アーツ前橋「コンセプチュアルなオリジナルフォントを生かすサイン計画」

▲Photo by Toshiyuki Udagawa

もともと百貨店だった建物を白いパンチングメタルでおおった個性的な外観。市民にひらかれた美術館を目指して2013年に開館したアーツ前橋は、現代美術をメインにした展覧会と地元を巻き込んだバラエティ豊かなプログラムで親しまれています。そんな同館の案内表示やパンフレットなどさまざまなところでAXISフォントが使われているとのこと。「つながるデザイン」をコンセプトに掲げたアーツ前橋のVIのなかでフォントが担う役割とは。

アーツ前橋の住友文彦館長と同館のVIを担当したブランディングデザイナーの西澤明洋さん(エイトブランディングデザイン)に話を聞きました。

市民にひらかれた美術館にふさわしいロゴとは

ーーアーツ前橋の成り立ちと特徴を教えてください。

住友
アーツ前橋は2013年10月に開館してちょうど4年になります。もともと百貨店だった建物を市が買い取って、旧本館の建物に中央公民館や専門学校、子ども図書館、こちら側の別館に美術館と映画館を入れるかたちでリノベーションしました。

展覧会、教育普及、作品収蔵という美術館としてのオーソドックスな機能はほかの美術館と変わらないのですが、独自のコンセプトとして「1.創造的であること 2.みんなで共有すること 3.対話的であること」を掲げています。展覧会の構成は現代美術が7割、近代以降のものが3割くらいですが、展覧会以外にも海外アーティストの滞在制作や子ども向けのワークショップといったプロジェクトにも力を入れているのが特色です。

▲遠くから見ても、その個性的な外観が際だっているアーツ前橋。 photo by Toshiyuki Udagawa

ーーどのように建築プロジェクトを進めていったのですか。

住友
2010年に前橋市が美術館の基本計画をつくった後、私と学芸員が採用されて準備を進めていきました。建物先行ではなく、建築家やデザイナーも交えて最初にソフトから考えようと提案したんです。館のコンセプトをつくる際にも市民や地元のアーティストなどさまざまな人々を呼んで対話型のワークショップを重ねていきました。そこに集まってくれた人たちが、実は今も登録者としては100人くらいいて、サポーターとして館の運営を手伝ってくれているんです。

ーー西澤さんも早い段階からプロジェクトに関わっていたのでしょうか。

西澤
建築のコンペで水谷俊博建築設計事務所の案が採用されるとすぐ、水谷さんから「建築と一緒にVIのデザインを進めていきたい」とお誘いがありました。僕らはブランディングデザインを専門にしているので、単純にロゴをつくって終わりではなく、デザインの方向性をいかに言語化し、ビジュアルやサイン計画に落としていくのかを考えながら参加していました。

アーツ前橋の魅力はなにかと考えたとき、市民にひらかれたプログラムや、既存建物のファサードをパンチングメタルの外皮として囲って内部の壁を取りはらい、回遊していくような動線計画を見て外にも中にも「つなぐ」建築のコンセプトがおもしろいと感じたんです。そこから、パンチングメタルの穴にチューブを通して「点と点とつなぐ線」でロゴをつくるというアイデアが出てきました。

▲回遊性に優れた動線を持つ館内。 photo by Toshiyuki Udagawa

▲アーツ前橋のロゴ。背景にドットが敷かれ、その穴に紐を通すように文字がつくられている。

住友
正直、どこまで高い解像度で文字をつくれるんだろうって思ったけれど、建物と一体化しているというコンセプトがとてもおもしろく感じましたね。

西澤
初期の頃、住友さんが「美術館は絵を展示するだけでなく、市民によるワークショップがもっとあってもいい」と仰っていて。そうしたクラフトみたいなイメージをデザイン側でも受け取っておいたほうがいいのではないかと思ったんです。また、VIのデザインであると同時に、仕組みのデザインにもしたかった。そこでパンチングメタルの板を館内にも設置して、その穴に紐を通して原始的にオリジナルフォントをつくるというサイン計画を考えました。

