グラフィックデザイナー山野英之
「TAKAIYAMA inc.」の初個展。
建築に通じるグラフィックデザインとは?

▲山野は、会場であるDESIGN 小石川のロゴを手がけた。

グラフィックデザイナーの山野英之が主宰する「TAKAIYAMA inc.」の初個展「3F/B.C.G」がDESIGN 小石川で10月9日まで(会期延長)開催されている。これまでの15年の仕事を一望でき、なかでも空間の特性を生かした展示方法がユニークだ。

グラフィックと建築を結びつける「グリッド」

山野英之が手がけるグラフィックデザインの特長は、端的に言えば、スタイルがないこと。決して没個性という意味ではない。焼印のような作家性が極力抑えられているということだ。山野のアプローチは一貫して、プロジェクトごとの課題に「Focus(焦点)」して、グラフィックを施すにふさわしい「Frame(枠組み)」を立ち上げる。それによって、デザイナーの情緒や感性に依拠しすぎることのない「Function(機能)」としてのグラフィックを提供する。彼が大切にしてきたこれらの「3F」は、建築やプロダクトデザインにも通じる考え方だ。

▲さまざまな展覧会のグラフィックを手がけている。

そのためか、建築家との仕事が目立つ。山野自身が建築のバックグラウンドを持っていることも理由のひとつかもしれないが、特にトラフ建築設計事務所や芦沢啓治らとは長い付き合いで、彼らの個展の印刷物や書籍などのグラフィックデザインを数多く手がけている。

本展の会場構成を担当した建築家の元木大輔は、今回はじめて山野と組んだ。「確かに、山野さんの考え方は建築家っぽい」と元木。建築家の中山英之が本展のために書いたテキストをベースに、山野と対話するなかで、建築とグラフィックデザインに共通する「グリッド」を会場で表現するというアイデアにたどり着いた。

柱と梁がむき出しになったDESIGN 小石川のスケルトン空間を、1920年代に提唱された世界共通の建築様式(インターナショナル・スタイル)のイメージとして見立て、そこに同じくグラフィックデザインの統一ルールとして国際機関などに採用された「グリッド・システム」を重ね合わせる。

▲「グリッド・システム」に用いられる罫線のガイド。これをベースに図版や書体を配置してクリーンなデザインをつくることを、スイスのグラフィックデザイナーが提唱した。

▲床面には格子状のタイル痕があり、それも含めて空間と展示物全体が「グリッド」へのオマージュとなっている。

そのフレームの上に、TAKAIYAMA inc.の15年にわたる仕事を「印刷」「ロゴ」「本」「サイン」など10のキーワードにカテゴライズし、既存の柱と新しく設置した柱に振り分けた。柱の表面では各カテゴリーの考え方を紹介し、裏面にはアウトプットを展示。グラフィックの展覧会は平面になりがちだが、この空間ならではの特性を生かした立体的な展示手法が印象的だ。「実際にこの空間に来ないとわからない雰囲気を楽しんでほしい」と元木は説明する。

▲既存の柱に加えて、同サイズの柱を新設。トラフの展覧会(2014年、Creation Gallery G8)のためにつくったポスターはホチキスで留めると冊子になる。

▲柱の裏面は棚で、作品が並ぶ。

▲奥の壁面には山野によるプライベートワーク「B.C.G」。「ぼくの コンピュータ グラフィックス」という意味で、仕事と同じくらい大事なクリエイションだ。

カウンセラーのようなデザイナー

山野と長く仕事をしているアタッシュ・ド・プレスの竹形尚子は「山野さんはカウンセラーのような人」と表現する。「クライアントやコラボレーション相手にすごく興味をもち、一緒に考えてくれる。カウンセリングを受けているみたいで、最初はぼんやりとしていることも山野さんと話しているとだんだんはっきりしてくる。ほかのクライアントとも強い信頼関係で仕事をしているケースが多いという印象です」。デザイナーとしての個性や主張よりも、プロジェクトの本質を見極めて、適切な処方箋を差し出す。そんな問題解決型のスタイルが、ジャンルを超えて人を惹きつける理由なのかもしれない。

事務所のスタッフに「山野さんってどんな人ですか」と尋ねた。「僕、TAKAIYAMA inc.に入ってまだ1年半くらいなんですが、同じ立場と目線で見てくれる人です。山野さんも自身が描いた絵をみんなに見せて『どう思う』って意見を求めるし。でも、自分のなかでデザインのフレームワークがしっかりできていないと、鋭く突っ込まれます」。

そんな彼の肩にぶら下がっている小さなナイロンのポーチ(サコッシュ)は、山野が常に身に着けているのと同じもの。「事務所の近くにあるアウトドアショップで山野さんが見つけたんです。店主の手づくりで、シンプルで丈夫でリーズナブルだからみんなも使うようになって」。

シンプルで、しっかりしていて、山道にも便利。文字通り「高い山」のスタッフにとってユニフォームのようなポーチは、柔軟で機能的なTAKAIYAMA inc.のデザインスタイルを象徴しているのかもしれない。立体的なグラフィック空間と周囲の人たちの証言によって、山野の唯一無二のスタイルがじわりと浮き彫りになってきた。End

▲カテゴリ「Photo」には、TAKAIYAMA inc.ディレクションによる写真が並ぶ。

TAKAIYAMA inc. EXHIBITION「3F/B.C.G」

会期
2017年9月16日(土)〜10月9日(月・祝)11:00〜19:00(水曜休)最終日は17:00まで *会期が10/9までに延長となりました。
会場
DESIGN 小石川(〒112-0002 東京都文京区小石川2−5−7 佐佐木ビルB棟 2F)
詳細
http://designkoishikawa.com/exhibition/383/
トーク
10月7日(土)17:30〜には、山野英之、元木大輔(建築家、本展示会場構成)、芦沢啓治(建築家)、長岡 勉(建築家)によるギャラリートークを開催