映画1本分の魅力を1枚のビジュアルで表現する
グラフィックデザイナー 三堀大介さん

▲有限会社サイレン グラフィックデザイナー/代表取締役 三堀大介さん。

「仕事の半数は、映画のビジュアルにまつわる」と語るのはサイレンの代表取締役で、グラフィックデザイナーの三堀大介さん。2時間ほどの鑑賞体験を1枚のポスターやチラシに表現するという仕事は、高度な専門性と経験が求められる。大ヒットとなったアートドキュメンタリー映画「ハーブ&ドロシー」では、パンフレットの文字組みにAXISフォントを使用。「ターゲットを明確に絞り込む」と話す三堀さんが、AXISフォントを採用した狙いとは?

――映画、舞台、テレビ、展覧会といったジャンルのグラフィックデザインを多数手がけています。

僕はもともとパルコの関連会社にいて、ギャラリー、美術館、映画館といったエンターテインメント、サブカルチャー関連の文化施設があったので、それらのグラフィックデザインを手がけてきました。10数年前に独立してからも、決して映画専門のデザイン事務所というわけではないのですが、仕事の半分以上が映画関連のデザインですね。

――映画ポスターは、他のグラフィックデザインと違いますか。

デザイナーとして映画の仕事をする場合、デザインにまつわる部分はすべて関わることになります。最初にキービジュアルとタイトルロゴをつくり、マスコミ試写向けの印刷物、それを拡張して劇場パンフレットに。さらに新聞・雑誌や屋外広告。予算がある場合は2種類以上ポスターをつくることもありますし、公開されてからも追い込みで新聞広告を打つことも。最後は、DVDやブルーレイのパッケージですね。というわけで、1本の作品に対して半年から1年くらいは関わることになります。映画業界独特の商習慣もあるため、デザイナーの専門性は高まっていく傾向にあります。

▲佐々木芽生監督によるアートドキュメンタリー「ハーブ&ドロシー」。一作目は数多くの映画賞を受賞。東京では、半年におよぶロングランとなった。一作目と続編のパンフレットにてAXISフォントを使用。

新しい“ジャンル感”をつくる

――映画「ハーブ&ドロシー」の一作目と続編のビジュアルを手がけました。記録的な大ヒットになり、アートドキュメンタリーという新たな映画のジャンルを築いたようなインパクトがありました。

これは日本人の女性監督が撮ったドキュメンタリー映画ですが、日本では配給会社がつかず、自主配給チームをつくって取り組んだプロジェクトです。当時はまだ、お金を払ってドキュメンタリーを観るという文化がなかった。成功して、アートドキュメタリーという文化そのものをつくったような達成感がありましたね。

――ポスターやパンフレットのデザインで気をつけたことはありますか。

僕らは「どんなターゲットに対してどんなジャンルの映画としてとらえてほしいか」という指針がなければデザインができません。今回は「アートドキュメンタリー」と聞いたときの高尚なイメージではなく、どこにでもいる夫婦の愛情物語としても受け取れるような、親しみやすさを伝えたかった。映画に主役であるコレクター夫婦は決してお金持ちではなく、自ら買える範囲でアート作品を購入し、それがやがて目利きとして知られるようになった。皆さんの身の回りでも起こり得るような感じで、とにかく敷居を下げることを意識しました。

▲第二作「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」のパンフレットより。

――その「ハーブ&ドロシー」のパンフレットでAXISフォントを使っています。

映画ポスターのデザインって、“ジャンル感”をうまく匂わせながら紹介するところがあります。アクション映画には独特のトーン&マナーがあるし、金色の立体文字を見れば「ハリー・ポッター」や「ロード・オブ・ザ・リング」といったファンタジー映画の匂いを感じますよね。
「ハーブ&ドロシー」のパンフレットでは、本文の文字組みにAXISフォントを使いました。当時は予想していませんでしたが、映画が大ヒットして、パンフレットもとても売れて増刷しました。続編もAXISフォントを使いました。

――なぜAXISフォントだったのですか。

やわらかくポップでありつつ、知性的なところ。映画のイメージとぴったり合っていました。AXISフォント以外は考えられなかったですね。もともと誌面の文字組みのために開発されているので、ベースの設計がしっかりしているところも魅力でした。

▲第二作「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」のパンフレットより。

ターゲットを絞り込み、その人に伝わる言葉に翻訳する

――ところで三堀さんは、デザインの作業に入る前に映画作品を観ますか。

基本的には観ますが、場合によっては本編の完成前にビジュアルをつくらなければいけないこともあります。映画のポスター作りって、プロデューサーと議論しながら削ぎ落としていく作業なんです。そこでは、製作としてのいろんな想いが入ってくるし、プロジェクトとしてもいろんな切り口があり、言いたいことがいっぱい出てきてしまう。ただ、盛りすぎると結局メッセージの弱いものになってしまうので、僕は極力削ぎ落としてシンプルにしていくことを意識しています。

