vol.65
「ワン・アバウブ」

先日、所用でオーストラリアのブリスベン(本来の発音はブリズベン)を訪れたとき、帰途の空港で残った小銭の使い道を探しながら面白いものを見つけた。「ワン・アバウブ」という、ニュージーランド発の携帯ドリンクである。

「ひとつ上を行く」という名のこのドリンクのキャッチフレーズは「FLY WELL、ARRIVE READY」(「良きフライトで到着に備える」とでも訳そうか)というもので、時差ぼけなどを抑えるような処方になっているとのこと。

具体的には、フランス海岸松の樹皮から抽出された抗酸化物質のピクノジェノール(時差ぼけが残る時間を54%近く減らし、24時間後の影響も62%弱抑える効果があるとされる)や電解質、ビタミンBなどを含み、フライト中に失われがちな水分や体内バランスを整える成分を補うことで、到着後の不調を最小限に止められるのだそうだ。

いわば、フライト用のスポーツドリンクのようなものだが、個人的に惹かれたのは、冒頭の写真のように、その効能よりもボトルデザインだった。

その断面は水滴を思わせる形状で、5本揃えると花びらのようなパターンになる。空港のスーベニアショップでは、その状態で店頭ディスプレイを行っていたのである。

基本的に旅行者対象の製品なので、潜在ユーザーは同社の広告やWebページなどを見ているとは限らない。したがって、ワン・アバウブの機能性について事前に知らない可能性が高く、また、その場の説明を詳しく読んでもらえることは期待できない。したがって、一般的なボトルデザインでは他のドリンクの中に埋もれて気づかれないリスクがある。

そこで、一目で違いがわかるボトルデザインと、それを生かした店頭ディスプレイ方法を考え出したのだろう。

実際には上の写真は、ワン・アバウブの錠剤を溶かして利用する専用リフィルボトル(1Lサイズ)であり、店頭で販売されていたのは同じフォルムだが、容量が600ccで上部をカバーするキャップがないデザインだったが、目を惹く効果は変わらない。

この他にも、より一般的な形状の100ccボトルに濃縮されたワン・アバウブの液が入っているタイプもあるが、どちらかといえばそれはリフィルボトルと同じくリピーター向けといえ、空港では600ccのワンウェイボトルをメインにアピールしていた。

興味深いのは、ボトルには容量と並んで、対応するフライト時間の目安が印刷されていることで、600ccの場合には3時間以下の飛行に適しているとある。

また、公式Webサイト(http://fly1above.com)にも、飛行時間と推奨摂取量の関係がひと目でわかるインタラクティブなガイダンスのコーナーがあり、スライダーを使って飛行時間を決めると世界地図上に到達距離が示され、それに見合ったワン・アバウブの量を表示してくれる。

さらには、日本のApp Storeではダウンロードできないが、フライト情報を入れると同じようにワン・アバウブの必要量を計算してくれるiOSアプリも用意されており、モバイル状態での購入サーポートにも積極的に取組んでいる。

ワン・アバウブの市場規模は、例えばレッドブルなどのエナジードリンクに比べればはるかに小さなものかもしれない。しかし、商品企画の着目点がユニークといえ、それを支えるパッケージデザインやデジタルマーケティングの方法もなかなか意欲的なものに感じられたのである。