「SUBJECT ⇌ OBJECT」に込められた
吉泉 聡が望むデザインの可能性

2017年11月18日よりデザインファームTAKT PROJECTによる初の個展「SUBJECT⇌OBJECT」展がアクシスギャラリーにて始まりました。2013年の設立以来、既存の概念を覆す実験的なプロジェクトを次々と展開してきたTAKT PROJECT。その根底にあるデザイン理念や展覧会にかける思いについて、代表の吉泉 聡さんにお話をうかがいました。

個展タイトルに込めた想い

普段はいわゆるクライアントワークにあたるデザイン業務もやっていますが、 TAKT PROJECTでは設立当初から、デザインを通じた社会への問いかけや問題提起としてのプロジェクトを自主研究的に行なっています。そこを見ていただきたいというのが、今回の展示の一番のテーマです。

クライアントワークにはまずクライアントが抱える課題があって、それを解決するアイデアを出して、製品という形に落としていくという大まかなプロセスがあり、「来年発売したい」といった比較的短いタイムスパンで取り組ませていただくことが多いです。対して自主プロジェクトでは、そもそもアウトプットが製品でなければいけないという意識を持たずに取り組むことから始めています。今回展示している7つの作品のうち、実際に製品になったものも1つしかありません。そのものを通して、見て触れた人にわれわれからの「問いかけ」を感じていただけることを第一に目指したもの作りをしたいと思っています。

この問いかけと呼んでいるものを、今回の展示を機に「subject」と名付けることにしました。また問いかけ自体をsubjectと呼ぶことに対し、それが具体化したものを「object」と呼んでいます。従来のクライアントワーク、受/発注の体系とは別の文脈でやっている自主プロジェクトなので、いわゆる工業デザインにおける製品を想起させる「product」という言葉は使わないようにしました。

subjectにあたる概念に「concept」という言葉を充てなかった理由は、conceptとは指針や方針を示すためのものであると思っているからです。今やっている活動や考えていることを多くの人に共有意識として持たせる上ではすごくいい概念だと思うのですが、自主プロジェクトで伝えたいことは指針ではなくやはり問いかけの要素が強いので、conceptとsubjectは切り離して考えるようにしました。

conceptという言葉がデザインの現場でよく使われているのに対して、例えば「今回のプロジェクトにおけるsubjectはこうです」といったように、subjectが使われている現場はないと思います。ただ、自分たちがやっていることをより皆さんに理解していただいて伝わっていくための適切な言葉は常に探していたので、この個展を機にsubjectという言葉を見いだすことができて良かったと思っています。歴史を調べてみると、subjectとobjectを対で使うというのはいくらか哲学の世界で前例があるようです。

余談ですが、「project」という言葉も、好きでいつも使っています。一般的には「work(作品)」にあたる内容でも、projectと呼ぶようにしています。「pro/前に」「 ject/投影する」、プロジェクトとはまさに「提案する」というのとほぼ同義の言葉です。社名にprojectを使っているのも、社会に問いかけを提案する姿勢を示す上で適切な表現だと思ったからです。言葉の意味の面白さはいつも意識しています。

自主プロジェクトとクライアントワークのこれから

「SUBJECT⇌OBJECT」を体現するものとして、「Composition」シリーズがあります。家電を素材から捉え直すきっかけを社会に投げかけたものです。現行の製造工程や作り方にとらわれず、他のアプローチや組み合わせの余地があることを、かたちを通して伝えています。これまでの自主プロジェクトの中でも特に多くの方々に興味を持っていただきました。先日デザイン・マイアミにてSwarovski Designer of The Future 2017に選出いただきましたが、そのきっかけもこのプロジェクトを見ていただいことにあるようでした。香港のM+(エムプラス)という美術館にも収容されています。

アクリルの中に電子パーツがある。誰でも不思議に思える様がある。多くの方がこのかたちを見たときに「なんだろう?」と足を止めてくださいます。ワクワクするとか、綺麗だねとか、なんだこれは、といったobjectから始まる心の引っかかりが、見る人が、その背景にある問い=subject自体に到達する深度を深めることにつながります。見た目がシンプルに面白いというのは、馬鹿にできない重要な要素だということです。

