第6回 メディアアーティスト 落合陽一氏
「魔法の世紀のフォントとは?」

AXIS180号の表紙インタビューに登場いただいた落合陽一さんは、1987年生まれの若き研究者にして、気鋭のメディアアーティスト。2015年から筑波大学助教に就任し、現在、デジタルネイチャー研究室を主宰している。研究論文はシーグラフなどの国際会議で発表し、CGやコンピュータサイエンスの学会誌にも掲載されている。メディアアーティストとして発表した作品は、アルス・エレクトロニカやシーグラフ・アート・ギャラリーをはじめとして、各地で高い評価を受けている。2015年に刊行した『魔法の世紀』では、20世紀から21世紀への情報技術の急速な変化を、「映像の世紀」から「魔法の世紀」への移行と分析。このパラダイム転換は大きな話題を呼んだ。

プレゼンテーション用の資料などでAXISフォントを使っていただいていると聞きました。

大学生の頃から愛用しています。学生時代って、自分なりに制作環境を整えていく時期じゃないですか。ちょうどアドビからCreative Suite 3(CS3)が発売されたころで、当時、CS3のアカデミック版は10万円前後でしたが「この値段なら、買っちゃえ!」と思って買いまいた。AXISフォントも同じタイミングで購入したんです。

CS3が出た後というと、2008年頃でしょうか。

そうですね。だから、もう8年くらい、AXISフォントを使いまくっています。

落合さんのプレゼンテーション資料より

どうしてAXISフォントを選んでいただいたのでしょうか。

資料をまとめたり、論文を書いたりするときは、カタカナ用語がものすごく多くなるし、英語もどんどん入ってくるんです。だから、和文と欧文のバランスが悪いと、全体としての見た目も悪くなる。その点、AXISフォントは、和文と欧文のバランスが、ちゃんと考えられている。横書きでどんどん書いていっても、ストレスを感じることがない。いまはKeynoteでプレゼン資料をつくることが多いのですが、論文を書いたり、リーフレットをつくったりするときは、Illustratorに直接、テキストを打ち込んでいます。どちらにしても、横組みに最適化されているフォントだと思います。

「横組みに最適化されている」と感じた理由はどのあたりですか。

文字間のバランスです。文字と文字のスペースが、空きすぎてもいないし、詰まりすぎてもいない。文字の「かたち」そのものもきれいですが、文字と文字の「間隔」もきちんと設計されている。AXISフォントを使う前は、モリサワのリュウミンや新ゴが好きだったんです。どちらもきれいな書体ですが、ただ、どうしても“太い感じ”が気になってしまって。AXISフォントの良さは、ライトウエイトが充実しているところ。シュッとしていて、カッコいいんですよね。今、ぼくが持っているのはベーシックで、以前はR(レギュラー)とL(ライト)を使っていましたが、ここ最近は、EL(エクストラライト)とUL(ウルトラライト)ばかり使っていて。どんどん細くて軽さのあるほうにシフトしています。

縦長の画面に合う書体

落合さんの好みに止まらず、ウェブやSNS関連の画面設計を見ても、その傾向は強まっています。

このところ、スナップチャットでのコミュニケーションのあり方を観察しているのですが、スナップチャットを見るかぎり、今後、SNS上の展開として、おそらくベーシックのELやULですら、対応できなくなる世界がやってくるんじゃないかな。僕自身、コンデンス(長体)コンプレス(超長体)が猛烈に欲しくなっていますから。

スナップチャットは10代に支持されているチャットアプリですね。アメリカでは大人気で、日本でも盛り上がりの兆しが出ています。

スマートフォンの画面って“縦長”ですよね。20世紀の映像って、映画からテレビ、あるいはYouTubeの投稿動画まで含めてもいいと思いますが、エジソン以来、ずっと“横長”の画面で見るのが当たり前だった。けれども、スマホはその常識を変えようとしている。スナップチャットは、そうした流れを象徴する最新の事例だと思っています。どういうことかというと、画面自体が縦長になると、UIの設計も縦長の画面という外枠が基準になっていくんですね。文字情報に関して言えば、スマホはすべてが横書きスタイルですから、横方向に文字列をぎゅっと詰め込むかたちになる。そうなってくると、重いウエイトより軽いウエイトのほうが、さらにいうと、正体のフォントより長体のフォントのほうが、文字情報を盛り込めるわけです。

「ベーシックのELやULですら、対応できなくなる世界」というのは、こうした状況を踏まえてのことなんですね。

ええ。コンデンスやコンプレスが欲しいというのも、そういうことです。いまのところはベーシックが、それこそベーシックなものだと認識されていますが、スナップチャット的な世界観がさらに一般化すると、コンデンスやコンプレスがデフォルトになるんじゃないかとすら思っています。スナップチャットに代表される縦長の画面配置ばかり見ていると、正体のフォントや横長のレイアウトが時代遅れのものに見えてくるんですよ(笑)。まあ、これはちょっと特殊な事例ですが、今後、UIを考えるうえでは、いろいろヒントを与えてくれます。

解像度とコントラスト比の高さが、ウルトラライトを標準化する?

