第19回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展が開催中

東京・六本木の国立新美術館を中心に「第19回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展」が開催中だ(2月14日まで)。今年度はアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門に対して、世界87の国と地域から4,417作品が寄せられた。本展では各部門の受賞作品のほか、審査委員会による推薦作品、メディア芸術の発展に貢献した作家に贈られる功労賞作品などが展示されている。

会場は国立新美術館を中心に、TOHOシネマズ 六本木ヒルズなど全4カ所。ここでは新美術館での展示のなかからいくつかを紹介する。特に目を引いたのは、人間の身体とテクノロジーの関係性について考察した作品だ。コンピュータ内部で行われている計算をゲーム盤のような操作によって体感・視覚化する試みや、さまざまなデジタルツールを駆使しながら最終的には緻密な手作業で編集していく映像など、それぞれの表現を通じて人間とコンピュータのあいだにある壁や可能性を捉え直そうとする取り組みが印象的だ。


アート部門 大賞
「50 . Shades of Grey」CHING Waiching Bryan(英国)
作者が過去30年間に学んださまざまなプログラミング言語を“遺産”として額装すると同時に、それらの言語を用いて50階調グレーのグラデーション画像を最新型のMacで作成した。今ではほとんど使われなくなったプログラミング言語も多く、目覚ましい進化の裏で衰退し忘れられていくテクノロジーの対比を視覚化している。


アート部門 新人賞
「算道」山本一彰(日本)
作者が独自に開発した計算方法「論理珠算」は、1920年代のドイツの数学者による組み合わせ理論がベースとなっている。「応用数学をやっていて頭のなかの計算を可視化してみたいと思った」と作者。そろばんのような計算器は、四則演算だけでなくコンピュータが行っている計算もできるという。アナログとデジタルの境界について考えさせられる興味深い作品だ。


アニメーション部門 大賞
「Rhizome」Boris LABBE(フランス)
最小単位でうごめいていたものが次第に形をなし、無限に生成されながらやがて渦となっていくという11分25秒の短編アニメーション。ドゥルーズ=ガタリが提唱した概念「リゾーム」に着想を得て、ミニマルミュージック、エッシャーやブリューゲルの絵画、遺伝学といったサイエンスまで想いを馳せている。手描きによる繊細な絵にも驚かされるが、宇宙の万物流転の営みを目の当たりにするような壮大な世界観と気迫に圧倒される。


エンターテインメント部門 優秀賞
「Solar Pink Pong」Assocreation / Daylight Media Lab(オーストリア)
電柱や建物に取り付けられたコンピュータ制御の鏡により、路上に映される太陽の反射光のボール(ピンク色)と遊ぶことができるストリートビデオゲーム。太陽光があればどこにでも設置でき、プロジェクターやスクリーンのいらないシンプルな仕組みと、コンピュータが介在することで、人間と都市と自然のあいだに“ハプニング的”なコミュニケーションが生まれる面白さが評価された。


エンターテインメント部門 優秀賞
「Drawing Operations Unit: Generation 1」Sougwen CHUNG(カナダ)
独自に開発したロボットアームが作者本人の手の動きを模倣(スキャニング)して協働で描画するというインタラクティブなパフォーマンス。予定調和にはいかないアクション・ドローイングは人間とロボットによる共同作業について、1つのアイデアを提示しているように見える。


エンターテインメント部門 新人賞
「group_inou『EYE』」橋本麦/ノガミカツキ(日本)
自作ソフトでGoogleストリートビューのパノラマ画像をダウンロードし、人物の3Dモデルを配置して合成したという疾走感溢れるミュージックビデオ。アーティストにポーズをとってもらい3,500枚もの写真を撮影するなど、デジタルテクノロジーを駆使しながらも手作業による緻密な映像づくりが評価された。(文・写真/今村玲子)


平成27年度[第19回]文化庁メディア芸術祭 受賞作品展

会 期:2016年2月3日(水)~2月14日(日)
会 場:国立新美術館、TOHOシネマズ 六本木ヒルズ、スーパー・デラックス、
    セルバンテス文化センター東京
入場料:無料
ウェブ:http://festival.j-mediaarts.jp



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。