「21世紀のサスティナブルな都市のための戦略」レポート(5/5)

「ザ シンガポール ダイアローグ:21世紀のサスティナブルな都市のための戦略」の講演会レポートの最終回は、会場からの質問に答えます。

▲ 左から、シンガポール政府観光局北アジア局長のマーカス・タン氏、建築評論家のエルウィン・ビライ氏、WOHAのリチャード・ハッセル氏、SUEP.の末光弘和氏、WOHAのウォン・マン・サム氏。


建築とサスティナビリティについて

質問者1:私は食をテーマに記事を書いているライターです。食の世界でもサスティナブルという言葉が最近よく使われますが、建築家にとってのサスティナビリティのイメージや考えを教えてください。

リチャード・ハッセル(WOHA):私たちは食に対してひじょうに興味を持っています。シンガポールは国全体が都市であり、この国で食の自給自足が可能なのか見てみたいのです。

少し研究したところ、戦略的に畑を水平に増やしていけば、都市でも野菜の自給自足ができることがわかりました。しかし、値段が高かったり、労働管理の問題などもあります。

私の父はオーストラリアで野菜を自給自足しています。リタイアして、ほぼ1日中農作業で、それはそれは大変です。昼間オフィスで働いて、農業にも真面目に取り組むのはあり得ません。新しい組織、新しい会社などが大規模な都市型農業を経営できるなら可能性はあると思います。食の安全性という観点からも、より戦略的なプランがあったら面白いでしょうね。

建築プロジェクトの場合は、共同農場というビジョンに関心があります。コミュニティの人が集まって一緒に農業をし、収穫を分かち合うのです。最近は「この食べ物はどこから来たのか」をみんなが知りたがっていて、それをシェアすることは食を行き渡らせるだけでなく、互いが親しくなることにおいても重要だと思います。


末光弘和:サスティナビリティとは、今後「時間の概念」をどのように考えていくかということだと思います。例えば、今の民間デベロッパーのビジネスモデルは、土地を安く買って短期間で売り抜けるというもの。すると民間企業が街に対してコミットする時間は短くなります。そうではなく、10年くらいかけて街のバリューを上げながら回収するとか、緑を増やしながら地域環境を良くするとか、時間を捉え直すことで可能になることもあるのでは。それがシンガポールから学ぶべき1つの結論のような気がします。

40年前にグリーン政策を立ち上げてから今や国土の半分が緑になり、しかも人口が増えている。それが可能なのは政府がひじょうに強く、決断できるから。日本の場合は、個人や民間企業を含めて、目先のメリットだけではなく、どうしたらもう少し長いビジョンをつくっていけるのかを考えることが、本当のサスティナビリティではないかと思うのです。

エルウィン・ビライ:突き詰めると、どうやって日々暮らしていくのか、どうやって生きていくのかということですね。シンガポールでも、どうすれば人がより良い生活を送れるのかということが政策全体を貫く背骨になっていると思います。


シンガポールは未来に対してオープン

質問者2:事例の「オアシアダウンタウン」の建物はなぜ赤い色なのですか。

ハッセル:蔓性の植物がカバーするため、最終的には建物は緑になります。ひじょうに強い色を出発点にして、ゆっくりと緑が全体を覆っていくイメージです。

ランドスケープを建築のマテリアルとして扱うには、長期的な配慮が必要です。ここでは「剛性のある審美性」について考えました。例えばプランターの一部がうまく機能せずに植物が枯れたとき、その部分だけ植物が空いている状況が続くわけです。そのような状態でも、素敵な見た目にしたい。緑とマッチするのは明るい色ですから、少ない選択肢の中で自ずと赤に決まりました。クライアントのお気に入りの色でもありましたし(笑)。シンガポールは技術的な規制は厳しいのですが、審美的な事柄にはほとんど縛りがありません。色は問題にすらなりませんでした。

▲ WOHA「オアシアダウンタウン」。


末光:WOHAのプロジェクトもそうですが、シンガポールの建築はキャラクタリスティックで楽しいですよね。強い政府による管理社会と向き合うなかで、建築家がどうやって自由を獲得しているのか気になります。

ハッセル:シンガポール国民は意外とおおらかなんですよ(笑)。誰かが路上でタバコを吸っても誰も「やめなさい」と言わないし。「当局がルールをつくって規制するだろう」という思いもあるでしょうが、個人レベルでは「まあいいじゃないか」というところがあるんです。

ウォン・マン・サム(WOHA):いや、私だったら「タバコ吸うならあっちへ行って」と言いますね(笑)。日本が凄いと思うのは、礼儀正しさです。掃除しているのを見ると、外に掃き出さずに、家の中に掃き込んでいる。市民としての意識の高さや、折り目正しさ、寛大な心から、シンガポール人はまだまだ学ぶことが多いです。

末光:日本はいろいろな人の意見を聞こうとするから、トゲがない代わりに凡庸なものが生まれていく。特に市民の合意を取ってつくるものはそうなりがちです。シンガポールの建築がキャラクタリスティックなのは、URA(都市再開発庁)がデザインやブランディングに対して高い意識を持っているからか、それとも国民性なのでしょうか。

ハッセル:シンガポール人は未来に対してひじょうにオープンです。「まだまだこれから先に素晴らしいことが起きるに違いない」と思っているから、いつも新しいことを待ち望んでいます。しかし、世界の多くの国々は「かつては良かった」と言い、未来に対して不安がある。すると物事を変えることに対して恐怖心が生まれます。シンガポールは若い国なので失うものがなく、これからグローバルな舞台で競わなければなりません。だから新しい提案を受け入れやすいのかもしれません。

ウォン:一方で、シンガポールは不安定さもよく理解しています。島によって構成され、土地の資源も限られ、逃げも隠れもできない。グローバルプレイヤーになるために、常に自分自身を刷新していく必要があります。不確実な状況のなかで機敏に対応しなければならないという意識は、研ぎ澄まされていると思います。(完)


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▲ 講演会後のネットワーキングパーティ。3つの壁面にはWOHAのさまざまなプロジェクトが投影された。