第20回文化庁メディア芸術祭の受賞作品展。
拡張しつづけるメディアアートの領域

第20回文化庁メディア芸術祭の受賞作品展が9月28日(木)まで開催中だ。20回の節目となる今年は、会場をNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)と東京オペラシティ アートギャラリーほかに移し、世界88カ国・地域の応募作品4,034件から選ばれた全受賞作品を展示している。

この芸術祭は、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門から成る。「シン・ゴジラ」(エンターテインメント部門大賞)、「ポケモンGO」(エンターテインメント部門優秀賞)、「君の名は。」(アニメーション部門大賞)など昨今話題をさらった作品が受賞するなか、アート部門では、ロボット、バイオ、映像・写真、ソフトウェア(画像認識技術、VR)といった要素が引き立ち、メディアアートの領域や、テクノロジーとアートの関わりについて問いかけるラインアップとなった。以下、主だった作品を紹介する。

テクノロジーのショーケース化するアート部門

全応募作品のうち半数を超えるアート部門で大賞に輝いたのは、ドイツ人作家のラルフ・ベッカーによる「Interface I」。ベッカーは「ランダム」をテーマに自ら開発したソフトウェアを使った作品を制作している。この作品は、モーター、ワイヤー、赤いゴムバンドから成るユニット192組をつなげ、空間に設置された3台のガイガーカウンターからの入力情報によってランダムに動かしている。独立したユニットを上下左右につなげることによって個々の振る舞いを抑制しあい、全体としてあたかもひとつの生物が意思を持ってうごめいているようにも見える。

アート部門の優秀賞は、本ウェブでも何度か取り上げている「Alter(オルタ)」。ロボット工学と人工生命のふたつの立場から「生命らしさとは何か」を研究しているプロジェクトだが、ひじょうに高度なテクノロジーのうえに成り立つオルタの存在が「アート」としてオーディエンスにどう受け止められるのか興味深い。「誰も見たことがないものをつくり出すのがアートの真髄だと思う。大賞が取れずに残念だ」と悔しがる石黒 浩教授(大阪大学)に同調するかのように、オルタの動きや呟きも日本科学未来館に常設されているときより烈しいように感じられた(実際にはプログラムをそのように調整しているとのこと)。

近年注目を集めている、細胞や微生物を使った芸術「バイオアート(ハイブリッドアート)」の分野からは、イスラエル人デザイナー、オリ・エリサルの「The Living Language Project」が優秀賞に。高度な情報交換・処理能力を持つとされる土壌細菌から抽出したバイオインクを用いて、ペトリ皿の上に古代ヘブライ文字を書き、その上に細菌のエサとなるプロテインで現代ヘブライ文字を書き重ねる。エサを食べた細菌が繁殖することで、時空を超えた文字の変遷を見つめるというコンセプトだ。

アート部門 優秀賞の映像インスタレーション「培養都市」。写真家の吉原悠博が2年半かけて撮り続けたのは、東京都心から新潟・柏崎刈羽原子力発電所までの「高電圧送電ケーブルのある光景」。吉原は、ふたつの領域を結ぶ山間部のダム、河川沿いを行き来するうちに、「地方でつくられた電力が都心部に向かって川のように流れていく一方、黒く太いケーブルや鉄塔が日本の風景を分断しているように感じた」と言う。4K一眼レフカメラで撮影され、ハイビジョンプロジェクターで投影される風景は美しいが、考えさせられる作品だ。

アート部門 優秀賞「Jller」は、ベンヤミン・マウス(ドイツ)とプロコップ・バルトニチェク(チェコ)による作品。ドイツのイラー川の底から採取された約7,000個の小石を、画像認識技術によって種類と年代順に分類するシステム。「モノを蒐集しソートする行為が、原初の人を人たらしめた要因」という独自の考えに基づく、産業オートメーションと地史学を結びつける研究プロジェクトの一環だ。自らは「極めて複雑で無益なマシン」と言うが、選び取られた小石が1個ずつ台に置かれる硬質な音とともにはるかな時間の積層が可視化されていく表現としての評価は高かった。

アート部門 新人賞に選ばれた津田道子「あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。」。絵画・映像史においてたびたび論じられてきた「枠(フレーム)」をモチーフに、鏡やビデオなどから成るインスタレーション。12の枠が吊るされた展示のなかに入っていくと、鏡に映った像や過去の映像などが入り乱れ、自分の居場所がわからなくなるような不安感を覚える。「人は枠で切り取られたものを勝手に映像だととらえてしまう。テレビやスマホなど目に映るものすべてが映像という時代に、シンプルな体験を通じてその本質を見直してみたかった」と津田。

エンターテインメント部門のインパクト作品

エンターテインメント部門 優秀賞を受賞した市原えつこの「デジタルシャーマン・プロジェクト」は会場内でも突出したインパクトを放つ。UIデザイナーとして勤務後、日本的な文化・習慣・信仰を読み解き、テクノロジーを用いて新しい視点を提示する作品を制作。同作は肉親の死別体験に基づき、故人のしぐさや身体的特徴を再現する動きのプログラムを開発し、家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせて49日間一緒に過ごせるというもの。デジタル技術を「呪術、魔術」として用い、人間の本質的な感覚を解放しようという試みが評価された。作品は不気味ながらも、思わず親しみを感じてしまうような瞬間もある。

エンターテインメント部門の大賞は、総製作費数10億円と言われる「シン・ゴジラ」。一方、新人賞には岡崎体育と寿司くんによる総製作費6万円のミュージックビデオが選ばれた。岡崎体育といえば現在、「ブス?否、美人」の連呼が英語っぽく聞こえる「Natural Lips」がヒットしているが、受賞したのはそれに先立つ「MUSIC VIDEO」のミュージックビデオだ。アマ・プロ問わず膨大なミュージックビデオがネットで配信される時代に、よく「ありがち」な映像演出・様式をひたすら列挙していく内容で、「クリエイションとは何か」を楽しく問いかける。SNSを介して再生回数は2,400万回を超え(9月17日時点)、「MUSIC VIDEO」のパロディ版も多数生まれている。End

平成29年度[第20回]文化庁メディア芸術祭受賞作品展

会期
2017年9月16日(土)〜28(木)
会場
NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、東京オペラシティ アートギャラリー、他サテライト会場。*入場無料
詳細
http://j-mediaarts.jp/