住友
拡張性のあるデザインですよね。美術館の活動って時代に合わせて変わっていけることが大事だと思うので、それが反映されているのがよかった。

▲photo by Toshiyuki Udagawa

▲館内の案内表示やサイン。

▲プレオープン時には、ダンボールに穴をあけて紐を通し、好きなモチーフを描くワークショップも行った。

個性的なロゴと相性のいいAXISフォント

ーーそうしたビジュアルデザインのコンセプトをつくったうえで、なぜAXISフォントを採用したのでしょう。

西澤
このロゴとオリジナルフォントが出てきたときに、自然に「相性がいいのはAXISフォントだよね」となりました。基本的に点と点を結んだ線だけでできているので、その線の美しさや遊び心とケンカすることなく、ニュートラルで軽やかな書体が望ましい。AXISフォントはベーシックだけど堅苦しくなくて、やわらかくてやさしい印象。市民にひらかれている、というキーワードにも合っているように思ったんです。

▲総合案内のオリジナルフォントと並ぶ説明文にはAXISフォントを使用。 photo by Toshiyuki Udagawa

ーー具体的にはどのようなところでAXISフォントを使っていますか。

西澤
エントランスの案内表示や、美術館のパンフレット、展示室や図書コーナーのインストラクションや注意書き……本当にあらゆるところです。

▲さまざまなところに使われているAXISフォント。 photos by Toshiyuki Udagawa

住友
展覧会の出品目録やキャプションパネルもAXISフォントですね。展覧会の基本的なグラフィックデザインは外部のデザイナーさんがつくりますが、こうした資料のようなものは館のスタッフがAXISフォントでつくっています。

▲photo by Toshiyuki Udagawa

西澤
最初の段階で「館でAXISフォントを導入してください」とお願いしたんです。館内の案内や表示は日々の運営のなかで更新されていくものですから、それをすべて外部のデザイン会社が対応するのは無理がある。館の人たちがいつでも使えるように導入していただきました。

ーーそれで館内がすっきりした印象なのでしょうか。オープン時はきれいなのに、数年経つとバラバラなフォントの注意書きが乱立していてびっくりするような施設もあります。

住友
公共施設を利用する人は高齢者や障がい者も多いので、行政としてはとにかく対応するためにいろいろ貼り紙しちゃうんですよね。

西澤
施設のサイン計画って、デザイナーとしてはこだわりたいところ。ただ気合の入れ方を間違えると運用者の手に余っちゃう。きっとはじめは何もなくてすっきりした状態を意図してつくるんだと思いますが、後から使い勝手が悪くなってみんながどんどん変えてしまうんです。サイン計画は運用のしやすさについても考えることが大切です。

▲photos by Toshiyuki Udagawa

点と点がつながり、まちの活性化へ

ーー開館から4年、改めてプロジェクトについて感じていることを教えてください。

西澤
今回のプロジェクトで求められていたのは、市民にひらき、いろいろなものをつなげる、というやさしくておおらかなクリエイティブだと理解したので、それを体現するために最適なデザインをつくりました。でも僕らはこれを単なるロゴのデザインというよりは、お客さんが展示室に入る前に期待感をもってくれるような、1つの展示作品として手がけたところがあります。

普通は、こんな突起物があると公共施設としては「切れたらどうする」といったリスクばかり考えてしまうものなんですよ。皆さんに理解してもらえたのは美術館ならではの寛容さだとありがたく思っています。

住友
クルマ社会によるドーナツ化現象が起きて、商店街のシャッターが閉じ、百貨店も出ていった。そこに美術館をつくることでなんとかしようという多くの人の思いがありました。4年経って、その効果が目に見えてきた。実際、市が持っていた建物を改装して滞在制作のスタジオにして、そこで制作しているアーティストと商店街が交流したり、地元のアートシーンがつくられてきたなと感じます。

現在開催中の言葉と詩をテーマにした展覧会も、歩いて3分ほどのところにある前橋文学館と共同開催しているもの。このような連携は今まで例がなかった。まさに「点と点がつながる」というコンセプトが、さまざまなかたちで体現されていると実感しています。

▲展覧会展示風景。取材時に開催されていた展覧会「ヒックリコガックリコ ことばの生まれる場所」(2017年10月20日(金)ー2018年1月16日(火))は、アーツ前橋と前橋文学館の共同企画展。photos by Toshiyuki Udagawa

ーーありがとうございました。

アーツ前橋

開館時間
11時~19時(入場は閉館時間の30分前まで)
休館日
水曜日
所在地
群馬県前橋市千代田町5-1-16
URL
http://artsmaebashi.jp/

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