SDW_6 2020年にシンガポールにオープンする3つ目の国立公園
「ジュロン・レイク・ガーデンズ」

▲ ジュロン・レイク・ガーデンズの水とガーデンが出会う場所。ところどころにつくられた岸辺の小さな場所がボートでまわれるアート展示室になる予定だ。

「シンガポール植物園」「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」に次ぐ3つ目の国立公園としてシンガポールで進行中の「ジュロン・レイク・ガーデンズ」。シンガポール西部に位置する総面積90ヘクタールの敷地には、レクリエーションとサスティナブルをテーマにした公園や飲食施設のほか、マレーシアにつながる鉄道の新駅も建設され、人々が集うコミュニティガーデンとして2020年から段階的にオープンする予定だ。

プロジェクトを統括する国立公園庁(The National Parks Board:Nパークス)は2016年春にコンペを実施。10月にランドスケープデザイナーとして日本の株式会社ランドスケープデザインとシンガポールのサラダドレッシング(Salad dressing)、建築デザイナーとしてリゥ・アンド・ウー・アーキテクツ(Liu & Wo Architects)が協働したプランが採用された(コンペにはWOHA、RSP、MKPLといったシンガポールの有名建築事務所も参加)。前回レポートに引き続き、本プロジェクトについてサラダドレッシングのランドスケープアーキテクト会沢佐恵子さんに話を聞いた。

既存の庭園を継承しつつ、現代の庭として蘇らせる

ジュロン・レイク・ガーデンズでは、既存の公園のリニューアルが目的ですか。

そのとおりです。従来のジュロン・レイクは観光客の人気が低く、全体に閑散としていました。しかも過去の植樹で外来種を入れたために生態系が崩れ、自生種の魚や鳥の棲む場所がなくなり、水辺の生き生きとした姿が消えていました。この改善はコンペに参加した全チームが課題として掲げていました。

そのうえで、サラダドレッシングはどのような提案をしたのですか。

イメージは、「水とガーデンが出会うところ、自然と都市が出会うところ。その境界がゆるやかに溶け合う」というものです。私たちがランドスケープを担当する中央エリアには、70年代につくられた日本庭園と中国庭園があり、それらを継承しながら蘇らせるという条件がありました。私たちの提案は、生命力に溢れた熱帯の自然が持つ美しさを吹き込むこと。今は、どのようなランドスケープの「プログラム」を入れて生態系を循環させる仕組みをつくるかといったことを、協働するランドスケープデザイン社と考えているところです。

▲ 子どもたちが遊びながら自然と触れ合うトレイル。自生種の魚や鳥を呼び込むような植生、水辺を提案する。

ランドスケープの「プログラム」とは?

ふたつの方向性があります。ひとつは、スポーツや散歩をする場所、自然と向き合うための庭、ボートコース、カフェといったアクティビティを指します。それぞれ具体的な風景やターゲットユーザーを思い浮かべながらデザインしています。もうひとつは植生や生態系に関するもの。例えば、湖の水を既存の島にある池を使ってクレンジング(浄化)して循環させるといった水の流れもプログラムしていきます。

▲ フラワーガーデンは、イベントの時だけでなく1年中花でいっぱいになる。

生態系のプログラムには、専門的な知識が必要ですね。

私たちのオフィスには約300種の植物を育てているテラスガーデンがあります。さまざまな魚が泳ぐ大きな水槽も設置しました。これらを日々観察し、育てていくことで、熱帯雨林の植生や魚や虫、鳥たちがどのような仕組みで動くのかということを学んでいます。

ジュロン・レイクは大規模なプロジェクトで仕事の領域も広いためコラボレーションが必須です。動物や植物、水、微細気象(マイクロクライメート)などのスペシャリストと意見交換し、それらをデザインに反映させています。

▲ リリーポンドと呼ばれる池は、さまざまな種のスイレンが咲くだけでなく、湖の水の浄化作用も併せ持つ。

記憶を呼び起こすような場所づくり

既存の庭園はどのように再生するのでしょう?

日本庭園はそのエッセンスを理解し、それをどのように熱帯のシンガポールの土地に置き換え、伝えることができるかを意識しています。例えば、園路を設ける際にできた小高い丘の壁面を、宮崎県の高千穂峡から着想を得て渓谷に見立てまました。シンガポールの人には馴染みのない風景ですが、この地の自生種を使うことで、熱帯における新しい渓谷の姿を生み出しています。

中国庭園についても同じで、人々の記憶が宿る既存の建築物をどのようにこの地の風景につなげていくかを大事にしています。例えば、現状ではアクセスしづらいパゴダの周りにお椀状の地形をつくり、人々がこの木々で囲まれた場所でひとときを過ごせるように提案しました。

▲ 渓谷のパースイメージ。

▲ 中国庭園のパゴダのパースイメージ。

今回のプロジェクトで特に大事にしていることは何ですか。

私たちはこのプロジェクトを、「ガーデンをつくる」場だと考えています。自然を管理したのが公園であるとしたら、ガーデンは第一に自然が存在し、その美しさを引き出すために人が手を加える場所です。熱帯雨林の森の豊かさのなかで、時にはその自然の驚異を感じながら、人間の居場所をつくりだしていくこと。それをこのプロジェクトで実現したいと思います。

また、サラダドレッシング代表のチャン・ファイヤン(Chang Huai-yan)は常にインタンジブル、すなわち目に見えない、感じられるものを大切にしています。私たちはいつも自分自身が気持ちいいと思ったことや、美しいと感じるものをプロジェクトに反映させたいと考えています。

今回のコンペで私たちのプランが採用されたのは、われわれが生きるこの土地の植生に関する豊かな知識と、その土地が持つ記憶を呼び起こすような場所づくりが評価されたからだと思います。

▲ 森のなかの滝に包まれるウォーターウォールコートは、その眺望が湖へと開ける。水のしたたる音を聞きながら、静けさを楽しむ場だ。

今後、プロジェクトは2020年のオープンに向けてどのように進んでいきますか。

コンペ時の案をもとに、具体的な運用や予算を視野に入れた詳細設計を進めています。定期的にNパークスと打ち合わせをし、デザイナーやコンサルタントとの打ち合わせも頻度高く行っています。ランドスケープデザイン社も月1回の頻度で来星し、直接対話することでスピードを維持しています。

ジュロン・レイクが具体的になっていく様は、地元の人たちはもちろんのこと定期的に伝えられ、2020年のオープンにむけて皆の期待を高めていくようです。このガーデンを実際に体験できる日を、私たち自身もとても楽しみにしています。End