第4回
「日本の手仕事を守り育てる『わざわ座』の活動」

▲「わざわ座」で発行する小冊子。「わざ」とは職人の技であり、「わざわざ」とは手間をかけること、「座」はプロが集う場という意。

かつて民藝運動を唱えた思想家、柳 宗悦氏は、日本を「手仕事の国」と呼んだ。手仕事は人の心に直接つながるものをつくり出すことができ、そこには健康的な美しさが感じられるという。

だが、しだいに手仕事が機械にとって代わられ、伝統が途絶えていくなかで、日本の将来に危機感を抱いていた。柳氏は著書『手仕事の日本』(岩波書店)で、こう述べている。「今後何かの道でこれを保護しない限り、取り返しのつかぬ損失が来ると思われます。それらのものに再び固有の美しさを認め、伝統の価値を見直し、それらを健全なものに育てることこそ、今の日本人に課せられた重い使命だと信じます」。

▲ 東京・国立にある事務所兼店舗「こいずみ道具店」にて。工房もあり、小泉氏はここで日々、手を動かして試作をつくって検討し、デザインを考えている。

「わざわ座」は、現在のものづくりのあり方を見つめ直し、日本の手仕事を守り育てていく活動であり、その根底には柳氏の「民藝運動」の思想が流れている。職人、デザイナー、工務店が手を結んで2011年に立ち上げ、準備を進めてきたが、この4月に一般社団法人として本格的に始動した。家具デザイナーの小泉 誠氏が代表理事を務め、東京・東村山市にある相羽建設が事務局を務める。

それに先立って3月に開かれた決起集会には、活動の主旨に共鳴し、参加を表明した工務店が全国から40社、80人が集結。活動の考えや規約について声を張り上げ、熱心に説明する小泉氏の姿があった。

小泉氏が「わざわ座」を立ち上げようと思ったのは、これまで感じ、考えてきた背景があったからだ。「1つは、今の日本のものづくりは売ることが優先され、つくり手は使い手の顔が見えないまま、つくりたいという思いからではなく、つくらされている状況にあるということです」。速く、安く、大量につくられたもののなかには、簡単に捨てられてしまう哀しい運命をたどるものもある。

▲ ホーロー製キッチンウェアシリーズ「kaico」。デザインの小泉氏、製作の昌栄工業と日東エナメル工業、販売のフォームレディの協働によって生み出されている。

また、20年ほど前から、日本各地の地場産業と仕事をするなかで、工場や職人が次々に姿を消していく状況を目にしていた。デザイナーとして、つくり手たちが生きる場を考えていかなければいけないという使命感を持ち、やがて顔の見えない使い手ではなく、顔の見えるつくり手たちに向いてものづくりを行うようになっていったという。

「ようやくこの10年の間に、テーブル工房KiKi、宮崎椅子製作所、kaico、ambai、kitokiなど、ものづくりに真摯に取り組む人々と出会って、思いを1つにしてつくっていくプロジェクトが増えてきました。すると、しだいに僕らの思いが使い手にも届くのを感じるようになってきたのです」。

▲ 広島県府中と福岡県大川の家具製造会社4社が、デザイナー小泉氏と関 洋氏と共同で企画・製造を行う「kitoki」。写真は小泉氏のデザイン。

一方で、同じ頃、小泉氏は床の間や天袋など、家に家具が備わっていた江戸時代の書院造や数寄屋造に見られるような、「家は家具としての機能も持ち、家自体が生活道具である」と考えるようになっていた。また、住宅設計のなかで、家づくりは住み手の顔が見えて、その人たちのために考えられる数少ない産業だということに気づくなど、家に対する関心が高まっていったという。

そうしたさまざまな考えを巡らせていたとき、地域に根差した仕事をする工務店、相羽建設と出会った。創業者であり、現取締役会長の相羽 正氏は、大工の修行を積み、その後、独立して起業した。つくり手の経験がある相羽建設では、国産材や地域材を積極的に使用し、キッチンや浴室、建具といった住宅設備のほとんどを大工が製作。職人の手仕事の魅力を生かした、多彩な木造住宅を手がけている。

小泉氏が、同社のショールームの設計を建築家の伊礼 智氏とともに手がけたのを機に、相羽氏らと意見交換、やがて「わざわ座」の考えが生まれていった。

▲ 小泉氏、伊礼氏、相羽建設のコラボレーションにより設計されたショールーム「あいばこ」。「大工の手」の家具の一部を体感できる。Photo by Shinichi Watanabe

住宅業界も、家具や日用品などと同じような問題を抱えている。高度経済成長期以降、住宅はより速く、安くつくることを強いられてきた。現在の住宅用建材は約70%を輸入材が占め、99%の材料がプレカット加工されたものだという。従来、大工は現場で木材に墨付けし、手刻みで建前をしていたが、その技量を発揮する機会が減り、大工の数も年々減少傾向にある。

