京都のクリエイターユニット「at&on(アットオン)」の個展。
そのとき、その場から受けた刺激を形にする稀有な取り組み

▲京都のユニット「at&on(アットオン)」による個展の会場は、プロダクト、グラフィック、映像が共鳴しあうストイックな空間。Photos by Shu Nakagawa, at&on

プロダクト、グラフィック、映像のクリエイターから成る京都のユニット「at&on(アットオン)」による4回目の個展「EXHIBITION 04」が、東京・新宿のBギャラリーで10月30日(月)まで開かれている。今年のミラノ・フォーリサローネの個展で発表した作品に最新作を加えた、意欲的なものだ。

toolboxからat&onへ

at&onとは、2013年にプロダクトデザイナーの赤西信哉と竹内秀典が、「toolbox」というユニットを結成したことがきっかけ。ふたりは京都市北区に工房を構え、自分たちが面白いと思うプロダクトをつくりはじめた。2015年に東京で個展を開催するのを機にグラフィックデザイナーの大西正一と映像作家の中川 周が合流。2016年の京都、今春のミラノでの展覧会を経て、今回から4人の個性をより際立たせるために、それぞれのイニシャルを取って「at&on」と改称したのだ。

▲ミラノで発表した「tool no. 20」を発展させたベンチ。あらかじめ決めたグリッドの方程式に当てはめることで、テーブルや椅子、什器など、さまざまな用途に展開が可能。

▲ミラノで発表した「tool no. 21」は釘や金物を使わず、複雑な仕口によって4枚の板を組み合わせたテーブル。

赤西は「改称してtool(道具)という概念から離れたことで、より自由な形の探求が可能になった」と言う。これまでtoolboxとして発表してきた21の道具には、積木、テーブル、容器といったなんらかの機能が“一応”与えられてきた。あえて“一応”と記すのは、基本的に使い方をユーザーに委ねているからだ。しかし、今回、道具という制約から自由になった彼らが生み出したのは、もはや何の機能も持たない、木でつくられた何か、である。

例えば、黒く塗装された空間に浮かび上がる、鋭利な木の塊。これらは置き方を変えるたびに、新しいかたちが立ち上がる積木のようにも映る。木を削り出したかのように見えるが、実は、2つのパーツの接着。どう加工されているかわからない不思議さは、木目の選び方や加工の精度といった彼らの木工技術のなせる技。そう、彼らはデザインだけでなく、自らの工房で手を動かし、すべてのプロダクトをつくり出す。

▲オブジェ「No.22」。

三角形のオブジェは、自重で水平がキープできるように緻密に調整されている。触れたら切れそうなエッジと、磨きあげられて滑らかな表面が対照的だ。「手でつくりながら考える」と言うふたりがこだわるのは、見たことがない形をつくること。木工という、ある意味、材料や技術が成熟した分野にもかかわらず、既視感のあるものは潔く却下する。

▲三角形のオブジェ「No.24」。

今回の作品では、「見てくれる人、お客さんのことを考えるのをやめました。本当の意味で何もつくらないということをやってみたんです」と竹内。赤西も「プロダクト、アート、オブジェ、クラフト、なんとでも呼んでください」と言う。「今までのように、道具としてこう使うからこの形になったという言い訳がなく、なんでもないけれど面白いと思えるものを自信をもって出せた。次に展開するきっかけになると思います」。

自分たちが面白いと思うことだけをやる

会場では、そんなストイックなプロダクトに共鳴するように、映像とグラフィックがそれに負けない存在感を放つ。特に、これまで赤西と竹内のものづくりを伝えることに心を砕いてきた中川の、映像が際立っている。「事前にふたりのプロダクトを見ず、会場を設営するなかでどうするかを考えた」と話す中川は、カメラそのものを振動させて、撮影対象の角材や紙片が激しくブレる映像を制作。「線を震わせたら面になり、面を震わせたら立体になる。静止と運動が生み出す次元の移り変わりに興味があった」と自らの表現を追求した。


▲本展のために中川が制作した映像より。

いい意味でバラバラだ。しかし、集まるとひとつのセッションのようになる。そんな4人のあり方をロゴに落とし込んだのが大西だ。スイスの巨匠タイプデザイナー、アドリアン・フルティガーが開発した5つのフォントを並べ、全体としてまとまりが出るよう、繊細に調整していったと言う。「フルティガーの個性豊かな書体をあえてバラバラに使用することでat&onのコンセプトに近づくと考えました」(大西)。

▲大西による「at&on」のロゴマーク。フルティガーがつくったユニバース、フルティガー・ノイエ、セリファ、メレディエン、センテニアルをベースに制作した。

赤西に今後の展望を尋ねると、「特にありません」と、自分たちのペースを大切にする彼ららしい返事が。「個展は僕らにとって目的ではなく、何かをつくるきっかけにすぎない。普段はユニットらしい活動を何もしていないんですよ。でも、外に何かが立ち現れたとき、そこに向かってエネルギーを出していく。ブームで盛りあがったり、狙ったりしていないから、続けられるのかもしれません」(赤西)。

「at」「on」は前置詞でもある。そのときやその場所に刺激を受け、自分たちが本当に面白いと思うことだけをやっていく。改称を機に、彼らのそんな姿勢がより明確になった。End

▲at&onのメンバー。左から、赤西信哉、竹内秀典、大西正一、中川 周。

at&on EXHIBITION 04

会期
2017年10月18日(水)〜30日(月)11:00〜20:00 会期中無休
会場
B GALLERY(BEAMS JAPAN 5F)東京都新宿区新宿3-32-6
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詳細
http://www.beams.co.jp/bgallery/