デザイン誌「AXIS」の本文フォントが変わった! 
基本フォントとなった「AXIS ラウンド50」とは?

▲リニューアルしたデザイン誌「AXIS」の特集ページ。タイトル、本文にAXISラウンド50が使われている。

21年ぶりにフルリニューアルをしたデザイン誌「AXIS」。本文のフォントもAXISフォントベーシックからAXISラウンド50に変わったのをご存知でしょうか? リニューアル前からデザイン誌「AXIS」に携わるデザイナーに、ラウンドフォントについて、その特徴を聞いてみました。

AXIS フォント誕生の経緯

渡辺 まず私から、 AXISフォント誕生の経緯をお話したいと思います。AXISフォントは、もともとデザイン誌「AXIS」のために開発されました。オリジナルフォントによって「AXIS」の個性を表現したいという想いとともに開発されたのです。「AXIS」は、世界中のデザインに関するさまざまな情報や考え方を発信する雑誌でバイリンガル表記。AXISフォントを採用する以前は、いろいろな書体を和欧混植で組んでいました。和欧混植の場合、調整に手間がかかるのはもちろん、和文と欧文でトーンのずれが出てきてしまいます。そういった理由もあって、開発されたのがAXISフォントです。出来上がったフォントは、端正で、スマート、ウエイトが豊富、そして可読性が高い。かなり完成度の高いフォントだと思います。

▲AXIS189号特集ページより。

今回そのAXISフォントをベースにしてラウンドが生まれました。普通のラウンドフォントは全体が丸くなっていますが、AXISフォントラウンドは外側の縁だけが丸くなっていて内側はシャープなままです(角丸と呼んでいる)。そこから柔らかいがすっきりした印象が生まれていると思います。そもそも「AXIS」のリニューアルに関しては、ターゲットを拡げる、と言うことがありました。今までもデザインだけでなく、多様な情報を扱ってきましたが、リニューアルを機に、ビジネスやテクノロジーをはじめ、デザインに関心のある一般の人までより広い範囲の人々に、デザインの可能性や魅力を伝え、常に新しい提案をして行くことを目指しています。フォントの選定においても、この狙いを実現するために、基本書体をベーシックな AXISフォントから、より親しみやすい「AXISラウンド50」に変えました。

▲AXIS189号の本文組み。

ーー実際ラウンドを使用してみて、どうですか?

山崎 実はそれほど変化がないんですよね(笑)。ただAXISラウンドフォントのすごいところは本文でも見出しでも使えるという点があります。 AXISベーシックをベースにつくられているため、本文組みなどの小サイズから、見出しなどの大サイズまでさまざまな組み方に対応できるという特徴があるのです。小サイズ、細ウエイトの組み合わせでは変化を感じにくいのですが、見出しに使うくらいの大きな文字になると、スタンダードに比べてだいぶ柔らかい印象があると思います。

なぜ今AXISラウンドフォントが生まれたのか?

山崎 なぜ角丸が出てきたかと言うと、DTPの普及や高精度印刷表現が当たり前となった今、シャープでエッジが立っている書体が普及し、クリアでノイズレスな表現に人が見慣れてしまったというのがあるのではないでしょうか。それで、ちょっとインクが滲んだような、不明瞭なもののほうに、新鮮さや親しみを感じる人が増えたのではないかと思います。リニューアルは、ターゲットを拡げるというコンセプトなので、そういう意味では、結構合致しているのではないかと思っています。

▲AXIS 189号の目次より。

入澤 書体は時代の空気を反映して誕生すると思います。もともとフォントは、活字をデジタル化したものになるので、テクノロジーが進化した今だからできる書体というのがあり、ラウンドもそうなのではないかと個人的には思っています。
AXISフォントの良さは5年、10年使っても飽きられないというところにあるのではないかと思います。逆に言えばすごくキャラクターが強いわけではない。シンプルだけどヒューマンなよさがあるように思います。主張し過ぎず、個性的過ぎないというところです。

ーー入澤さんはAXISフォントができる前から「AXIS」のデザインを担当していますよね? ベーシックを使う前はどんなフォントを使っていたのですか?

入澤 具体的に何を使っていたのかは入社してすぐだったので忘れてしまいましたが、AXISフォントができる前は10書体以上使っていたと記憶しています。デザインの多様性があるのはいいことですが、ページレイアウトによるキャラクターがだんだん複雑になってしまった印象があり、当時のADだった宮崎さんが吉岡徳仁さんの表紙の号(93号)からAXIS フォントだけにして誌面をフラットに組もうと新しいスタートを切りました。

新田 書体はやっぱり時代を反映していると思います。合理的になったり、硬い印象のものが増えてきたと思ったら、揺り戻しが来ているのではないかと。例えば写真でも便利なデジタルカメラがこれだけ普及したら、今度は便利なだけでなく現像までに時間がかかる「写ルンです」が流行ったり。音楽でも音質の良さを追求すると同時に、アナログのレコードが見直されたりしていますよね。行き過ぎた合理性から、ちょっと戻るというか、エッジが効いて未来感があるところから揺り戻して、人々が心地よいと感じる「ちょうどいいところ」を見つけようとしている時代なのではないかと思います。ラウンドフォントも全部丸くはしない。外側は丸いが内側はシャープ、ラウンド100もあるが50ではどうかというように、「ちょうどいいところ」を探しているように思えます。

