クリエイティブディレクター 石澤昭彦氏
「ブランドとは、企業と顧客が共有できる『夢』のようなもの」

株式会社d.d.dの代表で、クリエイティブディレクターの石澤昭彦さんは大手化粧品メーカーや食品メーカーなど数多くの企業や製品のブランディングを手がけている。そんな石澤さんが自身のプレゼンテーション資料に活用しているのがAXISフォントだ。「整然とメッセージを伝えるためには最適な書体」と語る理由、また石澤さんが考えるブランディングの極意について聞いた。

「design」「definition」「destination」

d.d.dはどのような会社なのでしょうか。

もともと私が所属していたアサツーディ・ケイ(ADK)のなかにブランディング会社をつくる話があり、海外のブランディング会社で研修を積み、ADKブランドデザインという組織をつくりました。バンダイナムコ、資生堂、ポーラ、パルコ、武田薬品やKDDIといった企業のロゴマークや製品のブランディングに携わってきました。その後、2010年に独立し、より幅広い立ち位置からブランディングの仕事をしています。

d.d.dという社名の由来は、ブランディングにとって重要なdesign(デザイン) definition(定義)destination(行き先)の頭文字を取ったものです。デザインを通じてそのブランドが何かを「定義」し「行き先」を設定する、というメッセージを込めています。このプロセスが、ブランディングにとって、とても大切なのです。例えば、いまではすっかり知名度を得ている化粧品のブランドですが、「(コスメやスキンケアにとどまらず)ライフスタイルブランドである」という定義を導き出し、さらに「100万人に愛されるよりも、セレクトされた女性たちに深く愛されるブランドになる」といった行き先を決め、百貨店などだけでなく、青山にライフスタイル提案の旗艦店を出したりしています。

ブランディングのなかでクリエイティブディレクションはどのような役割を担うのでしょう。

いわゆる広告代理店の仕事は戦略立案、クリエイティブ開発から、出稿やイベント開催といった一連のプロセスが分業制になっています。僕の場合はコンサルテーションからクリエイティブまでを一括してやります。僕のところにくるのは、ネーミングやロゴ、スローガンの開発といった目的がはっきりとしたものが主流ですが、「売上がよくないので何かできないか」「社員のモチベーションが上がらない」「2つの会社が1つになったのでみんなを1つにしたい」など漠然としたオーダーであることも多いです。広告代理店やPR会社から「クライアントがブランディングと言っているが具体的に何をすればいいだろうか」と聞かれるケースもあります。そうした仕事の出口というのは、ブランドのコンセプト開発であったり、スローガンやブランドブック、ロゴマークをつくることであったり、企業広告だったり、一様ではありません。

フォントは「声色」、企画書は「呼吸」

ところで石澤さんはプレゼンテーションにAXISフォントを使用されているとのこと。それはいつ頃からですか。

10年くらい使っています。広告代理店の企画書って、たいてい太い文字と大きな図形がドーンドーンと置いてあって読みづらく、見づらく、話の流れがつかみづらいという課題意識があり、あまり好きではありませんでした。できれば雑誌のページをめくるように流れるようなかたちをつくりたい。そうした、読む人の気持ちの流れをコントロールするのも、企画書の大きな役割だと思うからです。「AXIS」のような、誌面に風が流れるようなデザインがすごく好きなんです。僕の場合、比較的長い文章を書いてお客さんを説得していくことが多いので、AXISの誌面のような雰囲気の企画書がつくれたらいいなと思って書体を探していました。あるとき、知人にAXISフォントがあると教えてもらってから気に入って使い続けています。

企画書の内容によって書体の使い分けはしていますか。

フォントっていわば「声色」のようなものだと思うんです。できるだけ理路整然と話をするようなときには、AXISフォントを使います。ウェイトはだいたいL(ライト)を使い、M(ミディアム)でアクセントをつける感じです。例えば、オーガニック化粧品の商品開発をしている人が「オーガニックのことをブランディングしながら商品の素晴らしさを伝えたい」と言ってスタートしたプロジェクトの企画書があります。ここではまずAXISフォントで理路整然と背景や主旨を説明し、特にエモーショナルに語りたいときにはリュウミン(明朝体)を使っています。

フォントが「声色」だとすると企画書は「呼吸」。企画書のなかで伝えたいことは、たいてい1つか2つなので、そこに向かってどのように山場をもってくるかを考えながらつくっています。基本的にはプロジェクターでプレゼンして、その後印刷したものをお渡しするケースが多いのですが、画面で見るときにもAXISフォントはなんとなく間があってクリアな感じがするので読みやすいですね。

フォントの「空気感」とはどういったものでしょうか。

「禅」ではないけれど、デザインの世界では「ホワイトスペース(余白)を上手に使え」と言われますが、文章の風通しをよくするとスムーズに読み進められるように感じます。できるだけ端的に事実として何かを伝えたいときには、AXISフォントを使えばクールになる。逆に明朝体だと少し温度感が出てべっとりした感じ。ですから理性的に意識の共有化を図るときにはAXISフォント、ステートメントなど共感してもらうときには明朝体といった使い分けをしています。そうそう、スローガンやキャッチコピーなど、ピシッとした感じで読んでもらいたいときにもAXISをよく使います。ある化粧品ブランドの担当者が僕の企画書を見てAXISフォントを気に入り、ブランドの基本フォントに採用したこともあるんですよ。

