第8回 ペプシコ、マーケットリサーチの場としてのデザインウィーク

家具メーカーのみならず、自動車やウォッチメーカーが自らの世界観を打ち出したトルトナ地区。今年は、ペプシやトロピカーナといったブランドを抱える米国食品メーカーのペプシコも出展。ミラノデザインウィークをマーケティングの場と位置づけ、ユーザーエクスペリエンスを通して消費者マインドを探る参加型の催しを開いて人気を博した。

▲ 最新のドリンクディスペンサー「Pepsi Spire 3.0」。パネルやインターフェースをデザインしたのは、ベンジャミン・ユベール。フレイバーをカスタマイズしたドリンクを楽しむことができる。


ペプシコが力を入れたのは、飲料の商品デザインというより、飲み方の新しい提案というサービスデザイン。「デザインの考えは、マーケティングや研究開発にまで及ぶ」とペプシコのチーフデザインオフィサーのマウロ・ポルチーニ氏は説明する。

それは未来の消費者はどのような状況で飲料に接するか、という状況そのものをメーカーがつくり上げていくことを意味する。ペプシコの直接のクライアントは消費者ではなく、ホテル、レストラン、ファストフードチェーンといったサービス業だ。

そういった場に向けていち早く考え出されたのが、自動ドリンクディスペンサー。客が好きなときにボタン1つで自らの飲み物をサーブできる便利さに加え、サービススタッフの手を煩わすことがないため、店舗側の業務効率も向上させた。今ではビュッフェ形式のカフェにとどまらず、ホテルのレストランでも導入されている。

ミラノデザインウィークでは、その自動ドリンクディスペンサーを発展させるような、未来の炭酸飲料を提案するバー「F!ZZ Bar」が登場した。炭酸、フレイバー、トッピングのそれぞれを、飲む人がミキソロジストになってつくることができるアイデアだ。

▲「F!ZZ Bar」。「Pepsi Spire 2.0」というデジタルファウンテンでドリンクをカスタマイズできるようになっている。どのフレイバーの人気が高いかデータを取ることができ、マーケティングに活用できる。


さらに、真空カプセルに入ったフレーバーを専用ボトルに取り付ける「Drinkfinity」は、給水場所さえあれば、好みのドリンクをスーパーやコンビニエンスストアでその都度買い求めなくても楽しめるアイデアだ。専用ボトルを購入したり、カプセルを持ち運ばなければならないが、さまざまな味が用意されている。

▲「Drinkfinity」の仕組みを説明する展示。手前にあるさまざまなフルーツのフレイバーをつくることができる。


ペプシコのブランドの1つ、スポーツ飲料のゲータレードはアプリと連動し、水分補給を管理する「Gx」システムを発表した。運動中の発汗量、その中の塩分損失量などの5項目を、皮膚に貼ったパッチを通してアプリで管理。そのデータをもとに最適な栄養成分を先述の「Drinkfinity」カプセルに調合して、アスリートひとりひとりに合った栄養ドリンクをつくり出す。

▲ ゲータレードの「Gx」システムと、「Drinkfinity」のカプセル。


スマートフォンで撮った画像がSNSですぐに共有され、そこにビュアーからの評価が加わることで、どの展示のどんな体験に人気が集まったかがすぐにわかる時代。世界各地からターゲット層の集まるデザインウィークをマーケットリサーチの場とする動きは、これからも増えていくのかもしれない。
(文/長谷川香苗)