第10回 日本デザインセンター・荒井康豪さん
「サブカルチャー的なスタンスで面白がる」

荒井康豪さんは、日本デザインセンターで企業ブランド構築をメインに、クリエイティブ全般を手がけるアートディレクターです。荒井さんのデザインワークの中でも、やや異色とも思える仕事がフリーペーパー「サブカミチャー」。発行元は紙の専門商社である ヤマト。紙の視点でサブカルチャーを捉えるというコンセプトで制作され、ヤマトのブランディング戦略としても機能する造りになっています。

創刊号は、紙という素材が持っている魅力と可能性に気づいてもらうべく、A3という大型サイズを採用。笑いを誘うコンテンツとポップなエディトリアルデザインは新しい動きを予感させてくれます。とくにデザイン上の遊びは秀逸で、文字組における可読性とグラフィックとしての喚起力、この両者の衝突と調和が誌面全体に溢れ、紙媒体ならではの自由さを感じさせてくれるのです。タイポグラフィの可能性を追求しようという試みの中、さまざまな書体や文字が動員されていますが、ここでひときわ目立つ使われ方をしているのがAXISフォントです。

荒井康豪さん。日本デザインセンターのライブラリーで。

紙という価値、メディアとしての力

——「サブカミチャー」創刊号を拝見しました。インタビューや記事など、内容面が楽しいのはもちろんですが、テキストに目を通す以前に、視覚的なインパクトもものすごく大きいですね。エディトリアルデザインの自由さに目を奪われました。

ありがとうございます。ヤマトは「イメージを、メッセージにする」というテーマを掲げているので、「サブカミチャー」に関しても、誌面イメージが紙の魅力に結びつくようなものにしたいと考えました。「紙っていいね!」「紙っておもしろい!」「紙って、まだまだ可能性があるんじゃない?」というメッセージを、言葉で直接語るのではなく、楽しみながらページをめくっていくうちに、体験として感じとってほしかったんです。

フリーペーパー「サブカミチャー」
A3判サイズ。中綴じのステープラー止めなしなので、開くとA2 判の紙5枚となる。それぞれ異なる種類の紙に、異なる加工が施されている。

——かつて、マーシャル・マクルーハンが指摘した「メディアはメッセージである」の実践とも言えますね。

手ざわりや風合いのように、紙は感覚に訴えかける素材ですから、その魅力を伝えるなら、ページをめくる体験そのものも感覚的なほうが絶対にいい。ですから、真面目な姿勢ではなく、サブカルチャー的なスタンスで編集しています。紙とサブカルチャーということで、そのまま「サブカミチャー」という誌名になりました(笑)。

——そうした編集方針を反映して、みうらじゅんさんへのインタビューも、巻頭なのにエロスクラップについての内容ですね(笑)。ある意味、広報誌のような役割もあると思うのですが、これを許容したヤマトの懐の深さや器の大きさを感じます。

ありがたいことに、何も言われなかったんです。むしろ、担当の濱口 哲さんという方が面白がってくれて。というよりも、濱口さん自身、ちょっと変わった方なんですけど(笑)。おかげさまで、ヤマトの社内でも好評のようです。

OKミューズガリバー(紙の銘柄)のキャンペーンのためのノベルティーグッズ「ガリバー旅行記」。

——このインタビューで、みうらさんは「最近、世の中はどうかしてなさ過ぎて、つまんないですよね」とおっしゃっていますが、サブカミチャーはまさに正反対。読んでいて「どうかしてるよ!」とツッコミたくなる仕上がりです(笑)。ちなみに、ヤマトとは、他のお仕事もなさっていたのでしょうか。

紙のブランド「OKミューズガリバー」の年間キャンペーンのために、ノベルティグッズを制作しました。コンセプトは『ガリバー旅行記』。ガリバーが航海先から持ち帰ったものというテーマを設けて、いろんな紙製品をつくりました。例えば、馬の国だったら蹄鉄紙クリップといった具合に。

