日常の豊かな風景をつくる。
東京・谷中HAGISO/hanareの建築家、宮崎晃吉

▲築60年の古い木造アパートを改修したHAGISO。

従来とは異なるアプローチで新しい活路を見出そうとする建築家が、各地に現れ始めている。東京・谷中でプロジェクトを展開する宮崎晃吉もそのひとり。80年代生まれの新しい感性を持った建築家だ。

▲HAGISO1階のギャラリー。展覧会やワークショップなど、多彩なアクティビティが生まれている。

建築が長く生き続けられるために

宮崎のデビュー作であり、一躍その名が世間に知れ渡ったのは、2013年に手がけた東京・谷中の最小文化複合施設「HAGISO」だ。

学生時代に住んでいたという、築60年の古い木造賃貸アパートを改修。モダンに生まれ変わったが、柱や壁、階段など、ところどころに当時のままの姿が残され、この建物が紡いできた長い歴史や物語も感じることのできるユニークな建物だ。1階にはカフェとひと続きのギャラリーをつくり、3階に自らの事務所を置き、その経営を担っている。

建築家でありながらカフェやギャラリーの経営までも請け負うことにしたのは、自分が暮らす谷中で次々に古い建物が壊され、なくなっていく状況を目前にしたのが、きっかけだった。

「建築物が長く生き続けられるためには、その建物がどう使われるのか、運営や経済的な構造など、あらゆることに自分たちが携わって、周辺地域あるいは町全体までを考えることが必要だと思ったのです」と宮崎は語る。

▲HAGISOの2階に、hanareのレセプションがある。

日常の魅力を再発見できる旅の楽しみ方

その後、HAGISOからほど近い場所にある別の古い木造アパートを改修し、宿泊施設「hanare」を2015年にオープン。

HAGISOにレセプション機能を置き、1階のカフェでは生産者から直送される野菜を使った朝食を提供。近くの飲食店や銭湯を利用してもらえるようにオリジナルのマップを渡し、周辺環境も盛り立てていこうと考えた。宿泊客は、そこに暮らすような日常の体験を通して、町の魅力を再発見し楽しむことができる。

今年の2017年6月には、築100年あまりの古いアパートを改修して住居や作家の工房兼ショップ、自社運営の惣菜と弁当と珈琲の店「TAYORI」などの入った「HATSUNEAN」をオープン。

「今後もこの谷中でHAGISOを中心に半径500m圏内くらいの、いわゆるスープの冷めない距離にいろいろな店舗や宿泊施設をつくって、それぞれが相互作用を生み出す仕組みづくりを考えていきたいと思っています」。

▲大浴場は銭湯、食堂は飲食店、土産物は商店街で購入し、文化体験は稽古教室で楽しみ、移動手段はレンタサイクルを利用できる。

イタリアの地方都市に広がる取り組み

こうした宿泊施設と既存の施設を結んだ町づくりは、実はイタリアでも90年代後半ごろから増え始め、2000年代になって本格化した。

それに取り組んでいるのが、アルベルゴ・ディフーゾ(分散する宿という意)協会だ。イタリアの地方都市で過疎化した村落の空き家を宿泊施設にして、レストランなどにレセプションの機能を持たせ、点在する宿や店舗をつないで管理し、町全体をホテルに見なすというもの。

宿泊客は地元の食を味わい、自然や文化に触れ、地域の人とコミュニケーションを図って楽しむ体験ができ、村にとっては、空き家や雇用問題の解決策や活性化につながるというわけだ。

この協会関係者に宮崎の取り組みが伝わり、2016年にHAGISOが非西欧圏で初めてアルベルゴ・ディフーゾの登録宿に認定された。

▲hanareの部屋は5タイプある。海外の観光客も多く訪れる。

地域に根差して取り組む建築家たち

日本では他にも地域に根差した町づくりに取り組む建築家が、各地で自然発生的に現れ始めている。

日本のリノベーションの第一人者と言われ、地域再生のコンサルティングを行う大島芳彦(椎名町)をはじめ、岡昇平(高松)、嶋田洋平(北九州)、市來広一郎(熱海)、中村功芳(倉敷)など。

彼らもそれぞれの地域で、つくる建物だけで完結させるのではなく、商店街や市場と宿泊施設をつなぎ、その周辺環境も含めて雇用創出の仕組みづくりを考え、町の活性化に尽力する。そんな彼らとともに、2017年9月に一般社団法人日本まちやど協会を設立した。まずはWebサイトを開設したところだ。