細いフォントや軽いフォントが好まれる背景には、デザインエンジニアの美意識やユーザーの感受性だけでは語れない、もっと大きな地殻変動が感じられます。

僕たちが暮らしている社会の基盤は、テクノロジーの進化に左右されることが多いんですよね。むしろ工学的な技術革新が、コミュニケーションに変化をもたらして、その結果、感受性や美意識も変わっていくと考えたほうがいい。こうした視点からフォントのあり方を眺めると、やはりハードウエアやソフトウエアという技術的側面に規定されていることがわかります。つまり、ディスプレイの解像度とコントラスト比が高くなれば、文字が細くても、視認性は保たれるんですよ。ある時期から、アップルのUIがフラットになりましたが、あれはRetinaディスプレイが普及して、細い文字でもきちんと認識できるようになったからでしょう。その影響で、多くのユーザーは、そうしたデザインがクールでカッコいいと受け止めるようになっていった。これはアップル一社に限った話ではなく、いまや一般的なモニターですら、ハイビジョン並みの解像度を備えていますからね。なので、現時点での結論としては、AXISフォントのように、ファミリーが充実していて、エクストラライトやウルトラライトを備えている書体には、十分な勝算があるのではないでしょうか。

パソコンやスマホ、あるいは一般的なモニターやスクリーンは「ディスプレイ」という外枠がありますよね。例えば、将来、VRが普及した場合、また状況は変わっていくのでしょうか。

縦・横の制限がなくなった場合は、「縦長の画面設計に対するコンデンスやコンプレスの優位」もなくなります。そうなってくると「視認性の高さ」だけが問題になるので、今度は逆に、正体が優位になるかもしれません。ただし、ウエイトは軽いものが支持される気がします。というのも、さっき言ったように、解像度とコントラスト比の高さは、いま以上に進化しているはずなので、そういう環境下だと、細くて軽い文字のほうがパキッとした印象になるんですよ。現状のディスプレイですら、すでに「紙よりもコントラスト比が高い」状態ですからね。

落合さんのプレゼンテーション資料より

「魔法の世紀」における文字情報の意味

「紙よりもコントラスト比が高い」というのは、フォントを考えるうえでもキーワードになりそうですね。

実際、白と黒のダイナミックレンジを考えてみると、紙の場合「黒 < 白」程度だったのが、有機ELディスプレイの場合「真っ黒 < 黒 < 白 < 真っ白」といった感じで、ぐっと広がるはずです。つまり、ダイナミックレンジの幅が、ウエイトを決めていく。歴史を振り返ると、20世紀の金属活字や写植は「紙に印刷すること」が基準でしたが、21世紀のデジタルフォントは「ディスプレイに表示すること」が基準になるのは間違いない。その一方で、現状を見てみると、ファッションブランドや各種メーカーのロゴタイプは、いまのところ、コンデンスやコンプレスを使ったものは、まだ主流ではない。理由は単純で、ロゴタイプはディスプレイだけで表示するものではなく、印刷媒体にも使用するという前提があるからです。だから、ほとんどのロゴタイプは正体をベースにデザインされている。けれども、この先、あらゆるものがディスプレイの外側にしみ出す時代が来れば、こうした傾向もガラッと変わるかもしれません。

ちなみに、フォントは「文字で伝達する」という前提があるからこそ、存在意義があるわけですが、スナップチャットやLINEを使いこなしている世代のコミュニケーションでは、画像や絵文字、LINEのスタンプといったもの、つまり「文字以外の伝達要素」が重要なツールになっているという印象を受けます。

おまけに、文字でやりとりしていたとしても、ほとんどが喋り言葉ですしね。ただし、最も効率的に情報を伝達するには、文字情報がいちばんなんですよ。結局、テキストとしていったん外部化して、他者と共有できるかたちに整えるというプロセスを通さないと、人間は物事を理解できないからです。認知の仕組みがそうなっている以上、文字情報の優位性は、相対的に低くなることはあっても、絶対的には変わらないと思います。文脈は異なりますが、ここ10年ほど、モーションロゴが普及すると言われつつ、実際にはそうなっていない。可能性があるにもかかわらず、あまり支持されていないのはなぜなのか。それはけっこう気になっています。明確な仮説を立てるまでには至っていませんが、いま、ふと感じたのは、やはり文字情報は静止したままのほうが認識しやすいのかもしれないということ。これは今後の研究課題ですね。

AXISフォントに限らず、今後、書体のあり方も変化していくと思いますか。

洋服でも時計でも何でもいいのですが、好きなブランドって、人それぞれあると思うんです。それと同じように、「好きなフォント」があってもいい。ぼくはAXISフォントを使っているわけですが、この「AXISフォントを使っていること」が、結果として、ぼくのパブリックイメージをかたちづくっている。むしろ「どんな洋服を着ているか」「どんな音楽を聴いているか」という属性以上に、文字の選択にその人らしさが出たりもする。近い将来、そんな時代がやってくると思うんですよね。

落合陽一/1987年東京生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程を飛び級で修了し、2015年より筑波大学に着任。コンピュータとアナログなテクノロジーを組み合わせ、新しい作品を次々と生み出し「現代の魔法使い」と称される。研究室ではデジタルとアナログ、リアルとバーチャルの区別を越えた新たな人間と計算機の関係性である「デジタルネイチャー」を目指し研究に従事。音響浮揚の計算機制御によるグラフィクス形成技術「ピクシーダスト」が経済産業省「Innovative Technologies賞」受賞。その他国内外で受賞多数。15年ワールドテクノロジーアワードのITハードウェア部門受賞。
http://digitalnature.slis.tsukuba.ac.jp

AXISフォントは和文フォントとしてはじめて、EL(エキストラライト)、UL(ウルトラライト)、というウェイト(文字の細さ)を展開しました。ウエィトの充実化とともに、視認性が高くクセがない、明快でスマートな表現を可能にします。

ベーシック(正体)を変形させるのではなく、初めから長体で設計されたコンデンス(長体)とコンプレス(超長体)。限られたスペースで、美しい文字組が可能です。

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