——サブカミチャー同様、こちらもインパクトが強いですね。

紙の場合、視覚や触覚に訴えかける工夫が必要です。OKミューズガリバーは高級印刷用紙なので、その特性を引き出すために、特色印刷や特殊加工を施しています。そうすることで潜在力が引き出せるんですよね。

サブカミチャーの基本フォントは AXISフォントコンプレス。

AXISフォントをあえて縦組みで

——サブカミチャーで驚いたのは、AXISフォントの使い方。和文コンデンスを縦に組むという斬新なアイデアに衝撃を受けました。

ですよね(笑)。本来は、横組みを想定して設計された長体の書体だということは、いちおう知っています。

——良い意味での野蛮さに、それこそ「どうかしてるよ!」と思ってしまいました(笑)。しかし、書体の可能性が一気に広がった印象を受けますし、エディトリアルデザインの自由度を拡張する試みのようにも見えます。

もともと、AXISフォントは好きな書体だったんです。コンデンスやコンプレスが登場したときは、びっくりしたと同時に、うれしくなりましたね。欧文と同じ考え方で設計された和文書体なんて無かったわけですから。「ようやく使える長体が出た!」と思いました。

——どのあたりが「使える」と感じたのでしょうか。

機械的に長体をかけると、文字そのもののバランスが崩れることが多いと思うんです。そうなると見栄えが悪くなって、結果的にデザインのクオリティも下がってしまいます。その点、コンデンスの場合、字形や字幅のディテールが考慮されていますから、デザインをするうえで、余計なストレスを感じることがない。AXISフォントのファミリーとしても統一感がありますし。普通に文字を組んでいけば、自動的に美しい並びになってくれる。そういうきめ細やかな設計思想に惹かれています。

和文コンデンス独自のニュアンス

——AXISフォントは、印刷物/デジタルメディア、縦組み/横組み、和文/欧文といった区分を、さほど意識せずに使えるものを目指しています。とはいうものの、和文コンデンスや和文コンプレスに関しては、どちらかといえば、横組みを想定して設計した書体です。

コンデンスやコンプレスは、機能性を突き詰めたからこそ、生まれてきたものですよね。字形を圧縮することで、横方向に文字をぎゅっと詰め込むことができるわけですから。サブカミチャーでは、それを知ったうえで、あえて縦組みで使っています。これは「サブカルチャー的なスタンスで面白がる」という編集方針の反映で、「ちょっと変わった感じ」を出したかった。

——実際、大いに成功していると思います。

縦組みにしてみて感じたのは、ちょっと変わっているけど、別に読みにくいわけではないということです。掟破りの使いかたなのに、さすがAXISフォントだと思いました(笑)。

——ありがとうございます。それにしても、山ほどある書体の中から、なぜここでAXISフォントを選んだのでしょうか。

単純にAXISフォントが好きだったからです。

——サブカミチャーの表紙には、「ど! どうしようもないよ。好きなんだから。」とあります。同じように、荒井さんのAXISフォントへの愛情が、こうした事態を引き起こしたわけですね(笑)。

それは本当にそのとおりで、好きなんだから、どうしようもない(笑)。コンデンスやコンプレスは、機会があれば使いたいと、いつも思っていますからね。書体としては、すっきりしていて気持ちがいいんですけど、長体という特性がある分、独特のニュアンスを持っているじゃないですか。だから、機能性というより、造形的におもしろくて。風呂敷のパッケージで使ったこともありますよ。

中央区観光協会とのコラボレーションから生まれた「ふろしき」。外国人向けの商品に、あえて江戸文字ではなく AXIS フォントコンデンスを用いた。

——風呂敷ですか!

