コロンビア・カリまでちょっと旅をしませんか? 
アーティスト4組の曲でミュージック・トリップ

南米のコロンビアというと、長らく麻薬に起因する抗争、誘拐、殺人事件が多発して非常に危険な国というイメージがつきまとってきた。90年代までは実際にそうだったわけだが、近年は好景気と政府の治安対策、反政府武装勢力の和平交渉の進展などで、犯罪率が下がっている。そのおかげで、観光客も増えており、有名旅行ガイドブック「ロンリー・プラネット」の2017年に旅行すべき国の第2位に選ばれたほどだ。

カリブから、太平洋から、影響を受ける「世界のサルサの首都」

音楽においても、コロンビアは中南米全体で人気のダンス音楽クンビアを生み、世界的なスーパースターになったシャキーラやフアネスを送り出すなど、常に注目すべき国だったが、近年はその存在感がさらに増している。ビルボード誌は2017年に過去2年間のラテン・チャートにコロンビア以上に大きなインパクトを与えた国は無いと記した。

その活況は、ラテン・ポップ、クンビアやサルサ、バジェナート(カリブ海地方発祥の民謡)などに加え、オルタナティヴな音楽も発展しているからで、クンビアにエレクトロニカなどをミックスしていたサウンドで人気のボンバ・エステレオなどが国外でも高い注目を集めている。

今回取り上げる街は、コロンビア第三の都市カリだ。ここも麻薬カルテルの拠点だった街で、マフィアの抗争のせいで、かつては殺人事件の多発が伝えられたが、近年治安は大幅に改善したという。カリには2013 年にワールド・ゲームズが開催されたコロンビアのスポーツの中心地という顔もあるが、最も有名な名称は「世界のサルサの首都」だろう。

ご存知の通り、サルサはプエルトリコとキューバの音楽を基にニューヨークで生まれたラテン音楽だが、コロンビアで人気を得て独自に発展し、特にカリでとても盛んになったのである。毎晩たくさんのクラブでサルサが演奏され、カリの住民は世界のどこの人よりもサルサをうまく踊ると言われる。

ただし、今回のプレイリストは「サルサの首都」の別の顔にも注目した。コロンビアは多様な人種で構成される多文化的な国で、縦に走る3つの大きな山脈が国を分かつこともあり、その多様性は中南米諸国の中でも極めて強い地域主義ともなっている。地域ごとに特有の文化があるのだ。音楽においては、とりわけコロンビアが南米で唯一のカリブ海と太平洋の2つの海に面する国であることが大きい。両方から受け入れた音楽的影響のミックスが多彩な音楽を生んできたのである。

カリは南西部にあるバジェ・デル・カウカ県の県都だ。カリは内陸部の標高995mの高地にあるが、県は太平洋に面する。この太平洋岸の地域は、労働力としてアフリカから連れてこられた奴隷の子孫が、環境を好んで多く住み着いたので、コロンビアの中でもアフリカからの伝統を色濃く残す地域なのだ。

毎年8月、カリではペトロニオ・アルヴァレス・パシフィック・ミュージック・フェスティバルという太平洋岸地域のアフリカ伝来の特有の文化を祝する音楽フェスティバルが1週間にわたって行われる。20年を超える歴史を持ち、アフリカ系ラテン音楽のフェスとしては世界最大級とも言われ、太平洋岸地域の各地から、民俗音楽の伝統に則ったバンドから実験的なアーティストまで100組以上が出演し、大いに盛り上がるのだ。

このフェスの人気も手伝い、太平洋岸地域のアフリカ系音楽の伝統に注目が高まる近年の状況も踏まえ、今月のプレイリストは、カリを拠点にするアーティスト4組の曲をお届けする。

今月のプレイリスト

▲ジャケット写真 左上からラ・マンバネグラ「La Mamba Te Invita」、サラマ・クルー「No Tan Listo (Remix)」、シアム「Cupido Disparó feat. Herencia de Timbiquí」、エステバン・コペーテ・イ・ス・キンテート・パシフィコ「Encuentro」