「まちやどとは、ハイエンドなホテル、バックパッカーのためのゲストハウスとも異なり、僕らが取り組んでいるようなその町に暮らすように日常を楽しめる体験ができる宿泊施設です。今後は同じ価値観を持った人が運営するまちやどをWebサイトに登録してもらい、さまざまな人が日本中に点在するそれらの宿を泊まり歩いて楽しめるように、ひとつのツーリズムを産業としてつくっていけたらと考えています」。

▲TAYORI。店内には、手紙が生産者に直接届くポストが設置され、つくり手とのコミュニケーションを図ることができる。

ワークショップも開催できる新事務所

HAGISOは、来年の2018年3月でオープンから5年目を迎え、人脈もプロジェクトも広がりつつある。

今年の10月には、HAGISOから徒歩圏内の場所に事務所を移転し、一角にワークショップやイベントを行えるスペースも設けた。

設計事務所としては、地域に根差した小規模建築プロジェクトのほかに、住宅やシェアハウス、ホテルなどの設計も手がける。すべてがHAGISOと同じようにできるわけではないが、現在取り組んでいるホテルのプロジェクトでも、その周辺地域とのつながりをつくるなど、自分たちが運営方法に携わることも考えているという。

▲「伊勢崎の屋根の上」。住宅街に、リビングを3階に配置した木造3階建とすることで、周囲の2階建住宅と調和しつつ超越する構成としている。

今ある要素を生かして土地の持つ要素とつないでいく

先ごろコンペを勝ち取り、約9,000㎡の敷地を持つ道の駅の大規模プロジェクトに取り掛かる予定だ。

「建築の大小にかかわらず、僕はいつもまったく新しいものだけで構成するのではなく、今ある要素を生かし、その土地の持つ歴史や物語を過去から未来へとつなげて新しい価値観を生み出し、豊かな場所をつくりたいと考えています」。

その「豊かな場所」とは、「ごく普通の日常のなかの幸せな風景を見ることができる場所」だと言う。道の駅の計画図にも、その土地の自然や文化を感じながら、食を味わい、豊かな空間や時間を楽しめる要素がふんだんに盛り込まれている。

▲中之条ビエンナーレ2013建築館オープニング記念ライブの舞台デザイン。

物の価値観が反転していく時代

これまでの活動を見ていくと、前途洋々に見えるかもしれないが、建築界の未来も決して明るくはない。以前のようにただ待っていて仕事が舞い込む時代ではなく、大規模建築や新築物件を手がけられるのはほんのひと握り。今後はさらに先細りの状態だ。そうした状況のなかで、宮崎は「今がチャンス」だと意気込む。

「現状を悲観している人もいるかもしれませんが、少なくても僕を含めて僕らより下の世代は、面白がっている連中が多いですね。今まで価値があったものに価値がなくなり、反対に価値がないと思っていたものに価値が生まれるという、物の価値観がすべて反転していくという現象が起き始めている。今あるものを使って、どうやったら逆転できるか。アイデア次第で何でもできる。可能性は未知数にあると思います」。

独自の発想と手法で、自分たちの手で未踏の地を開墾していく。こうした宮崎のような新しい感性を持った建築家によって、今後も今までに見たことのない豊かな風景が各地に生み出されていくことを楽しみにしたい。End


宮崎晃吉/建築家、株式会社HAGI STUDIO 代表取締役。1982年群馬県生まれ。2008年東京藝術大学大学院美術研究科建築設計 六角研究室修了後、磯崎新アトリエ勤務。2013年より東京・谷中の築60年の木賃アパートを改修した「最小文化複合施設」HAGISOを設計・経営。2015年より町全体をホテルに見立てた宿泊施設「hanare」を設計・経営。2017年より食の郵便局「TAYORI」を設計・経営。一般社団法人日本まちやど協会 代表理事、まちあかり舎 取締役。2015年より東京藝術大学建築科非常勤講師。

HAGI STUDIO
http://studio.hagiso.jp

hanare
http://hanare.hagiso.jp

TAYORI
http://tayori-osozai.jp

日本まちやど協会
http://machiyado.jp

まちあかり舎(facebook)
https://www.facebook.com/machiakarisha/