中央区観光協会とのコラボレーションで、風呂敷の老舗「宮井」が製造・販売を、日本デザインセンターがアートディレクションを担当する「JAPAN FIRSTS」という企画があって。中央区は、江戸期から明治にかけて日本の中心を担ってきた地域で、ここが発祥の地というものもけっこう多いんです。例えば、カツカレーや公衆電話ボックス、万年筆の輸入販売……。そういったものをアイコン化して、風呂敷の全面にレイアウトしたのですが、そのパッケージデザインでコンデンスを使いました。

——アウトラインを使って、白抜きにしているせいもあるのでしょうが、既存のコンデンスのイメージとはまったく違う印象ですね。とても新鮮です。

ここは勘亭流のような江戸文字じゃないよね、という判断です。中央区の先進性を表現するために、モダンな感覚が欲しくて。

グラフィカルな実験として文字組を考える

——荒井さんが在籍している日本デザインセンターは、代表を務める原 研哉さんのイメージもあり、デザインへの原理的な関心が強いようにも感じます。そうした社風から考えると、サブカミチャーは、ちょっと異色です。

私見ですが、デザインの流れは、いま、大きく2つに分かれている気がするんです。1つはアカデミズムの方法論でデザイン思考を突き詰めるやりかた。もう1つは、市場戦略上、機能性や即効性だけが求められる方向性。

——どちらも、デザインをデザインたらしめてきたもの、つまり意匠性はあまり重視されていないように感じます。

だからサブカミチャーでは、グラフィック表現の強度ということを、かなり意識しています。内容的にはけっこうふざけていますから、当然、アカデミックなアプローチではないし、問題解決型のデザイン要素もまったくない(笑)。けれども、これはこれで、ものすごく実験的な試みだと自負してもいます。

「文字のようなもの」で構成したグラフィック作品。遊びの作品にこそグラフィックデザイナーの技量が現れる。

——エディトリアルデザインの歴史を振り返ると、杉浦康平さんによる「遊」、戸田ツトムさんによる「GS」、佐藤直樹さんによる「日本版 WIRED」、あるいはここに、祖父江 慎さんが関わった「i-D JAPAN」を加えてもいいかもしれませんが、印刷技術の進展に応じて、実験性に富んだ試みがいくつも行われてきました。いずれもグラフィカルであると同時に、既存のタイポグラフィへの挑戦にもなっていた。サブカミチャーにも、こうした系譜に連なる感覚が潜んでいるように見受けられます。

僕自身の原風景というか、デザインの体験として、ポスターや雑誌のような紙媒体から刺激を受けた部分は大きいんですよね。個人的なケーススタディとして、実験的な文字組を発表したこともありますし。デジタルメディアの隆盛は喜ばしいことだし、まだまだこれから発展していく領域だとは思いますが、その一方、紙メディアの未来を考えるのも面白いことだと思うんです。サブカミチャーの制作を通して実感したのは、コミュニケーションツールとしての可能性ですね。印刷されることで、文字や書体というものが、力強さをもって迫ってくることがわかります。

——ディスプレイに慣れた目には、紙やインキといった物質性に支えられているからこそ、文字の表情が新鮮なものに見えるのでしょうね。次号の刊行はいつ頃ですか。

ちょうど今、制作真っ最中で、4月刊行予定です。今後は春と秋をめどに、年2回を予定しています。ゆるい感じで期待してもらえればと(笑)。

−−楽しみにしています。ありがとうございました。

荒井康豪/アートディレクター・グラフィックデザイナー。1974年生まれ。2003年より日本デザインセンターに在籍。主に企業のブランド構築のためのクリエイティブを展開。並行して実験的なグラフィック作品の制作・発表を行う。これまで、ONE SHOW DESIGN金賞・銀賞、D&AD銀賞、ニューヨークADC銀賞などを受賞。
www.yasuhidearai.com

AXISフォントは和文フォントとしてはじめて、EL(エキストラライト)、UL(ウルトラライト)、というウェイト(文字の細さ)を展開しました。ウエィトの充実化とともに、視認性が高くクセがない、明快でスマートな表現を可能にします。

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