【書評】フィル・ナイト著「SHOE DOG (シュー・ドッグ)」
ナイキ(NIKE)創業者が綴る起業秘話

「SHOE DOG (シュー・ドッグ)」
フィル・ナイト 著 (サイモン&シュスター)

痛快な創業秘話に潜む日本企業の光と影
評者 野々村健一 (IDEO Tokyoディレクター)

ナイキの誕生に、日本が多大な影響を与えていたことをご存知だろうか。創業50年以上経った今も快進撃を続ける同社だが、そのルーツを知る人は実は少ない。創業ストーリーと言えば決まってアップルとスティーブ・ジョブスが話題になるが、ナイキ創業者のフィル・ナイトについて取り上げられることはまれだろう。しかし、実はナイキにも壮絶な起業秘話があり、しかもそのルーツは日本と密接に関わっている。そんなフィル・ナイトというアントレプレナーの自叙伝として昨年出版されたのが本書だ。

物語は、フィルがビジネススクール卒業後、ランニング中に日本製スニーカーを米国で輸入販売する商売を思いつくところから始まる。戦後日米間にまだ複雑な感情が残っている時代に、彼は日本製カメラがドイツ製カメラの覇権を崩したことをスニーカーで再現できると考えた。そこで目をつけていたオニツカタイガー(当時はタイガー)の本社に単身乗り込む。その後の展開もひじょうに面白いのでネタばらしはしないが、ナイキとオニツカタイガーや商社の双日(当時は日商岩井)との関係、なぜ今もナイキ本社内に日本庭園があるのかといった理由が赤裸々に明かされる。ある意味、海外企業から見た日本企業の光と影を垣間見ることもできる。また、フィルの目から見た、戦後間もない日本の姿や、日本の特殊な商慣習の描写なども興味深い。

米国で上場するところで本書はいったん終わるのだが、まだベンチャーキャピタルのようなビジネスすら存在しなかった時代に、世界一のスポーツメーカーの社風や文化が少しずつつくられていく様は痛快だ。本書内でも企業文化として当時フィルが目指していたのはソニーだったと語っている。今もなお、イノベーティブであり続けるナイキの姿は、日本企業にとっても学ぶべきヒントが多いのではないだろうか。まだ日本語訳が出版されていないが、小説感覚で手にとってみてほしい。End

ーーデザイン誌「AXIS」188号より

続報:2017年10月27日に東洋経済新報社より日本語版が発売される事が発表になりました。
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