真鍋大度さん
「技術の面白さ、その先に行くにはコンセプトが必要です」


首都大学東京 インダストリアルアート学域の授業「プロダクトデザイン特論D」において、学生の皆さんが3チームに分かれ、第一線で活躍するデザイナーの方々にインタビューを実施。インタビュー中の写真撮影、原稿のとりまとめまで自分たちの手で行いました。シリーズで各インタビュー記事をお届けしています。最終回はメディアアーティストの真鍋大度さんです。



真鍋大度さん「技術の面白さ、その先に行くにはコンセプトが必要です」

AIやAR、ドローンなどの最新技術を駆使し、人間の身体や知覚のあり方を拡張しつづけるメディアアーティスト 真鍋大度さん。われわれはつい先端技術が持つ面白さにめを奪われる。しかし、真鍋さんは、それらのさらに先に行くためにはコンセプトが必要だと語る。強度のある作品を生み出すためにも。


何が必要とされているのか、自分には何ができるのか

真鍋さんはいつもどのようなコンセプトでクリエイションをされているのでしょうか?

アート作品の制作では問題提起をすることが課題になりますが、コミッションワークやコラボレーションのプロジェクトなどでは問題解決を問われることが多いんです。そのときに大事になってくるのが、「その人が本当は何をやりたいのか?」を突き詰めること。相手がやりたいと気づいていないことがあったりするので、とにかく取材を徹底的にして、問題を抱えている人の話から問題を細かく書き出して、そこからプロジェクトにするときには、自分たちの得意な技とか、あまり多くの人がやらないような手法で問題解決をしています。

メディアアートの分野に飛び込んだきっかけについて教えていただけますか?

「メディアアートとは何なんだろう」という疑問があり、それに関連する美術館にはよく通っていました。そこで、自分がそういう分野で何ができるのかを考えるようになったのです。すると徐々につくりたいものが決まってきて、IAMAS(情報科学芸術アカデミー)の卒業生に相談して、IAMASに入ることにしました。入ってからも、どういうものをつくっていくのかを考える時間は長かったですね。

「どういうものをつくっていくのか」を考えるときに軸となったものは何でしょうか?

僕の場合は、エンジニアの仕事だけでなく、音楽も好きで、音楽に関わる仕事がしたいということが常に主軸にありました。でもミュージシャンにはなれないということもわかっていた。しかし、音楽と関わっていくやり方はたくさんあって、そのなかに「エンジニアリングと組み合わせて音楽を扱う」というのがあった。音楽やスポーツはどちらもプロになれる人はすごく少ない。でも、いろいろなかたちで多くの人が音楽とスポーツに関わっている。僕もそのパターンで、今のプロジェクトはほとんどが音楽に関わるものです。


自問自答、興味の源を突き詰める

新たな技術を自身のプロジェクトに取り入れるとき、きっかけや基準になるものは何ですか?

ただ面白いものは簡単につくれるのですが、自分たちにしか生み出せない面白さはどこにあるのかを考えます。新しいテクノロジーを使いたいと思ったらとりあえず使う。それだけでもちろん面白いこともありますが、技術的な面白さだけでは作品にはならないので、技術ネタはためておいて来たるべき時が来るまでは取っておきます。技術の面白さのさらにその先に行くためにはコンセプトが必要です。順番としてはコンセプトが最初。後付けしてしまうと大義名分にしかなりませんし、作品の本質と作者の言っていることがかけ離れてしまうことがとても多い。そうなると強度のある作品にならない。アート作品の場合は特にそのあたりをしっかりしないと正しい評価がついてこないと感じています。

そのうえでどのようなことを意識していますか?

僕らは歴史に沿ったことしかできないんです。その歴史、あるいはその文脈の中でちょっとでも先に進めたらいいと思っています。その“ちょっと”をどうやってつくっていくかという作業ですね。大風呂敷を広げて、観客を騙すようなやり方では、“実”がついてこない。大衆向けにわかりやすいキャッチフレーズをつくる方達もいますが、それは本質とはかなりかけ離れていますね。

そういった苦しさに陥ったときはどうされていますか?

まずは抽象的なところから自分の興味を探していって、ちょっとずつ具体的にしていきます。なぜそういうものに興味があるのか、自問自答を繰り返し、自分の興味の根源を突き詰めていく。自分はどこに向かうことができるのかを考え抜いていくんです。ひとつのプロジェクトがうまくいくと、同じようなことを続けたくなるんですが、それはすごく危険なことだと思っています。毎回同じようなことを続けると、長い目で見るとアーティストとしての寿命を縮めてしまう。だから「新しい思考を考える」ための手法をいつも考えています。


「好きなこと」に出会うこと

真鍋さんのこれからについて教えてください。
 
今は大きいプロジェクトを数多くやるようになっていますが、小さいプロジェクトもやりたい。例えば、パソコンなども使わずに紙とペンだけを使って作品をつくったら、どんなものができるんだろう?などと考えています。
 僕らは環境に順応しながらここまでやってきました。急に便利なサービスが出てきて、いろんなことが変わることもある。大きな変化が10年、20年で起きるので、新しいものが出てきたときに順応しながらも、変わらない個性や職人芸を残しながら成長して行きたいですね。

最後にクリエイターを志している、学生たちにメッセージをお願いします。

もしその道で食べていこうと思うなら、得意なことを続けていくか、好きなことを続けていくか、どちらかですがやはり、「好きなこと」が最後は強いと思います。僕の場合は社会人になった後に「好き」かつ「得意」なことを見つけてしまったので、一度会社も辞めてリセットしてやり直しました。かなり遠回りしましたが、今ではそのときに見つけたベクトルをそのまま進むことが出来て良かったなと思っています。ビジネス的成功と、「豊かな生活をする」ことは全然違うことです。どちらを目指してもいいとは思うけれど、豊かな生活をするには好きなことを見つけて続けることがすごく大事。だから、一度本当に好きなことを見つけられたら、周りに惑わされず頑張って見てください。(インタビュー・文・写真/首都大学東京インダストリアルアート学域  對馬優子、松沢研、佐川芳孝、韓旭、李瀚暉、小金丸朗生)


真鍋大度/1976年生まれ。メディアアーティスト、プログラマー、DJ、ライゾマティクス取締役、ライゾマティクスリサート代表。東京理科大学理学部数学科卒業、国際情報科学芸術アカデミー (IAMAS) にてプログラミングを用いた表現をスタート。2006年にライゾマティクスを共同設立。身体やプログラミング、データそのものが持つ本質的な面白さに着目して作品を制作するほか、Pefumeをはじめ国内外のミュージシャンとのコラボレーションを展開。アルスエレクトロニカやカンヌライオンズなど国際的アワードの受賞多数。