用に採用するなど品質の高さで知られている。ビエンナーレでは、こうしたガラス工場が未来に向けて技術に革新を起こすために、木材とガラスを接着したり、若い学生たちとともに技術の限界に挑戦した試みが展示された。

サンテティエンヌ近郊のガラス工場サン・ジュスほか5つのガラス工場がヨーロッパの美術学校とのワークショップを通して制作した作品の数々。メタルとガラス、ウッドとガラス、セラミックとガラスといった異素材を融合するには、熟練した技術と知識だけではなく、職人の冒険心も必要だった。

地方都市で開催されるビエンナーレは、サンテティエンヌのように街の歴史や産業とのつながりを重視した企画ならば観光の1つとして魅力的になる気がした。(文/長谷川香苗)