人は宇宙をどう見てきたかーー
「宇宙と芸術展」

森美術館で開催中の「宇宙と芸術展」。博物、古美術、現代アートから最新テクノロジーまでジャンルを問わず約200点の出展物を集めた、芸術文化史的な宇宙の眺め方が新鮮だ。

▲ 北山善夫「この世界の全死者に捧ぐ」(1997-1998)


これまで幸福と芸術、医学と芸術など、ユニークな切り口で国内外の多領域な作品を紹介してきた森美術館のテーマ展。今回は「宇宙」を取り上げる。

本展の1つの重要な視点が「人が宇宙をどのように見てきたか」ということ。序盤に、両界曼荼羅や星曼荼羅、十二天像といった日本美術を通じ、神話や信仰、伝承などと結びつきながら、人々の暮らしや精神性に取り込まれていった宇宙観を紹介する。やがて、人々の好奇心は宇宙そのものへとフォーカスしていく。江戸時代に日本ではじめて自作の反射望遠鏡で天体観測を行った国友藤兵衛重恭(国友一貫斎)による観測図や、西洋ではレオナルド・ダ・ヴィンチやガリレオ・ガリレイの天文学手稿が、宇宙を探究する人間の情熱を伝える。

▲ 国友藤兵衛重恭(国友一貫斎)による反射望遠鏡や太陽黒点観測図、月面観測図など

▲ 岡吉国宗「流星刀」(1898)
流星刀とは隕石の一種である隕鉄からつくられる日本刀の総称。榎本武揚が刀の製作を依頼したと言われる

▲ プトレマイオス、ガリレオ・ガリレイ、ケプラーといった天文学者による論文の初版本や天球儀、望遠鏡といった資料の展示


続くセクション2では、現代のアーティストたちが宇宙をテーマに制作したアート作品が登場。専門家に劣らず宇宙の学識を有する彼らは、科学者とはまた異なる視点と表現で宇宙の有り様を私たちに見せてくれる。

▲ ビョーン・ダーレム「ブラックホール(M−領域)」(2008)
巨大なブラックホールを中心にまわっている銀河系と多元宇宙のあり方を再解釈したインスタレーション

▲ コンラッド・ショウクロス「タイムピース」(2013)
日時計と太陽の関係を表した大型のキネティック・アート。太陽の動きと時間の流れを早回しにしたような作品だ


最終のセクション4では、宇宙旅行を間近に控えた時代の夢や、未来における人と宇宙の関わりについて踏み込んだ作品を展示。バイオ技術を活用した宇宙ファッションや氷を3Dプリントしてつくる火星用住居といった、アーティストならではの斬新なアイデアは、宇宙開発の最前線でも参考にされつつあるようだ。

▲ トム・サックス「ザ・クローラー」(2003)
1986年、発射直後に空中分解したスペースシャトル「チャレンジャー号」をモデルにした彫刻作品

▲ ネリ・オックスマンの「彷徨う人」シリーズは、未来の宇宙旅行を想定した装具。バイオ技術を用いて行き先に応じた生存環境を整えるというコンセプト

▲ スペース・エクスプロレーション・アーキテクチャ・アンド・クラウズ・アーキテクチャ・オフィス
「マーズ・アイス・ハウス」
NASAによる火星住居設計コンペに優勝した案。氷の3Dプリントにより、遮蔽性能やエネルギー効率を確保した住居をつくるという革新的なアイデア


会場のラストを飾るチームラボの映像インスタレーションでは、日本神話の「八咫烏(やたがらす)」(神武天皇を熊野から大和へ道案内したとされる導きの神)に着想した宇宙空間のなかで疾走感と浮遊感を体験することができる。つまり、ここまでたどり着いた来場者は、セクション1の神話や宗教に基づいた宇宙観に今一度立ち戻り、何度でもループする趣向だ。はるか宇宙の果てまで向かっていた私たちの意識は実は自己の内面につながっている、という芸術ならではの視点で締めくくられる。(文・写真/今村玲子)

▲ チームラボ「追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして衝突して咲いていくーLight in Space」(2016)


「宇宙と芸術展:かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ」

会期 2016年7月30日(土)〜2017年1月9日(月・祝)

会場 森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)

詳細 http://www.mori.art.museum/contents/universe_art/



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。