▲《COMPOSITION》 Photo: Masayuki Hayashi

subjectを難しく語る方は、たくさんいます。言葉を中心に、批評や評論、本というメディアを通じて世の中に提起するスタイルですね。僕らはデザイナーなので、かたちを作れるということがスキルとしてあります。そのスキルを、製品やかっこいいものを作るためのものとして捉えるのではなく、subjectにつながるように、subjectをより多くの人に魅力的に見せるという方向に使うということが重要です。

キャッチーな見え方をしていると、やはりそこに興味を持ってくれる人が増えて、subjectに関する議論がしやすくなるというのは、デザインがかたちを作る能力を持っているという上で非常に重要な、新しい使い方だと思っています。デザインはかたちじゃないといった議論がよくなされていますが、それでもかたちはすごい重要ですし、subjectとobjectどちらも重要なんです。

何も前情報がない人に「あれ?」と思ってもらえるようなものを作り出せるかどうかがobjectの力、もののパワーだと思います。もののパワーを作れるということでも、デザインは重要な役割を持っています。

▲《Dye It Yourself》 Photo: Masayuki Hayashi

今回の展示の試みとして、自分たちの作品とは別に、自分たちの作品でないものも一緒に並べて配置しています。それは他社さん製品であったり、歴史的なアイテムであったりさまざまです。「SUBJECT⇌OBJECT」を進める上で、社会の中で、歴史の中で、それまでとは別の新しい可能性を作るということを心がけています。今までなされきたことをどういう風に俯瞰して見れるか、どういう枠組みで世の中で捉えられてきたのかを意識することからでしか次のところには行けないと思っているので、どういう歴史の延長線上に新しいものを提案しようとしているのかということを展示として一緒に見せたいと思いました。

「Dye It Yourself」というプロジェクトの展示には、ボーフィンガーシュトゥールという1964年に世界で初めて量産されたプラスチックの椅子を併置しています。プラスチックで椅子を作ったという歴史は、「安価に量産したい」というsubjectがあって成り立っています。このプロジェクトではプラスチックでの大量生産という文脈を踏襲しつつも、そこにこれまでとは別の意味を持たせようということを目指しているので、これまでの歴史と次に来るかもしれない展開を対で見せられたら、鑑賞者の理解が進み、問いかけがもつ力が高まるのではないかと思いました。

一見関係のないように見えるもの同士を一緒に展示することで、両者をつなぐ文脈を紐解いていただければと思います。

▲TAKT PROJECTオフィスに準備されていたボーフィンガーシュトゥール

クライアントワークと自主企画という分け方が一番シンプルではありますが、クライアントと一緒に自主企画をやっていくというのが一番の理想形ですし、徐々にそのような機会が増えています。「このシリーズの来年モデルをデザインしてください」といったお仕事ではなく、価値を一緒に考えるところから関わらせてもらうんです。

プロダクトデザインや工業デザインという観点でだけ関わると、やはり共有する時間軸がとても短くて、やりきるところまでやりきるということができません。企業によってR&Dであったり広報であったり位置付けはさまざまですが、自主企画を見てくれた方がクライアントになることで、通常のクライアントワークと比べてより長い期間お付き合いさせていただく機会が増えました。

クライアントワークと自主企画、どちらが正解/不正解という話ではなく、時間軸の捉え方の引き出しをひとつにしないことが重要です。大きな歴史の中で価値の転換をどのようにデザインやアートでつくるかを考えるときは、明日の新製品をどうデザインするかを考えるときとは全く違う発想や姿勢が必要です。

海外の展示などでデザインをコレクションの対象としているビジネスマンやエグゼクティブの方々と話していると、次の産業や社会を作る上での起爆剤としてデザインやアートを捉えていることがよく分かります。趣味・道楽の話ではなく、経済活動と切り離さずに、そのモノが持つ可能性を真剣に考えているんです。

長い時間軸で考える、その考えにかたちを与えていくことを、これからも続けていきたいと思っています。

▲アクシスギャラリーでの展示風景

TAKT PROJECT Solo Exhibition「SUBJECT ⇌ OBJECT」

会期
2017年11月18日(土)〜12月3日(日)11:00〜20:00 最終日は17:00まで
会場
アクシスギャラリー(〒106-0032 東京都港区六本木5-17-1 アクシスビル4F)
入場料
無料
主催・企画
TAKT PROJECT
協力
AXIS GALLERY
詳細
http://www.axisinc.co.jp/media/exhibitiondetail/59