着たい服と似合う服

石澤さんが考えるブランド、ブランディングとは何でしょうか。

例えば、ここに社名を書いた文字があります。この文字がロゴマークに変わると、なんとなく心が動きますよね。スターバックスのロゴマークを見ると「さっき飲んでくればよかった」と思ったり、GAPのロゴマークなら「白いTシャツ」を想像したり。つまり名前やマークを見たときに人の心がポジティブな方向に動くのがブランドです。それが温かいのか、優しいのか、あるいは元気が出るのか、といった方向を定め、それに向かってブランドの態度や言葉じりをそろえていく。それがブランディングです。

高級外車に乗っている友人が「結構壊れるんですよ」となぜか嬉しそうに言う。決して身体にいい飲み物ではない炭酸飲料、決して身体能力が上がるわけではないスポーツウェア。それでも人は喜んでお金を払います。ブランドとは、企業と顧客が共有できる「夢」のようなもの。それを一貫したスタイルで届けることができれば、ブランドになれるのではないかと思います。この「夢」の部分を少なくとも企業は持っているはずなんです。僕の仕事は、それを徹底的にヒアリングして掘り起こして「(皆さんの夢は)こういうことですよね」と示すこと。そのうえでスタイルをつくるのがクリエイティビティです。そのため仕事ではヒアリングや信頼関係がひじょうに重要になってきます。

なぜ信頼関係が必要なのですか。

ブランディングの仕事ってコンセンサスづくりなんです。同じ会社で働いていても「自分の会社はこうだ」と思っている内容は人によって違うので、コンセンサスを取ることはとても大事です。かといって皆さんが思っていることの真ん中を探すことが必ずしも正解ではありません。よく「着たい服と似合う服」と言うのですが、「それは似合わない」「時代からズレていますよ」とコーディネートしながらコンセンサスを取っていくことが重要なんです。

そのあたりですごく時間がかかります。ネーミングやロゴマークの開発だとだいたい3カ月くらいのプロジェクトになります。最低でもそのくらい時間をかけて説得しないと社内で不満を持つ人が出てきてしまう。もし不満を持つ人がいたら徹底的に話して、その人の考え方を汲み取るしかありません。

クライアントとよい関係を築くためにアドバイスはありますか。

できるだけ「聞き役」に徹すること。それから物理的なことですが、意外に重要なのは第一印象なんです。清潔な服を着る、爪を切るといった細かいところも大事だと思います。茶道にも型があるように、かたちには理由があり、まずそれに取り組むことによって中身も次第に整っていくのだと思います。日常生活でも同じで、中身が整ってくると「話を聞いてもらえる人」になれるのではないでしょうか。

プロジェクトでコラボレーションするクリエイターたちとの信頼関係についてはどうでしょうか。

コラボレーションするデザイナーとは、フォトセッションみたいなことをやります。以前にワールドワイドで展開する化粧品ブランドのコンセプトをつくる際、パリのクリエイターチーム「エアー」と、数十のキーワードに対して、イメージフォトでやり取りするというワークショップをやりました。例えば「活気がある」と言っても、個人のとらえ方によって全く印象が変わります。だから絵を見て「これはあり」「これはなし」ということを延々とやって、言葉だけではない感覚を共有しながらブランドの向かうべき方向を固めていくのです。それがとても有効だったので、デザイナー間の意識統一を図るためにフォトセッションをやることが多いですね。

今後、どんな仕事をしてみたいですか。

ブランディングって広い意味で「ありたい姿」にできるだけ近づいていくことだと思うんですよ。そしてその姿をできるだけ周りの人に理解してもらい、よい関係性を築いていくこと。だとすると僕がビジネスでやっているブランディングの手法を個人にあてはめてみたら、なんらかの助けになるかもしれない。そう考えて今「パーソナル・ブランディング」の書籍を執筆しています。本に沿って自問自答しながら自分にとって大切なものを発見していくような内容です。

「自分のありたい姿」がはっきりしていると、心のなかで葛藤が生まれたときやいざというときに何を大切にすべきかがすぐにわかる。服や髪型についても、表層的にではなく意識して選んでいくような人が増えれば社会も少し良くなるのではないか。そんな希望を持ちながら取り組んでいます。

ありがとうございました。

石澤昭彦/クリエイティブディレクター、ブランディングプロデューサー。1995年Duke University School of Law卒業 。その後旭通信社(現 ADK)入社。2000年ADK Brand Design設立に携わる。2010年ブランディング・クリエイティブエージェンシー「d.d.d」を設立。企業や商品、サービスのブランド開発のためのコンサルテーションからクリエイティブ開発、インターナルコミュニケーションのプロデュース、ディレクションまでを一貫して行っている。

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