渡辺 普通の丸ゴシックは可愛くなりすぎちゃうんですよね。AXISフォントのラウンドはそのあたりのバランスが良い。
本文組みに使えるラウンドフォントって今までなかったのではないかと思います。そういう意味では非常に画期的なフォントなんです。

▲AXIS 189号 バルミューダ代表 寺尾 玄さんの連載「Pop Gap Creative」より。

ベーシックがあったからこそのラウンドフォント

山崎 それはしっかりとしたベーシックがあったからだと思います。ベーシックの完成度が高いから、それを発展させたラウンドも完成度が高い。最初からラウンドフォントをつくろうと思ってできたフォントだったら、本文組みに使うのは難しいと思います。

渡辺 そこがこのフォントの素晴らしさだと思います。

ーーレイアウトにフォントを流し込むのは楽ですか?

山崎 うーん、正直いうと実は結構詰めが難しい書体なんです。

入澤 デリケートな書体なんですよね。

渡辺 フォントはよく声に例えられますよね。同じことを話していても声音によって、その印象はガラリと変わってしまう。フォントも声と同じように書いてある内容の印象を変えてしまいます。そこにフォントの重要性があるように思います。AXIS フォントは、スマートで優しい印象ですよね。それが今回さらに柔らかく温もりを感じるような方向になったかと思います。

ーーそうですか? 素人目には優しいと言うよりは大人のフォントと言う感じがしますが。

山崎 アルファベットのほうにより優しさを感じます。例えばヘルベチカとかユニバースとかドイツやスイスで生まれたフォントはかっちりとつくられていて硬質な感じがしますが、AXISフォントは英文でも柔らかいですよ。

ーーなるほど。確かに海外からの原稿を全部AXISフォントに変換してプリントアウトすると、原文よりも読みやすくなる感じがします。

入澤 アルファベットだけでなく数字もそうですね。可愛過ぎずシンプル過ぎなくて、人間味があリます。

渡辺 日本的な印象もありますね。ひらがなに近い欧文という感じがします。

山崎 直線の部分が少なく、大部分が曲線で構成されるようにデザインされているんです。

渡辺 だからしなやかな感じがするんですね。ユニバーサルデザインフォント(一般の人だけでなく、障害者や外国人などできるだけ多くの人が利用可能なデザインをコンセプトとしたフォント)とは謳っていませんが、細字でも読みやすく、人に優しい書体だと思います。

ーーと言うと、ラウンドはどんな使い方に適しているフォントだと思いますか?

入澤 たぶんこれだけカスタマイズが可能な書体は少ないのではないかと思います。字幅に関してもバリエーションがありますし、媒体を選ばず、スマホでも紙媒体でも使えます。コーポレートフォントには便利だと思います。

渡辺 いろいろなデバイスに展開しても使いやすいです。コンデンスもありますし。

山崎 ラウンドフォントの開発についての取材をしたときに、食品のパッケージに良いのでは?という話を聞きましたが、確かに角が取れて、口に入れても痛くないような、美味しそうな書体になった印象があります。食品関係のテキストなどには良いのではないかと思います。

新田 「Simple but Human」がコンセプトのフォントというところから言うと、物語を語るのに適していると思います。映画の字幕やニュースで使ってほしいなと思っています。難しい話や硬いニュースでも、またエッセイでも、何でもていねいに語ってくれるので頭にすらすら入っていくと思います。

デザイン誌「AXIS」のエディトリアルデザイン

▲上の段、リニューアル前の号(186号)、リニューアル第1号(187号)、第2号(188号)。
下の段 創刊号(1号)、フォントがエンボス加工された表紙(123号)、 AXIS フォントコンデンス(長体フォント)誕生の号(130号)AXISフォントを初めて使った号(93号)

ーーフォントだけでなく、「AXIS」のデザイン全体についてはどう思いますか?

入澤 手前味噌ですが、王道感を目指しているように思っています。王道、と言うのかオーソドックスと言うのか。

新田 どのページを見てもAXISっていう感じがしますね。それは統一感があるということですが、退屈でもあります。そこからちょっと崩していくところがあってもいいのかもしれません。

渡辺 今までは硬派な雑誌という印象がありましたが、毎号、毎号、冒険してそこから脱却していってもいいと思う。もっと弾けてもいいと思っています。

入澤 ただそれだけでなく継続も大事かなと。続けていくと言うところにもAXISらしさを感じています。AXIS らしさは、ブランド力の一部でもあるので、そこを損なわずに新しくしていくことが大事だと感じています。

渡辺 継続しながらも、イノベーティブ、新しいことをやっているなと言う雑誌を続けていきたいと思っています。End

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