第7回 キッチンの役割の変化ーークリナップ、サンワカンパニーなど

SNSを介したコミュニケーション、あるいはスカイプでの会話など、隣にいない他者とも接している現代。“魅せる”キッチンという言葉も浸透しているが、今の時代こそ、フィジカルに人が集う場としてキッチンは重要な意味を持つ気がする。昔は子どものしつけが食卓で行われたものだ。

▲ クリナップによるコンセプトモデル「DAIDOCORO」


今年は2年に一度のキッチン関連見本市「ユーロクッチーナ」の開催年とあって、多くのメーカーから新作が発表された。

日本の食文化に世界の注目が集まるなか、国内のキッチンメーカーは日本らしさを感じさせるデザインを数多く提案していた。例えばクリナップのコンセプトモデル「DAIDOCORO」は、調理し、食べて、くつろぐという異なる3つのシーンを1つに重ね合わせた、現代のライフスタイルに沿ったアイデアだ。

異なるシーンを1つに重ねるという発想には、「料理をつくってくれる家族に対して、背を向けていませんか?」というつくる側、つくってもらう側の距離感を変えたいという思いがあると、設計を担当したクリナップ開発本部デザイン課の間辺慎一郎氏は言う。囲炉裏のようなレイアウトも、調理する人と食べる人という分け方ではなく、互いが向き合う関係を生み出すためだろう。

▲ 随所に麻の葉のモチーフを施し、日本らしさを表現。テーブルスペースとなる人工大理石の部分には、象嵌細工のように麻の葉を配した。

▲“囲炉裏”の中心となるIHクッキング台は中心部が最も高温になるように設計。調理器具を中心から離すことで温度を調整できる。

▲ 漆塗りに見えるステンレストップは、ファションブランドからランウェイに使いたいと引き合いがあったという。日本で最初にシステムキッチンという概念を導入したキッチン製品メーカーの技術を結集したコンセプトモデルだ。


日本のサンワカンパニーは、キャビネット家具のような新製品を発表。ウォール型にもアイランド型にもなる「奏」は、ビニールレザーをパネル前面に施した“魅せる”キッチンだ。

▲ 「奏」のビニールレザーは日本製。抗菌、防カビ性に優れ、雨ざらしの状態でも変色、劣化が見られないという。

▲ パネルを開けると、収納したテーブルウェアがバックライトで照らし出され、あたかもディスプレイケースのよう。


また同社は、欧米とは異なるアジアの住宅事情を考慮したコンパクトキッチンも発表した。「AFFILATO HIDE」は幅1,360mm、高さ1,920mm。コンパクトさはもちろん観音開きの扉が付き、来客時などに扉を閉めれば、その存在を消すことができる。調理機能を納めたワードローブのような家具だろう。

▲ キッチンは他人に見せたくないというアジアの人の要望に応えた「AFFILATO HIDE」。キッチンの開発でもこうした社会背景を取り込むことは大切に違いない。


多くの先進国では質の高いデリバリーサービスが普及し、調理をしなくても一流レストランの味を自宅で楽しめる時代だ。家庭におけるキッチンを含めた食空間は、つくる側、つくってもらう側というヒエラルキーをなくした、幸せなひと時のための舞台になりそうだ。(文/長谷川香苗)

▲ ほかにも、イスラエルのクオーツ製品メーカーのシーザーストーンが、トム・ディクソンとともに建造物のようなスケールの、調理をエンターテインメント化したキッチンを発表した。Photo by Peer Lindgreen

▲ ファッションブランドのフェンディもキッチンに参入。料理の場とリラックスする場がシームレスにつながる未来を感じさせた。