――作品の内容とは全然違うビジュアルを打ち出すこともあるのでしょうか。

作品によってはありますね。映画の内容をそのまま伝えるとハードルが高くなる場合は、嘘はつかない範囲で、違う訴え方をします。例えば、自主制作映画「岬の兄弟」。この作品は映画祭で受賞したことで劇場公開を実現し、評判もとても高い、良質の作品です。ただ、かなりスキャンダラスな内容なので、そのまま伝えると拒否反応があるかもしれない。そこである種のポップな軽さに落とし込もうと、若干おしゃれに見えるようなビジュアルを意識しました。

「デッドプール」は、あまり知られていないアメコミのキャラクターが主人公。「おふざけとシモネタ満載」というイメージを刷り込まないと日本では受け入れられないと思いました。キャラクターを立たせたシンプルなビジュアルに日本各地の方言でダジャレを仕込んで、「ああ、そういう映画なのね」と認識してもらえるようにしたのです。映画の本質的な部分をストレートに説明する事例ですね。

――映画のポスターやチラシをつくるときに、特に気をつけていることはありますか。

映画のスペック紹介には寄らないようにすること。言いたいことがたくさんあっても、お客さんがそれを観たいと思うかどうかは別。「あなた」にとって感動できます、笑えます、泣けます、「あなた」が1,800円払うべき映画です、ということをいかに一瞬で伝えられるか、ということをすごく意識していますね。ラックにチラシがずらりと並んでいるなかで、お客さんは瞬時に自分に響くものを選んで手に取る。すべてのお客さんに受け入れられることは無理なので、ターゲットを明確に絞り込んで、その人に伝わる言葉に翻訳する作業なのかなと思っています。

Photo: P.MONTIGNY/FFT, C.SAIDI/FFT

――こちらは、テレビのテニス中継番組の宣伝ポスターでAXISフォントを使っています。

スポーツというジャンルでは、タイトルのフォントはなるべく太めのウェイトで力強く、というのが原則かと思います。でも僕は、すっきりとしたAXISフォントのライトを使って逆に人の目を引きつけたいと思いました。AXISフォントは印象的な感じがしつつ、読みやすいので、テキストの内容がすぐに頭に入ってくる。

――実際に使ってみていかがでしたか。

ほかの和文フォントと混在させるのが難しいフォントだな、とは思いました。見出しをAXISフォントにして、本文はほかのフォントを使うと、どうもアンバランス。一方で、ウェイトの選び方や組み方で表情が変わるフォントでもあるので、そこで調整することはできます。つくづく、不死身のフォントだな、と思っています。あと、AXISラウンドはすばらしいですね。発売された時に「これを待っていた!」と叫びたくなりました。ラウンドは、ビジュアルが明るくもなるし、シリアスな方向にも振れる。それでいて、すっきりして知性的。僕が理想とするフォントの極みですね。

▲佐々木芽生監督によるクジラとイルカ問題をテーマにした長編ドキュメンタリー「おクジラさま」。そのパンフレットではAXISラウンド50を使用。

デザインしているのは時間芸術のパッケージ

――三堀さんは、ご自分の仕事をどのようにとらえていますか。

映画をはじめ舞台やテレビ、スポーツ、展覧会など、僕がやっている仕事って、ある意味始まりと終わりがある時間芸術のパッケージなんですよ。2時間分の感動や感情を1枚のグラフィックにする仕事。なので、僕自身は、作品そのものというよりは、鑑賞者の2時間分の感情を呼び起こすようなビジュアルに興味があります。まだやったことはないけれど、音楽のポスターもやってみたいです。

――インスピレーションの源は?

子供の頃から映画は好きだったけれど、なぜか映画監督には憧れることなく、映画のポスターをつくりたいと思っていました。ずっと、ハリウッドの映画ポスターに憧れていて。要素がシンプルで、1枚の絵のような、絵画的な表現にちょっとだけタイトルのロゴが乗っているようなビジュアル。ああいうものをつくりたいですね。

――これからデザインしてみたいことあれば教えてください。

時間芸術の感情を喚起するようなグラフィックをずっとやってきているので、この経験やノウハウをエンターテインメントとは違うジャンルに転用できないかな、と考えています。例えば医療介護や地方自治体など異業種のジャンルに、エンタメのジャンルで培ったデザインを応用できたらいいな、と。ビジュアルでそのジャンルを変えたい、と言ったら大げさかもしれませんが、そんなことを考えているんです。(Photos by Kaori Nishida)End

▲三堀さんが大ファンだという石岡瑛子の作品集を前に。「地獄の黙示録」のビジュアルに大きな衝撃を受けた。

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