ベアリング部品をテーマにした動きの展覧会
「SENSE OF MOTION」

ベアリングのメーカー、日本精工(NSK)による創立100周年を記念した展覧会「SENSE OF MOTION」が、青山・スパイラルガーデンで11月20日(日)まで開催中だ。NSKのビジョン「あたらしい動きをつくる。」(NSKビジョン2026)にもとづき、多彩なクリエーター6組がべアリングの“動き”に着目したアート作品を展示している。

ベアリング(軸受)は、その名前を聞いたことはあっても、普段の生活のなかではほとんど目にすることのない部品だ。簡単にいえば、回転の“動き”を滑らかにするためのもの。その起源は、紀元前7世紀のアッシリアでの巨大建築建造にまで遡るという。

現代ではモーターや自動車の車軸、エレベーター、建設機械や玩具まで、回転の動きが関係するほとんどのものに使われている。ベアリングが高品質であるほど摩擦を軽減し、製品の動きがスムーズになったり、高いパフォーマンスを発揮することができる。社会のいたるところでさまざまなプロダクトを支える“裏方”が、今回はアート表現を通じて表舞台に立つというわけだ。

▲ 会場に展示されたさまざまなベアリング。軸のたわみを吸収して内輪が傾くものなど、多様な動きに対応する。実際に手に取って、精巧なつくりや構造を目の当たりにできる


吹き抜けのスペースでは、建築家のエマニュエル・ムホー氏が大量の花のモチーフを使った大型インスタレーション「混色―色が回る。色が混ざる。心が動く。―」を展示。100色に色分けされた紙の風車25,270個で構成され、最上部に設置された小型扇風機の風力によって高さ6メートルの風車が滑らかに回転する様子は壮観だ。

▲ エマニュエル・ムホー「混色―色が回る。色が混ざる。心が動く。―」。動きによって色が混ざり合って見える

▲ 実際に回してみることのできる風車も。ベアリングによって予想外に滑らかに回転する様子に思わず「気持ちいい!」と感嘆する来場者たちの声が聞かれた


ライゾマティクスリサーチ(Rhizomatiks Research)は、向かい合わせに置かれたボールねじ(ねじ軸とナットの間に多数のボールを入れて滑らかに直線運動をさせる)の間に渡された数十本の弦がするすると上下するインタラクティブな作品「Oscillation」を展示。鑑賞者が持つバトンの動きを感知して、偶数番の弦がその通りに動く。一方、対面のモニターには、コンセプトをつくった真鍋大度氏のパフォーマンス映像が映し出され、奇数番の弦は氏の腕の動きに合わせて可動する。テクノロジーと人間の協働をダンス表現として探究してきたライゾマらしい作品である。

▲ 弦の動きに伴って、金属が滑る軽快な音も印象に残る


スズキユウリ+SLOW LABELによる「Tutti in C」は、ベアリングに使用される球を用いた“ピンボールゲーム”型のサウンドインスタレーション。台をよく見ると、鉄琴のパーツや、球を打ち返すフリッパーなど、さまざまなところでベアリングが使われている。ピンボールゲームの懐かしいスリル感と、「こんなところにベアリング!」を発見する楽しさのある作品だ。

▲ スズキユウリ+SLOW LABEL「Tutti in C」


ほかにもベアリングの動きを人力による回転運動と映像で体験できるメリーゴーランド型作品「ルーフトップ・メリーゴーランド NSK ver.」(Nadegata Instant Party)や、ベアリングをテーマにしたAR(拡張現実)作品「箱男」(AR三兄弟)、ベアリングを使って組み立てたボール構造の作品「Soft Metal Structure Ball」(石黒 猛)など、多様な視点からベアリングを再発見、再解釈した体感的な作品が集まった。普段私たちが何気なく触れているさまざまな“動き”について、気づきを与えてくれるだろう。(文・写真/今村玲子)

▲ Nadegata Instant Party「ルーフトップ・メリーゴーランド NSK ver.」。回転軸にベアリングが使用され、内部にはNSK製品でつくられた架空の街が広がっている

▲ AR三兄弟「箱男」は、安部公房の同名の小説に着想したAR作品。携帯のアプリで拡張現実が体験できる

▲ 石黒 猛「Soft Metal Structure Ball」(左)と「Spinning Chair」(右)。ボールねじを内蔵した椅子は座ると自動的に回転しながら座面が降りていく


NSK100周年記念展覧会「SENSE OF MOTION」

会期:2016年11月9日(水)〜20日(日)

会場:スパイラルガーデン(スパイラル1F)

詳細:http://www.senseofmotion.net/



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。