武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科
2016年度卒業制作選抜展
「shide CONTACT 2017」

2月23日(木)から28日(火)にかけて、アクシスギャラリー、JIDAデザインミュージアム、シンポジアで計40点が展示された。シンポジアには、インスタレーション作品が展示され、一般社会での出来事を客観的に美しく表現した作品が多いという印象だった。今回は、優秀賞の作品を4点に加えて気になった作品1点を紹介する。 宮本奈緒美「こもんぐらむーー東京」 江戸小紋から着想し、小紋に情報を落とし込んだ。骨董市や文献、店などからさまざまな図案のバリエーションを探ったという。そのなかで、単に繰り返しの小紋をつくるのではなく、ひとつひとつに意味や必然性があれば面白くなると考えるようになったそうだ。そして、江戸小紋にちなみ、東京の区の鳥や花、人口密度、コンビニなどを小紋で表現した。型染で染めるときに、染めの特徴である、紋様が繰り返し広がるように意識しながら制作。多くの研究者が対象にする江戸小紋だが、これまでにない表現を見せてくれた。

 

丸山太央「理想の書物が生まれるまでーー恩地孝四郎と出版創作」 芸術家でありながら装幀家や作曲家、詩人などさまざまな顔を持つ恩地孝四郎の活動を俯瞰し、彼の目指したものが何かを探求した。「出版創作」とは、出版物をひとつの芸術作品として表現に取り組んだ、恩地の言葉である。丸山さんは、資料を吟味していくなかで「出版創作」が恩地の最も重要な軸であると読み解いた。その軸から年表をつくり、蛇腹状の本にまとめて制作。「彼のデザインに対する誠実・真摯な姿勢は特筆に値する」と寺山祐策教授は評価している。

 

大三島弘女「Tower of the Bible」 イエス・キリストの4人の弟子がそれぞれ書いた福音書から、言い回しや描写の違いを可視化した。幼少期から聖書と接する機会があった大三島さんだからこそ成し得た作品である。4人の視点を事象別に比較できるよう直方体の柱(タワー)にして、イラストも加えた。ひとつの面を読み進めていけば、あるイエスの像を理解でき、また違う面を読めば、新たなイエスの顔が見える。聖書の魅力が十分に伝わってくる作品だ。

 

大山千晶「博士の色彩研究室」 特殊偏光眼鏡をつけると、今まで見えなかった色が見えてくる。物質が持つ色、人間には見えない色に着目し、生物や植物を研究。無色透明に見えていたものが、実は鮮やかな色を持つという体験を通して、学ぶことができる作品だ。見る角度によっても違った色が見えてくるから面白い。古堅真彦教授は、「自然現象」をどのように見せるかをじっくり考え、作品の「世界観」を構築し、長い実験の結果として自らが紡ぎ出した「自然現象」をしっかりとした「作品」に昇華させている、とコメントする。

 

三橋光太郎「デザインの原体験——物の形と行為の形の関係」 こちらは優秀賞に選ばれなかったが、印象的な作品なので紹介したい。昔からあるものを再認識することでデザインの本質を見出すことに挑戦した三橋さん。スプーン。ステンレススプーン、竹のスプーン、朝鮮スプーン、木のスプーン、木の匙、応量器の匙、陶器のレンゲの7つを取り上げ、持ち手や受け皿のサイズ、形、重さを比較できるように展示した。スプーンを手にとって口に運ぶまでの一連の動きを撮影し、その実感を文字に起こしたり、図案化したりした。調査を進めていくと、その使用法は上品さ、宗教的な考え方にまでたどり着いたと話す。研究色の強い作品だが、そのひたむきさに感心させられた。 新島 実主任教授は、「美術大学として日本有数の蔵書数を誇る図書館を利用した学生が多かった。それは2年生のときに貴重書を手にする授業があったからかもしれない」と話す。根気よく、綿密に調べ上げられていることがうかがえる作品が多く、膨大な情報を整理し、適正な手段を考え、表現できる力も持っていることがうかがえた。(文/今野敬介)

 

武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科 2016年度卒業制作選抜展 「shide CONTACT 2017」 2月23日(木)〜28日(火) アクシスギャラリー、JIDAデザインミュージアム、シンポジアにて