若き才能が南フランスに結集した
「デザイン・パレード」(前編)

将来が期待される若い才能の発掘を目的としたデザインコンペティションが、南フランスの街イエールで開催された。コンペの内容、その意義については、本誌183号(9月1日発売)に詳しいので、ここでは気になったデザイナーと彼らの取り組みを紹介したい。

11回目を迎えたプロダクトデザインのコンペ「デザイン・パレード」。今年は世界30の国と地域から約300の応募が寄せられ、そのうち最終審査に残った10組によるプロトタイプが、7月1日からの3日間、審査会を兼ねた展示会としてイエールに建つノアイユ邸に展示された。

▲ ノアイユ邸での授賞式より。Photo by LOTHAIRE HUCKI, VILLA NOAILLES, 2016


1990年生まれのフランス人デザイナー、ペルネル・ポイエは、アルファベットの組み合わせで言葉ができる言語の構成原理を、造形に当てはめた。例えば、英語では「-able」「-ful」の形容詞語尾を動詞につけることで、「~可能な」という形容詞、「peaceful」のように「~に満ちた」、あるいは「careful」のように「~の性質を帯びた」という形容詞になる。「-or」などの接尾辞を動詞につけることで「elevator」といった行動名詞になり、単語が増えていく。

その言葉の成り立ちを造形に置き換えようと、円、三角、四角といった基本的な形と、木、プラスチック、金属、皮革などの素材、さまざまな色、仕上げのバリエーションそれぞれを構成単位とした。その組み合わせによって、無限に近い家具などのハウスホールドアイテムのデザインの類型を生むことができるという発想だ。

ポイエは、この意欲的なデザイン手法によって、コンペのグランプリとイエール市観客賞を受賞した。

この手法によれば、これまでにないタイポロジーが生まれる可能性もある。例えば、四脚の上に円形天板という典型的な形のテーブルは、脚の長さや太さを変えることで建築物のような構造になったり、スケールを小さくすればトレイにもなり得る。あるいは木材の表面にプリント、カラーリング、ニスという“修飾”を加えることで、木材に新たな意味を与えることも可能になる。

辞書でアルファベットを引くと、言語の音声をサイン化したものだそうで、ポイエのアイデア「アルファベット」は、ハウスホールドアイテムという辞書に新たな言葉を加えるための提案だと言うことができるだろう。



▲ ペルネル・ポイエによる「アルファベット」


デザイン・パレードには、こうしたデザインの方法論を考えるリサーチもあれば、フランスのテロニウス・グピル(1991年生まれ)のようなプロダクト作品もある。

グピルの「シーサイド・ベンチ」は、彼の出身地フランス北西部ノルマンディーの海岸を見渡す岸壁に設置するという、環境を絞り込んだプロダクトだ。設置環境を特定することで、デザインは自ずと立ち現れる。岸壁から水平線を眺めるために、座面の高さやバックレストの傾斜は自ずと決まったという。

周囲との調和を考えるとベンチの素材も限られる。木材は海辺という環境と調和するが、木だけでは強風に耐えられない。そこで台座にはコンクリートを用いるという解に至るというわけだ。グピルは自ら行ったコンクリートの流し込みから製材といった製作工程も紹介。製材後の木材なども展示した。


▲ テロニウス・グピルによる「シーサイド・ベンチ」は審査員特別賞を受賞


プロダクトの生産システムに新たな視点をもたらしたのは、フランスのシルヴァン・シャセリオー(1988年生まれ)。電化製品に組み込まれる電子部品をモジュール化して生産し、それらの技術や設備を持たないメーカーに提供、それぞれがプロダクトを完成させる「ハンドクラフテッド・エレクトロニクス」という提案である。

部品の素材をエラストマーにすることで、プロダクト本体に組み込みやすくしたという。これらの部品を実際にメーカーに持ち込み、それぞれのメーカーの持つ技術を生かしてどんな電化製品ができるかを試してもらった。結果、プロトタイプとしてウッド製のデスクランプ、懐中電灯、wifiスピーカー、スレート板のIoT電子秤、IoTの時計を展示した。ビジネスを成り立たせるための小ロットの生産体制を考えるうえでヒントになりそうだ。


▲ シルヴァン・シャセリオー「ハンドクラフテッド・エレクトロニクス」。オランダの雑誌『FRAME』が注目するスペシャルメンションアワードを受賞


フランスのコンペだが、最終選考に残ったのはフランス人ばかりではない。スイスECAL出身のイタリア人とドイツ人のユニット、フロム-インダストリアルデザインは利用者が照明の位置を自由に変えることができる壁面照明をデザイン。壁に金属板を取り付け、磁石を組み込んだLEDパネルの向きや位置を板の上であれば変えることができる仕組みだ。LEDパネルは自転車のブレーキと同素材のエラスティックコードに取り付けられ、コードの描くしなやかな曲線がグラフィカルな装飾性を与えている。

▲ イタリア人のセザレ・ビゾットとドイツ人のトビアス・ニッチのユニット「フロム-インダストリアルデザイン」による照明「マドンナ」


最終選考に残ったデザイナーのほとんどが20代後半。「プロダクト」という言葉に対して、その前の世代とは異なる考え方を持っているのかもしれない。それが顕著だったのが「アルファベット」でグランプリを受賞したペルネル・ポイエだった気がする。デザイン理論に基づくだけでなく、言語学などの他領域からの視点が今後、もっと増えてくるだろう。(文/長谷川香苗)