REPORT | ビジネス
2016.05.13 10:00
ミラノデザインウィークに継続して行くようになると、毎年会う人が増え、ミラノに暮らしているとまでは言えなくても、滞在が非日常ではなくて日常になってくる。そんな“暮らすように旅をしよう”というキャッチフレーズを掲げるAirbnbは、デザインウィークの期間中に「Makers & Bakers(ものをつくる人、パンを焼く人)」というポップアップカフェをオープンさせ、見知らぬ人同士が知り合う場をつくり出した。
▲ カラフェ「Balena」は水をなみなみと入れることで、重さでバランスを保ち、揺れることなく静止。取っ手を少し傾けるだけで水を注ぐことができる。イタリア人のリヴィア・ロッシとスイス人のジャンルカ・ジャバルドのユニット、ドッソフィオリトによるデザインだ。
Airbnbにとって、家や宿に一泊して歓待することだけがもてなしではない。偶然、1時間ほど立ち寄る場所だったとしても、訪れた人に心地よく感じてもらうことがもてなしであり、その経験が旅の印象に残ると考える。
Airbnbが開いたポップアップカフェ「Makers & Bakers」は、リストランテ・マルタを模様替えして会場にし、元「デザイン・マイアミ」のクリエイティブディレクター、アンブラ・メダを共同キュレーターに迎えた。照明やテーブル、椅子、テーブルウェア、ナプキンに至るまで、14カ国22人のデザイナーによるプロダクトで空間をしつらえた。
▲ デザインウィークの期間、例年多くの人が訪れるロッサーナ・オルランディのギャラリーと同じ敷地内にあるリストランテ・マルタが、「Makers & Bakers」の会場となった。
▲ インテリア。カウンターのタイルはバーバー&オズガビーのデザイン。イベントのために張り替えた。
その際に大切にしたのは、キュレーターのメダによれば、「旅という体験を通してコミュニティをつくり出す、Airbnbの価値観」。カフェに置かれたプロダクトは、いずれも見知らぬ人との会話を弾ませてくれそうな“カンバセーションピース”となっていた。
例えば、冒頭の写真の取っ手を傾けるだけで水を注げるカラフェだったり、スパイスをすり潰すための石器のようなツールだったり、ニット編みのティーウォーマーだったり。どのアイテムも通常とは違う使い方や小さな驚きがあり、他者と知り合う“口実”になるデザインばかりだった。
▲ ティーウォーマー。ニュージーランドのデザイナー、ハリー・ワーによるもの。
▲ 一見すると大理石か石でできているように感じられるサービング・ボード。実は100%リサイクルのデニム地や再生紙を圧縮してできており、持ち上げるとその重量感に違和感を抱いて気づく。スイス人のレティシア・ド・アレグリとウルグアイ人のマテオ・フォガールによるデザイン。
▲ ブレッドナイフは3Dプリンティングでつくったチタン製。握りやすさと素材の使用量を最小限に抑えるために、ハンドル中央部に空洞を設けた。蓮池槇郎の事務所で働いた経歴を持つニュージーランドのデザイナー、ジェイミー・マックルランがデザイン。端材を寄木細工のように組み合わせたカッティングボードは、ロンドンのストゥディオ・オー・ポータブルのデザイン。
「デザインには何気ない日常の行為をパフォーマンスに変える力があると思うんです」とメダは言う。ただカラフェから水を注ぐ、お茶を入れる、パンを切るという行為でも、デザインによって振る舞いを変えることができるという意味だ。
また期間中、英国のイラストレーター、ゼビディ・ヘルムがカフェに常駐し、来場者にイラストを描いてプレゼントした。これも記憶に残る体験につながるだろう。
▲ イラストレーター、ゼビディ・ヘルムは英国の雑誌『The Spectator』の風刺画や、ロンドンのフォートナムアンドメイソンに先ごろ完成した壁画でも知られる。昨年はエルメスの出版物のイラストを多く手がけた。
「Makers and Bakers」というタイトルに沿って、サワー種で焼いたブランブレッドやホームメイドのジャムがメニューに加えられた。デザインウィークに展示されたものの多くが触ることができず、眺めるだけにならざるを得ないなか、実際に食べながらプロダクトの使い勝手を試すことができたイベントは来場者の人気を集めた。
このイベントはAirbnbにとっても得るものが多かったはず。旅人を受け入れるホストにもてなしの方法を提案する際の大きなヒントになったに違いない。(文/長谷川香苗)