「21世紀のサスティナブルな都市のための戦略」レポート(1/5)

2月21日(火)に開かれた「ザ シンガポール ダイアローグ:21世紀のサスティナブルな都市のための戦略」の講演会の内容をレポートします。初回はメインスピーカーであるシンガポールの建築設計事務所WOHA(ウォン・マン・サム氏、リチャード・ハッセル氏)によるプレゼンテーション。その前に主催者であるシンガポール政府観光局 日本支局長の柴田亮平氏から主旨が語られました。

▲ 左から、シンガポール政府観光局北アジア局長のマーカス・タン氏、建築評論家のエルウィン・ビライ氏、WOHAのリチャード・ハッセル氏、SUEP.の末光弘和氏、WOHAのウォン・マン・サム氏。

▲ シンガポール政府観光局 日本支局長の柴田亮平氏。


「ザ シンガポール ダイアローグ」はシンガポール政府観光局が展開するプラットフォームの1つで、過去2年にわたりAXISギャラリーと共催してきました。今回の「ザ シンガポール ダイアローグ アーバンソリューションズ」では、デザインから建築・環境にまで領域を広げ、「サスティナビリティ」をテーマにしています。近年シンガポールが推進している都市開発におけるサスティナビリティについて、より知っていただける機会となります。

メインスピーカーにシンガポールの建築事務所WOHA(ウォハ)、ゲストスピーカーとして日本の建築事務所SUEP.(スープ)代表の末光弘和氏、そしてモデレーターとして建築評論家のエルウィン・ビライ氏をお招きしました。

シンガポールは若い都市国家ですが、建国からわずか2年後の1967年にはリ・クアンユー初代首相によって「ガーデンシティ」というビジョンが掲げられ、グリーン政策に取り込んできました。こうしたシンガポールにおけるサスティナブルな都市の戦略について語っていただきたいと思います。では、WOHAのおふたりにお願いします。


WOHAによるプレゼンテーション:「ガーデンシティ・メガシティ」

▲WOHAのリチャード・ハッセル氏。


シンガポールという国の文脈のなかで、いかにクリエイティブでサスティナブルな環境をつくっていくかについて話したいと思います。シンガポールはひじょうに制約の多い土地であり、ゆえに超高密度都市のテストケースとして優れていると考えます。まずは私たちの基本的な取り組みを紹介しながら、それがあらゆるスケールに対して適用可能であることを示していきたいと思います。

昨年出版した『ガーデンシティ・メガシティ』では、マニフェストとして「20世紀と同じことをやるのではなく、別のアクションが必要ではないか。21世紀は地球環境と調和した取り組みが必要ではないか」と述べています。


私たちは特に「グローバルなメガシティ」に焦点を当てています。多くの巨大都市は主に熱帯地域で成長を遂げている。東京も世界有数の大きさですが、将来的にはほかの多くの都市が東京を凌ぐでしょう。そうした都市では必ず「量」の問題が生じます。600万や1,000万の人口であれば可能だった戦略や政策が、5,000万や9,000万といった規模になると対応できなくなる。土地が足りないからです。過去25年のあいだに急速に拡張してきた都市では、水平方向の土地や空間の(拡大が)犠牲になっています。


20世紀の都市の原則とは、ル・コルビュジエの「輝く都市」から出発しました。その思想はヨーロッパの広い土地であれば対応できるかもしれません。しかし、アジアの「メガシティ」と呼ばれる都市は、それを凌ぐようなスケールで拡張しているのです。

また、欧米の先進国や日本では、地続きのところに家を建てて暮らす、一戸建てのライフスタイルがあります。そのように地球上のすべての人が自然と調和するかたちで生きていくことができればとは思いますが、人口が多すぎると不可能です。

▲ WOHAのウォン・マン・サム氏。


WOHAが提唱する都市のあり方

私たちが提唱する、自然とともに生きるための「ガーデンシティ」と、日本のメタボリストたちがかつて提唱した「メガシティ」の考え方から学び取り、それらを組み合わせたものを紹介します。

例えば、パリ、ロンドン、東京といった都心の生活はかなり高密度なものです。レストランやショッピングなどあらゆるアメニティが生活のすぐそばに揃っていて便利ですが、低層の高密度性は熱帯においては好ましくありません。