今話題の「ブレイク・サルサ」バンド、ラ・マンバネグラ

まず1曲目は、「世界のサルサの首都」にふさわしく、今話題のサルサ・バンド、ラ・マンバネグラの最新シングルから。とはいっても、グルッポ・ニーチェから始まるカリのサルサ・バンドの流れとは異なる持ち味の9人編成のバンドだ。彼らは70年代のニューヨーク・サルサにファンク、R&B,レゲエなどの要素を加えたパワフルなサルサを歌い演奏する。

彼らは自分たちの音楽を「ブレイク・サルサ」と呼んでいるそう。「ブレイクダンス」の「ブレイク」で、その形容は彼らがヒップホップやラガマフィンなどの音楽性も取り込んでいることを示している。17年に初のフル・アルバム「El Callegüeso y su Malamaña」を世界的に発売し、欧州でも好評のようだ。

国を超えたコラボレーション、サラマ・クルーとロス・ラカス

サラマ・クルーはアフリカ系コロンビアの音楽にヒップホップ、レゲエ、エレクトロニカなどの要素をミックスした音楽で人気のバンド。2010年にデビューし、米国のサウス・バイ・サウスウェストや欧州各国のフェスティバルにも出演し、注目を集めてきた。

この曲のリミックスでコラボしたのは、米国のオークランドで活動するパナマ系米国人のヒップホップ・デュオ、ロス・ラカス。彼らはグラミー賞にもノミネートされ、16年にはホワイトハウスでも演奏する機会が与えられた。こういった国を超えてのコラボは今後も増えていくだろう。

「ジャングルのピアノ」を使ったアフリカ系コロンビア音楽とポップの融合

エレンシア・デ・ティンビキは「ティンビキの遺産」という名前通りに、南西部のカウカ県のティンビキ地方出身のアフリカ系コロンビア人ミュージシャンの11人組。00年に結成され、この太平洋岸地域のアフリカ系音楽を象徴する楽器で、「ジャングルのピアノ」とも呼ばれる木琴の一種、マリンバ・デ・チョンタ(その原型は西アフリカのバロフォンだろう)を目立って用いて、地元の伝統の音楽にレゲエやサルサの影響を取り込んだ音楽で注目を集めてきた。

そんな太平洋岸のアフリカ系音楽への関心がポップ音楽の世界でも窺えるのが、カリ出身の夫婦デュオ、シアムの最新シングルだ。彼らはTVの人気オーディション番組「Xファクター」のコロンビア版「El factor X」の09年の優勝者だが、そんな主流ポップの世界にいる彼らまでがエレンシア・デ・ティンビキとコラボして、マリンバのサウンドと独特のリズムをフィーチャーしたシングルを作るところにも、アフリカ系コロンビア音楽への関心の高まりが窺える。

太平洋岸地域の伝統を受け継ぐ音楽を演奏するキンテート(クインテット)

エステバン・コペーテ・イ・ス・キンテート・パシフィコも、マリンバ・デ・チョンタやガイタ(伝統的な縦笛)などを用いて、太平洋岸地域の伝統を受け継ぐ音楽を演奏するキンテート(クインテット)。

リーダーのエステバン・コペーテは、前述の音楽フェスティバルにその名前が冠されたミュージシャン、作曲家、民俗音楽学者だったペトロニオ・アルヴァレスの孫である。エステバンは国内でも貧しい県として知られるチョコ県出身だが、カリにあるヴァレ大学でサックスを学び、出身地の田舎ぽい音楽に都会的な感覚を融合したサウンドを作り出すようになった。

彼らは自作曲に加え、有名なポピュラー・ソングやサルサのヒットを大西洋岸のリズムを加えた編曲で料理したりもする。

この曲は最新アルバム「Encuentro」からで、ゲスト歌手にカタリーナ・ガルシアを迎えている。カタリーナはコロンビアのバンドながら、フランスのジプシー・スウィングなどに強い影響を受けたユニークなサウンドを聞かせる人気バンド、ムッシュ・ペリネの女性歌手だ。コロンビアのオルタナティヴ・ポップの代表格のひとつ、ムッシュ・ペリネ自体は首都ボゴタを拠点にしているが、カタリーナはカリの出身である。

今月のプレイリスト(Spotify版)