ニュージーランド、ウェリントンまでちょっと旅をしませんか?
アーティスト4組の曲でミュージック・トリップ

エンターテインメントが集中する南半球の小さな首都

まだ20歳ながら、フジロックフェスティバル’17にメイン・アクトのひとりとして出演したロードやその翌月に初来日したキンブラのような若い女性アーティスト、8月に楽曲制作から録音までをライヴ・ストリーミング配信して、時間をおかずにニュー・アルバムを発表という試みをしたクラウデッド・ハウスのニール・フィンのようなべテランまで、ニュージーランドは人口500万人もいない国の大きさの割には、次々と世界で活躍するアーティストを送り出している。
 
その音楽シーンの重要都市といえば、国内最大の都市で経済の中心地オークランドはもちろん、アーティストを多く輩出しているカンタベリー地方のクライストチャーチ、そして首都のウェリントンも注目すべき街である。

ガイドブックのロンリー・プラネットが「世界で最もクールな小さな首都」と呼んだウェリントンはニュージーランド北島の南端という国土の中央に位置する。当然政治の中心地だが、同時に文化都市としても知られる。テ・パパ(ニュージーランド国立博物館)をはじめとする博物館、美術館、ギャラリーがあり、ニュージーランド交響楽団やロイヤル・ニュージーランド・バレエ団が本拠地としている。隔年開催のニュージーランド国際アート・フェスティバルなどの文化フェスティバルも盛んだ。また、近年はこの街が生んだ『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督らの映像作家らによって、世界的な映画制作の拠点ともなり、今やハリウッドならぬ「ウェリウッド」とも呼ばれる。

音楽の分野では、05年にマッセー大学とヴィクトリア大学ウェリントン校 のプログラムが統合されて設立されたニュージーランド・スクール・オブ・ミュージックのような教育機関の存在もあるが、ポップ音楽にとっては、街の規模よりもはるかに賑わうナイトライフの存在が大きいだろう。

ウェリントンは人口40万人ほどで、オークランドの3分の1に過ぎないのだが、港と丘陵地帯に囲まれ、市街地の面積が狭く、そこに市の機能が集中している。その中心業務地区で働く人の数は6万人ほどで、オークランドのそれとあまり変わらないという。そのために街の規模にもかかわらず、中心業務地区には大都市の感覚がある。だから、想像されるよりもずっと大きな需要に対応すべく、ダイニングやエンターテインメントの分野が発展した。この街のコーヒー文化は有名だし、地ビールも人気で、ヒップなバーも多いとされている。実のところ、市民一人あたりの飲食店の数はニューヨーク市よりも多いという統計もある。当然ながら、ライヴ音楽を提供するバーやクラブも多いわけだ。

ウェリントンは国の首都で港町でもあるから、多文化が交差するハブであり、街角から様々な音楽が聞こえてくるが、過去数十年の音楽の移り変わりの中で、国際的にも知られているのは、90年代に高い人気を得たバンド、シハッドが先導したオルタナティヴ・ロックの流行と00年代にニュージーランド産レゲエの中心地のひとつになったことだろう。とりわけ南国の島国生まれの音楽レゲエの根強い人気は、ニュージーランドがポリネシアの一部でもあることを改めて思い出させてくれる。

今月のプレイリスト

▲ジャケット写真 左上から:ファット・フレディズ・ドロップ「Bays」、ブラック・シーズ「Fabric」、レディホーク「Wild Things」、エレクトリック・ワイア・ハッスル「The 11th Sky」

さて、今月のプレイリストは、そんなウェリントン出身のアーティスト4組の曲をお届けする。


▲Fat Freddy’s Drop”Slings And Arrows”|ファット・フレディズ・ドロップ公式ページ

ファット・フレディズ・ドロップはレゲエ、ダブ、ソウル、ジャズ、そしてマオリの伝統などをミックスした音楽で人気の7人組。90年代後半に地元のいろんなバンドのメンバーが集まったジャム・バンドとして始まり、ライヴ活動で評判を高めた。00年代前半に自らのレーベルを立ち上げ、メンバーも固定化。03年にドイツでシングルがヒットして、欧州でもファンを獲得し、毎年ツアーに出かけるようになる。そして満を持して、05年に最初のスタジオ録音アルバム「Based on a True Story」を発表すると、ニュージーランドで初めてチャートの1位となるインディ・レーベル発売のアルバムとなり、自国のアーティストとして最高の売り上げを記録するロングセラーとなった。

この〈Slings And Arrows〉は15年の「Bays」から。このアルバムもやはりチャートの首位に輝いた。


▲The Black Seeds “Back To You”|ブラック・シーズ公式ページ

98年結成のブラック・シーズもレゲエにダブやファンク、ソウル。アフロビートなどを融合させたサウンドで人気のバンド。01年にデビュー・アルバムを発表すると、宣伝にかけるお金がほとんどなかったにもかかわらず、プラチナ・ディスクに認定される売り上げを記録した。欧州でも人気があり、11年にローリング・ストーン誌ドイツ版に「今世界最高のレゲエ・バンド」と呼ばれたこともある。この〈Back To You〉は今夏に発売されたばかりのニュー・アルバム「Fabric」から。


▲Ladyhawke”The River”|レディホーク公式ページ

レディホークは、女性シンガー・ソングライターのフィリッパ・「ピップ」・ブラウンの芸名で、85年の同名の映画から名付けられた。00年代前半にウェリントンのロック・シーンで、トゥー・レーン・ブラックトップのギタリストとして活動。07年にレディホークと名乗ってソロに転身。80年代のサウンドに影響を受けたポップな路線で、08年のデビュー・アルバムはチャートの首位に輝いた。

この〈The River〉は16年のアルバム「Wild Things」から。


▲Electric Wire Hustle “I Light A Candle”|エレクトリック・ワイア・ハッスル facebookページ

エレクトリック・ワイア・ハッスルはエレクトロなR&Bを聞かせるデュオ(デビュー時はトリオ)。07年に結成され、最初に彼らのレコードを世に送り出したのは、09年に12インチ・シングルを発売した日本のワンダフル・ノイズ・レーベルだった。同年末に発表したデビュー・アルバムが英国の有名DJジャイルス・ピーターソンらに気に入られ、一躍その名が広まった。〈I Light A Candle〉は16年のアルバム「The 11th Sky」から。

今月のプレイリスト(Spotify版)>>