大文字Dのデザイン、その三要件
ベンチャーキャピタリスト・高宮慎一

ベンチャーキャピタリスト高宮慎一がこれまでのビジネスワークの経験から導き出したデザインの価値を、ビジネスモデル、その実例に沿って整理・考察する。

第二講 ビジネスにおけるデザインの役割 “大文字Dのデザイン”

ビジネスにおいて、デザインに期待される役割を紐解くうえで、まずは“良いビジネス”の要件を考えてみたい。その前提として、そもそもビジネスとは「大きなコトを成すために、多くの人が結集した営み」だということがある。“成すべきコト”とは、いわゆるビジョンだが、大きなインパクトを出すためには「成長性」が必要だし、ビジネスとして継続、成長するための原資を稼ぐ「収益性」も必要となる。また、一過性のブームとして終わらないためには「持続性」も必要となる。この3つが“良いビジネス”の要件となる。

見落とされがちだが、留意すべきは持続性だ。天才デザイナーの価値や突出したクリエイティブを否定するものでは全くないが、天才デザイナー個人に依存した“巨匠ビジネス”だと、個人を超えた企業体のビジネスとしては、天才のキャパシティ以上の規模化、天才の引退後の持続性において、一定の制約がかかってしまう。また、行き過ぎた株主資本主義の下だと、急成長、高収益が優先されがちで、持続性が企業価値に反映されづらくなってしまうこともある。

持続性を備えたビジネスの一例を挙げると、578年創業の金剛組がある。実は世界最古の企業は日本にあるのだ。寺社の建築、修復を行っており、聖徳太子が建立した四天王寺も金剛組の仕事である。1400年以上にわたって伝統技能を現在に伝えている金剛組は、間違いなく素晴らしく“良いビジネス”を実践している企業のひとつだろう。

Illustration by Toshiyuki Hirata

こうした例を見るように、ビジネスにおけるデザインの役割においても、より付加価値の高いのは、①成長性、②収益性、③持続性を鼎立させ、バランスさせることへの直接的貢献に他ならない。それは経営的目線で見たときのビジネス全体のデザイン、いわばチーフ・デザイン・オフィサーの機能ということになるのだが、具体的には、ビジネスモデル、ブランド、プロダクト/サービス、ユーザーエクスぺリエンスを統体的に紡ぐデザイン戦略、人などの有形なものに限らずIPやノウハウなど無形なものも含めたデザインリソースの調達、蓄積、配分、デザインプロセスや仕組みの整備、デザイン組織のマネージメントなどとなる。これら経営目線で見たときのデザインの役割は、プロダクトのデザイン、UIのデザイン、グラフィックのデザインなど個別業務としてのデザイン=小文字dのデザイン(design with a small “d”)に対比されるかたちで、大文字Dのデザイン(Design with a big “D”)と言われている。

次回では具体的に、大企業においてどのようにデザインが、小文字dのデザインから、大文字Dのデザインへと昇華され、企業の競争力に直接的に貢献しているか、そのベストプラクティスを見ていきたい。End




ーーデザイン誌「AXIS」189号 「ベンチャーキャピタル流デザイン講」より。