アトリエ・オイの東京初個展を開催中、 本日31日(月)はジャズナイト!

スイスの建築デザインスタジオ、アトリエ・オイによる設立25周年を記念する展覧会が、AXISギャラリーで開催中だ。

アトリエ・オイは、フォスカリーニ、アルテミデ/ダネーゼ・ミラノ、リモワ、ルイ・ヴィトンなどをクライアントに持つ、世界的に活躍しているデザインスタジオだ。近年は岐阜の美濃和紙、イサムノグチの照明「AKARI」で知られる提灯メーカーのオゼキ、家具メーカーの飛騨産業との協働をはじめ、日本でのプロジェクトも数多く手がけている。

▲「本美濃紙ガーデン」は、岐阜県の本美濃紙によるモビールを使ったインスタレーションのプロジェクト。折り紙や紙を折るという日本ならでは祈念の文化にインスピレーションを受けて制作したという

▲「フュージョンコレクション」2016年
日本のメーカー、オゼキとイタリアのダネーゼ・ミラノとの協働プロジェクトによるランタン。シルクと手漉き和紙という異素材の層がつくるやわらかな光を生み出す

▲「ギフォイコレクション」2016年
飛騨産業とダネーゼ・ミラノによる家具のコレクション「ギフォイ」。杉の圧縮材と仕上げの技術を駆使し、自然に磨かれたなめらかな石の感触を表現した


東京での初個展となる本展では、世界各国のメーカーとのプロジェクトを紹介すると同時に、最終作品に至るまでの試作や素材のスタディを展示する。「料理家が食材を吟味するように、私たちもものをつくる前にマテリアルを味わい、とことん戯れるのです」と話すのは3人の設立者のひとり、パトリック・レイモンだ。彼らが扱う素材は木、紙、金属、革など多岐にわたっている。そのスタディは日常的に続けられ、アーカイブ化して継承し、クライアントやプロジェクトに応じて多彩なかたちを生み出していく。

▲ 素材をとことん観察し、体感することがアトリエ・オイの基本的な姿勢。種や木の実でつくられた鳥の巣など、自然にインスパイアされたさまざまな実験や“遊び”がプロジェクトの提案につながっている


例えば「アレグロ」は、曲げ加工をしたアルミのポールを円形状に吊り下げて、重力によってシェードの形状をなす照明だ。もともとはミラノにあるスイス文化会館のインスタレーションのために制作したもので、彼らは素材となるアルミについて調べるとともに、音、動き、陰影について研究し、遊び心のある作品につなげた。その後、フォスカリーニ社によって製品化されている。

▲「アレグロ」2006/09年
2006年のインスタレーションのために制作した作品は、2009年にプロダクトとしてフォスカリーニから誕生した


企業とコラボレーションする際、アトリエ・オイは製品の背景にあるものづくりを見直すという。B&Bイタリアでは、バッグを製造する際に出る皮革の切れ端を使ってスツールとラグをつくった。またリモワとのプロジェクトでは、世界初の飛行機や同社のスーツケースにおける金属加工のノウハウに基き、アルミの曲げ加工と穴あけに関する実験を重ねた。その成果は新店舗のインスタレーションとなって世に送り出されている。

▲ ルイ・ヴィトン、B&Bイタリア、ベニーニなどのために制作した家具の多くはミラノサローネで発表されたもの

▲ リボン型のパスタ「ファルファーレ」に着想したレザーのモジュール。ルイ・ヴィトンのデニムに使われていたリベットで留めてつなぎ、ハンモックをつくった

▲ リモワのロンドンショップにおけるインテリアプロジェクト。その後、各国の店舗でも採用される予定だという


また本展では、モビールのように揺れ動く和紙のインスタレーション(彼らは“シノグラフィ=特定のテーマを伝えるための空間表現”と呼ぶ)や、伸縮するランプ「オイフォリーク」など、紙やファブリックといった柔らかな素材を使った動きのあるプロダクトも目立つ。

照明「ダンサー」は制御によって3段階の速さで回転し、シェード代わりのファブリックが遠心力で波を描くもの。また本展のために制作した「エオル」は、和紙をベースにした調湿機能を持つ紙を使ったオリジナルのシノグラフィだ。クラフトとマテリアルに関心の高い彼らにとって、和紙は興味深いテーマだという。パフュームディフーザーの機能を持つ車輪状の羽は、ヨーヨーのように回転しながら、ギャラリーの空間をスイス・アローラの山に育つ樹木の香りで満たす。アトリエ・オイでは、人間の五感に訴えるような動きのデザインは重要なテーマの1つだ。

▲「オイフォリーク」2016年
アコーディオンのように伸縮する“光の彫刻”のようなランプは、アトリエ・オイの実験から生まれ、その後、スペインのブランド、パラキルナから製品化された

▲「ダンサー」2016年、アルテミデ/ダネーゼ・ミラノ
回転するダンサーのスカートのようにファブリックが回り、心地よい風はファンの役割も担う

▲「エオル」2016年
扇のように山谷のある車輪を上下に動かすことで、風が起こり、樹木の香りがほのかに漂ってくる


カーテン状のパーテーションによって緩やかに仕切られている会場。これはもともと彼らのオフィスを自由にレイアウトするために開発したものだが、後にダネーゼ・ミラノから製品化されている。フレキシブルに空間を仕切ることができ、省スペースで、防音性もある。それでいて、スタッフやプロジェクト間の風通しをよくし、コミュニケーションを遮ることがない。アットホームでフラットな関係性を大切にするアトリエ・オイらしい設えだ。

スイスのラ・ヌーヴヴィルの湖畔にスタジオ「モーテル」を構える彼ら。自作のボートを浮かべて、そのなかでミーティングやパーティを行うという。会場では、豊かな自然に囲まれたオフィスや、船上でのミーティング風景などの約5分間の映像も流れている。よいアイデアを生むためのリラックスした環境を重んじるクリエイティブスタジオならではの哲学を伝えている。(文・写真/今村玲子)


▲「シヌア・マイクロアーティテクチャーズ・システム」2016年
カーテンを使ったパーテーションは空間を自由にレイアウトすることができる。クリップを変形させたようなカーテンレールのフックがユニーク

▲ アトリエ・オイのスタジオ、通称「モーテル」がある湖畔の映像



「アトリエ・オイ展 — マテリアル プレイ」

会期 2016年10月28日(金) ~ 11月06日(日)
   11:00 ~ 20:00(最終日は17:00まで)

会場 アクシスギャラリー
   東京都港区六本木5-17-1 AXISビル4F(地図

入場 無料

お問い合わせ Tel. 03-5575-8655

関連イベント
10月31日(月)19:30〜21:00 ジャズナイト
              (パトリック・レイモン、JDN山崎泰ほからによる演奏)



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。