私たちは『ガーデンシティ・メガシティ』のなかで、地球温暖化の時代における都市を考え直しました。そこで重要なのは、高密度性とアメニティの高さを両立させていくことです。この戦略は、地球のほかの地域でも適用可能だと考えています。

一方で、都市のメガストラクチャーに対する批判の1つに、あまりにも圧倒的で、人を押しつぶすかのような圧迫感を持っていることがあります。そこで、建築で学んだことをアーバニズムに持ち込むことはできないか。逆にアーバニズムから学び、建築をミクロシティとして読み解くことはできないか。この2つの方向性から、次のような都市のあり方を考えました。



1.レイヤリングシティ(積層都市)
例えば、東京そのものを4つ、5つくらい上に積み重ねていくとイメージします。そうすることで、密度の高さとアメニティの高さを両立できます。この「マルチプル・グランドレベル(複層の地表面)」というコンセプトは、私たちの実践のなかで明らかになりました。地続きの都市を上に向かって何層も繰り返すことで、建物がもっと相互に接続し合うことが可能となります。



2.プランティングシティ(植生都市)
都市ができるということは、そこにあった自然が削ぎ取られることを意味します。宇宙から眺めると、都市は月面写真のように緑がほとんど見えない状態です。しかし、私たちは、地表面と同じように建物の中に植物を入れることができます。



3.ブリージングシティ(呼吸する都市)
熱帯地域では特に、風の流れをコントロールして建築や空間が「呼吸」できるようにすることがとても大切です。そのような場所はコミュニティスペースとしても活用できるのです。私たちは建築のなかで、空気の流れを水平あるいは垂直に流動させる仕組みをつくります。また、建物の棟の配置や組み合わせ方によっても、効率よく換気することができます。


自ら掲げる、新しい都市のためのアセスメント

政府関連のプロジェクトに取り組むなかで気づいたことがあります。それは、政府が都市や建築の査定で用いる指標は、必ずしも高密度・高アメニティの環境をつくるためのものではないということです。そこで、政府がアセスメントに採用したらいいのではないかという5つの指標を考えました。私たちは実際にこれらの指標を使って、WOHAのプロジェクトを自己評価しています。

・Green Plot Ratio(敷地に対する庭に相当する面積の割合)
・Community Plot Ratio(敷地に対するコミュニティスペースの割合)
・Civic Generosity Index(市民の寛大度)
・Ecosystem Contribution Index(エコシステムに対する貢献度)
・Self-Sufficiency Index(自給自足度)


多くのプロジェクトを手がけるなかで、プライベートスペースではなくコミュニティスペースこそが、暮らしやすい高密度都市の指標であると気づきました。もう1つ大切なのは、シビックレスポンスビリティ(市民の責任)です。暮らしやすさのためには、個々人が自己中心的にすべてを掴んで返さないというのではなく、人々といろいろなものをシェアしていくほうがいい。それが可能な建物になっているかも指標になります。

それから、建物の中に植物の場所をつくるということ。周辺のエコシステムや生態系を含めてどうデザインされているかによって、乏しくなったり豊かになったりもします。また、自給自足度は環境的な指標ですが、ここでは相対的ではなく絶対的な評価になります。例えば、自然が豊かに見えても、エネルギーや食物、水が20%しか自立できていないこともある。絶対評価によって、持続可能な未来に向かって、いったいどのくらいの距離感があるかがわかるのです。


→次回は、WOHAのプレゼンテーション後半、彼らの具体のプロジェクトについてお届けします。


▲ 会場ではウェルカムティーとしてシンガポールのTWG、アジア・ナンバーワン・パティシエに選ばれたジャニス・ウォン(Janice Wong)のチョコレートが供された。


「ザ シンガポール ダイアローグ:21世紀のサスティナブルな都市のための戦略」

日時:2017年2月21日(火)18:00-19:30

会場:AXISギャラリー

内容:「サスティナブル・デザイン」の旗手として知られ、機能性と創造性を融合させながら、自然と共生する数々のデザインが評価されているWOHA。熱帯のシンガポールを舞台に行われているさまざまな試みを共有し、都市における建築の未来像について考えます。

ゲストスピーカー:WOHA(建築設計事務所)
http://www.woha.net

パネリスト:SUEP. 末光弘和(建築家) 
http://www.suep.jp

モデレーター:エルウィン・ビライ(建築評論家)

主催:シンガポール政府観光局(STB)
http://www.yoursingapore.com