「キリン 午後の紅茶」が立ち上げたリアル店舗。
成熟したブランドの次なる一手は体感

▲「Milk. Black. Lemon. BY GOGO NO KOCHA」の内観。Photos by Junpei Kato

10月上旬、紅茶の楽しみ方を提案するショップ「Milk. Black. Lemon. BY GOGO NO KOCHA」が、東京・代官山にオープンした。気分に合わせて茶葉を選んだり、相性のよいフードを組み合わせることができ、店内は紅茶からイメージした家具や照明があしらわれている。店名にも記されているように、実は「キリン 午後の紅茶」のコンセプトショップ。1986年の発売から30年を超え、ペットボトル入りの紅茶飲料として国内ナンバーワン(2016年実績)の同ブランドが、なぜ今、リアルな店舗の運営に乗り出したのか。

▲ショップ名「Milk. Black. Lemon. BY GOGO NO KOCHA」は、「午後の紅茶」のメインフレーバーから。

▲「今までにない紅茶らしさを発見してもらうような空間を目指した」と南木。

紅茶のサードウェーブとなるか

「近年コーヒーにはサードウェーブなどの動きが広がり、楽しみ方も多様化しています。一方、紅茶はディープな愛好者は増えているものの、楽しみ方が固定化している。もっといろいろな飲み方、楽しみ方を広く伝えられないかと考えました」と話すのは、本プロジェクトを担当した東 桃子(キリンビバレッジ マーケティング本部 商品担当 主任)だ。

30年以上取り組んできた企業ブランドとしての想いや製法に対するこだわり、何より「紅茶飲料を牽引している」という自負がある。これまでも「アレンジティー」「チーズに合う」「美容にもいい」といった情報発信を重ねてきたが、今は「ユーザーにとって情報よりもリアルな体験のほうが“自分ごと”になり、それを自ら発信してくれる時代」(東)。そこで、紅茶のおいしさや楽しさを五感で味わえるような場としてショップを立ち上げることにしたのだ。

夏季限定で「午後の紅茶」のかき氷やスムージーを販売した経験はあるが、常設店の運営は初めて。「まずは紅茶を好きになっていただきたいので、できるだけ企業色やブランド感は抑えたい。でもよく見ると『実は午後の紅茶がやっている』ということが“なんとなく”伝わるよう、メンバーとディスカッションしながらバランスを調整していきました」。

▲「午後の紅茶」のシンボルであり、アフタヌーン・ティーを広めたと言われる「第7代ベッドフォード公爵夫人アンナ・マリア」がひと休みしているイラストも。

インスタ映えする空間をどうつくるか

店舗プロデュースと設計を担当したのは、プランナー兼アーキテクトの南木隆助(電通)だ。「Good rest with Tea 紅茶で上質な休息を。」というコンセプトのもと、物件探し、空間設計、インテリアデザインまでを統括した。「最初にキリンから紅茶のレクチャーを受けたのですが、産地やペアリングの話など初めて知ることばかりで楽しかった。この感覚を大切にして、お客さんが発見しながら楽しめるような仕掛けを盛り込みました」(南木)。特に「インスタ映えするフォトジェニックな空間をいかにつくるか。また、いわゆるティーサロンとは異なるが、ゆっくり過ごしてもらえるような空間を目指した」と言う。

「すべてを紅茶でつくる」を合言葉に、天井高5mの開放的な空間の壁面には鮮やかなストレートティー色、床はミルクティー色、椅子のレザーにレモンティー色を配したほか、紅茶染めのクッションや、植栽もチャノキにするなど、空間のすみずみまで紅茶へのこだわりが詰まっている。

▲英国のクラシックなフローリングはミルクティーとストレートティーの色からサンプリング。

▲紅茶染めのクッションには、3種類の茶葉をイメージした異なる織り方のファブリックを使用。

特に目を引く、食品サンプルでつくった「紅茶ライト」は、ここで供される紅茶を忠実に再現したオリジナル照明だ。「ミルクティーは最初にミルクを注ぐのが定番。でも当初、LEDの光が透過しないため紅茶とミルクを上下逆にしたところ、『これはミルクインファーストではない』と東さんに却下されてしまいました。悩んだ末、なかにアクリルをはさんで光を透過する構造に。つくり手の強いこだわりと向き合うことができ、それが店舗を通じて、人々にも伝わればと思います」(南木)。