昔は大工といえば、子どもたちの憧れの職業だった。クリエイターのなかにも、幼少の頃に近所で家の建前をしていると必ず見に行ったという人が多くいる。小泉氏も小学校の帰り道に建築中の家を見つけて、セメントを練るなど、左官職人の手伝いをさせてもらった経験があるという。

▲ 今秋オープン予定の相羽建設のショールーム「つむじ」に隣接して建つ、伊礼氏設計の「i-works」のモデルハウス。Photo by Masao Nishikawa

この4月から「わざわ座」の第一弾プロジェクトとして、家づくりの職人のなかから大工に焦点を当てた「大工の手」がスタートした。この「大工の手」では、小泉氏と伊礼氏がデザインしたテーブルやイスなどの家具のラインアップを揃えた。工務店が施主から注文を受けた家具を、大工が新築時に出る端材や今まで住んでいた家の廃材、地域材を活用して設計図をもとに製作するという。

通常、家を引き渡す前に現場を去る大工が、家の完成時に家具を手渡しすることで、住み手と顔を合わせることができる。つくり手の顔がわかると安心感につながり、自分たちの家や地元の木で製作された家具には愛着も湧くだろう。そこには家も家具も永く大切に使ってほしいという願いが込められている。

「この活動はボランティアでもなく、ものを販売して利益を得るという、営利目的のものでもありません。われわれは住み手の方々が永く大切に使いたいと思うような魅力ある家や家具をつくる。そのために、みなが誇りと責任を持って誠実にものづくりに取り組むことが大事です。活動というより、ものづくりに携わる人々のトレーニングと言ったほうがいいかもしれません」と小泉氏。

▲「大工の手」の家具は、接合部を大工それぞれのやり方に任せて、「ほぞ接ぎ」など、職人の技を発揮してもらう部分を設けている。Photo by Shinichi Watanabe

すでに家の竣工に合わせて製作した家具を、住み手に渡し始めているところもある。活動に参加する人々から、さまざまな声も上がっている。「大工がやる気とやりがいを持てるのは、やはり手仕事。私たちが考えてきたことは間違っていなかったと確信が持てました」(徳島県・山田工務店の山田文夫氏)。

「大工の技術の素晴らしさにデザインの素晴らしさを加えた、新しい職人のカタチを産み出したい。それが地域の価値を高めることにつながっていけたら素晴らしいと思う」(和歌山県・清水工務店の清水弘治氏)。

▲「大工の手」の家具には、デザイナー名とシリアルナンバーを打刻した木製タグが付けられて公式に証明される。

「わざわ座」では、今後もさまざまなプロジェクトを展開していく予定であり、ものづくりを心から愛する有志も引き続き、募集している。(インタビュー・文/浦川愛亜)



◎わざわ座
座衆(法人サポーター)と寄人(賛助会員)の正会員を全国で募集している。より詳しく知りたい方のために、質問も受け付けている。http://wazawaza.or.jp

◎こいずみ道具店
東京のJR中央線・国立駅から徒歩約20分のところにある。大きな家具をご覧になりたい方は、事前にご連絡を。http://www.koizumi-studio.jp/

◎小泉氏の手がける主なプロジェクト
テーブル工房KiKi http://www.t-kiki.co.jp
宮崎椅子製作所 http://www.miyazakiisu.co.jp
kaico http://formlady.co.jp/?page_id=67
ambai  http://formlady.co.jp/?page_id=72
kitoki  http://kitoki.jp/

◎相羽建設
東京・多摩地域に根付く工務店として、自然素材や地域材を用いた木の家を職人の手でつくり続けている。小泉氏、伊礼氏をはじめとしたデザイナーや建築家との協働多数。住み手が永く住み続けられるよう、定期的にメンテナンスする「家守り」にも精力的に取り組む。大工や左官職人と一緒に手仕事を体感できる「こども工務店」や「手しごとフェスタ」、家づくりについて学ぶ「AIBA家づくり学校」、地域材を育てている山林の見学会といった、さまざまなイベントを開催。http://aibaeco.co.jp

◎あいばこ
東京・東村山市にある相羽建設のショールーム。同社の家づくりやキッチン、「大工の手」の家具を体感できるほか、地域の人々の交流の場として、つながりのある作家や講師とともに各種教室やイベントを開催。2015年秋に小泉氏や伊礼氏、地域のクリエイターとコラボレーションした新しい拠点「つむじ」が東村山市内にオープン予定。http://aibaco.jp


小泉 誠/家具デザイナー。1960年東京生まれ。木工技術を取得した後、90年Koizumi Studio設立。2003年には伝える場として、東京・国立に「こいずみ道具店」を開設。建築から箸置きまで生活に関わるすべてのデザインに関わり、現在は日本全国のものづくりの現場を駆け回り、地域との協働を行う。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。12年毎日デザイン賞受賞。15年より「わざわ座」代表理事を務める。著書に『デザインの素』(ラトルズ)、『と/to』(TOTO出版)。