vol.83 日本発、世界初の、シャネルの自販機

シャネルの自動販売機がある。しかも、公式の……と聞けば、驚かない人はないだろう。それは日本だけに存在している世界初の試みだ。

銀座の大型複合商業施設「GINZA SIX」のレポートは、すでに4月17日付けの本ウェブに詳しいが、地下1階にオープンした「シャネル フレグランス&ビューティー GINZA SIX」の店舗外壁に、その自販機は内蔵されている。

シャネルが自動販売機の設置に踏み切った背景には、ここ数年で外国人観光客、特にアジアからの客層が増えたことにある。基本は店頭での対面接客だが、それでは対応が間に合わなかったり、家族や親戚などへの土産の場合は、あらかじめ購入するアイテムがわかっている場合も少なくない。そこで、同ブランドとして世界初の自動販売機の導入計画が浮上したのだ。

しかし、解決すべき課題があった。まず、顧客体験を重視するシャネルにとって、自動販売機で対面接客並みのおもてなしを感じさせることができるか? そして、設置可能な場所の厚みがわずか25cmしかなく、そこに必要なメカニズムをすべて格納することが可能か?ということである。これらの要件は既存の自動販売機では満たすことができず、全く新しい発想が求められた。

でき上がった自販機は、環状にレイアウトされたタッチ式のセレクションメニューと、クレジットカードによるセルフ決済システムを持ち、リップスティックを選択して支払いを済ませると、商品が内部でシャネルの紙袋に収められ、スクリーン下の黒いボックス内に、光るアクリル製トレーとともにせり上がってくる。そして、トレーが顧客に向かってスライドし、紙袋を取ることを促すのである。

世界初の試みで設置スペースも限られていることから開発の苦労は並大抵ではなかったようだが、これまで存在しなかったハイブランドのための自販機の原型的なものが確立された意味は大きい。

購入できるアイテムは現在リップスティック限定ながら、将来的にはメニューデザインを進化させ、他の商品も扱えるようにする可能性もある。他ブランドの反応も含めて、今後の展開が楽しみと言える。