▲食品サンプルメーカーと製作した「紅茶ライト」が空間を紅茶色に彩る。

成熟したブランドだからこそ可能に

メニューは、紅茶に詳しくない人でも気分に合わせて3種類の茶葉や飲み方を選べるチャート式だ。ガラスポットでサーブされ、湯のなかで“ジャンピング”している茶葉が7割ほど沈んだら飲み頃。ミルクティーであれば「ミルクインファースト」で、レモンティーならば櫛形に切ったレモンの皮を下に向けて絞るとより香りが立ちやすい。こうした知識に触れることで、それまで何気なく飲んでいた人も紅茶とのつき合い方が少し変わるかもしれない。

▲茶葉を紹介するディスプレイ。店舗でも、「午後の紅茶」に使われているスリランカ産の3種類(キャンディ、ディンブラ、ヌワラエリア)の茶葉を使用している。

▲「紅茶とワインは成分が似ていて、ワインに合うものは紅茶にも合う」(東)。「Lemon Set」(税別700円)は、チーズ入りキッシュとレモンティーのペアリング。

▲スイーツ感覚で楽しめるアレンジティーの種類も豊富。

コンセプトショップの立ち上げには有名な建築家やデザイナーを起用して、注目度を高める例が多い。また、すでに周知のブランドであれば、そのカラーやキャラクターを強く押し出していくのも王道だ。しかし、商品の話題づくりやダイレクトなアピールのためではなく、「紅茶の魅力をまっすぐに伝えたい」という想いからスタートした本プロジェクトはこれらの方法をとらなかった。

ブランドの核となる味わい、つくり手のこだわり、背景にある紅茶文化を発見してもらうことによって、ユーザーの商品リテラシーが高まり、ビギナーから一歩進んだファンの掘り起こしにつながると考えたからだ。広さに加えて深み、ビジュアルに加えてタンジブル(直接触れる、実体がある様)であることの追求。成熟したブランドだからこそ踏み込めるブランディングの方法と言えるのではないだろうか。End

▲「Milk. Black. Lemon. BY GOGO NO KOCHA」外観。

「Milk. Black. Lemon. BY GOGO NO KOCHA」

所在地
東京都渋谷区猿楽町10-1 マンサード代官山1F(代官山駅から徒歩4分)
営業時間
11:00〜20:00
定休日
水曜日(年末年始を除く)
問合せ
03-6455-0913
詳細
http://mbl.gogo-tea.jp ※同店は「コンセプトショップ」という位置づけだが期間限定ではなく、継続的に営業していくとのこと。

■DATA
設計/店舗プロデュース統括:南木隆助(電通)
アートディレクション:古谷 萌(Study and Design)宇崎弘美 (電通)
戦略統括/CD:間宮洋介(刻キタル)
共同設計:山下佳恵(乃村工藝社)
施工管理:丸森幸男 鈴木 稔(乃村工藝社)
制作:彦田和良 緒方啓亮(乃村工藝社)
コピーライティング:キリーロバ・ナージャ 高彦祐紀(電通)
プランナー:加藤倫子 田中 克(電通)
グラフィックデザイン+イラストレーション(人物):湊村敏和 桜井衣南 伊藤 茜(6kai)
イラストレーション(フード):鈴木あり
印刷:株式会社日庄
メニュー制作/運営:松田龍太郎 中達敬治 木村祥子 相嘉隆宏 山口祐加(OISEAU)
紅茶指導:磯淵 猛
クッション制作:島津克隆(iroiro)
PR:下山亮一 岡 友也 (電通PR)
AE:藤浪裕人 北澤太朗 大隅幹史 越智浩樹 (電通)
撮影:加藤純平