東京ビジネスデザインアワード(TBDA) 2012 テーマ賞受賞
廣田硝子 & 玉置潤平「乳白ガラスのペンダントライト」
商品化への道のりインタビュー

▲廣田硝子のショールームにて。左から、玉置さん、廣田達夫さん、廣田達朗さん。

透明なガラスに乳白色の格子や縦縞模様があぶり出された、レトロな味わいの「大正浪漫硝子」。戦争で一度は失われてしまったこの技術を復活させた廣田硝子と、デザイナーの玉置潤平によるマッチング作品「乳白ガラスのペンダントライト」がTDBAテーマ賞を受賞したのは2012年のこと。それから5年の歳月を経て今年4月にようやく製品化が実現した。試作の苦労や、唯一無二の技術に対する想いを聞いた。

乳白ガラスの魅力とは

——乳白ガラスとはどういったものなのでしょうか。

廣田達朗(廣田硝子 代表取締役社長) まず日本における近代のガラス食器産業の歴史からお話しすると、明治政府が品川にガラス工場をつくったのが始まり。芝浦・品川周辺にはガラス食器関連の会社が多かったんです。実は弊社も田町で創業し、後に墨田区にガラス食器生産工場を移転したんですよ。

▲廣田硝子 代表取締役社長 廣田達朗さん。

ガラスが一般家庭で広く食器として使われるようになったのは大正時代に入ってから。大戦景気により庶民がウイスキーやワイン・ビールなどの西洋のお酒を嗜むようになり、ガラス食器産業はかなり盛り上がった。その頃開発された乳白ガラスは、主に夏のかき氷の器として一世風靡したんです。

昭和に入って生活を慎む時代になると、型押しで「戦勝プレート」をつくるプレス技術が多く作られるようになりました。乳白ガラスのような華やかなものは一気に廃れてしまったのです。

——その失われた技術を、現会長がその乳白ガラスを「大正浪漫硝子」として復活させたそうですね。三代目としてどのような思いで技術を掘り起こしたのですか。

▲廣田達夫さん(三代目・現・廣田硝子会長)。

廣田達夫(三代目・現廣田硝子会長) 大正浪漫硝子(乳白ガラス)は、郷愁を感じさせる、とても日本的なガラス食器だと思うんです。色をぼかしたガラスは、海外にもあるようでないんですよ。日本の原料や日本の模様、職人の技術が混ざり合ったからこそ生まれたんだと思います。

第二次世界大戦ですっかりその技術が失われてしまったけれど、40年ほど前になんとかしてもう一回つくれないかと色々と当時のガラス食器の文献と大正時代当時の商品をかき集めて研究を始めたんです。当時は引退した職人もまだ元気にいましたから、話を聞き出してね。今ある原料でいかに味を出すか、どのような模様をどのように金型を作るか、試行錯誤の末、雲をつかむような話しから一連の乳白ガラスの食器を完成に近づけていきました。

——具体的にはどのようにしてつくるのでしょうか。

廣田 通常、色ガラスは、透明のガラスの原料に乳白色に発色する原料を混ぜてつくります。乳白ガラスの場合は、透明のガラスの原料に乳白色の元になる牛の骨灰を混ぜて作りますが何もしなければ乳白色一色になる。ある程度吹いたら型に入れて凹凸をつけることで、凸部分が火にあぶられて透明になり、模様ができるのです。通常のガラス食器をつくる過程の倍くらいの時間と製作による手間がかかります。現在は廣田硝子のみ行われている製法になります。

▲乳白ガラスの特徴を丁寧に教えてもらいながら眺めると、その高度な技法に驚かされる。

技術の可能性を問いかけたい

——そうしたなか、東京ビジネスデザインアワード(TBDA) に応募したきっかけを教えてください。

廣田 2009年と2010年にパリのメゾン・エ・オブジェやドイツ・フランクフルトのアンビエンテに出展した際、乳白ガラス食器に対する反応がとてもよくて、その技術を使って違う分野のものをつくってみたいなと感じたんです。乳白ガラスの可能性を広く問いかけたいと思い、TBDAに応募しました。

——玉置さんはどんな想いで応募したのでしょう。

▲Tamaki Design Studio 玉置潤平さん。

玉置潤平(Tamaki Design Studio) 当時僕は独立したばかりで、いいきっかけになればとコンペを探していました。廣田硝子のことは、さまざまなメディアに取り上げられていたので知っていました。こんないい会社がアワードに出ているんだと知り、一点狙いで応募を決めました。

——照明にしようというアイデアはどこから。

玉置 廣田硝子の商品は全てテーブルウェアでしたから、それをわざわざアワードに提案するつもりはありませんでした。新事業として可能性がありそうなのは照明、特に一般消費者が気軽に買って取り付けることができる電球がいいのではないかと。それで最初は、乳白ガラスでソケットタイプの電球をつくるという提案をしました。

廣田 ほかにもいくつか応募はあったのですが、最も現実的に可能な玉置さんの提案を選びました。また、かつて父が乳白ガラスの照明をつくったことがあったのですが、売り先が見つからなかった。そのリベンジをしたいという気持ちも多少はありました。

——試作づくりで苦労したことはありますか。

廣田 そもそも電球と食器ではガラスの種類も違うし、電球は熱を発散させるためにとても薄くできています。やってみると、電球らしさを表現するのがとても難しいことがわかりました。

玉置 最も難しかったのは、乳白ガラスで作る「大正浪漫硝子」による最大がおおよそ直径100mmくらいまでということ。それ以上大きくしようとするとどうなるかわからなかった。プロトタイプはペンダントライトとしては小さすぎましたが、なんとか照明になった、というところです。

▲一番最初の試作品。

製品化に向けて

——TDBAのテーマ賞を受賞後、自力で製品化を実現されました。どんな想いがあったのでしょう。

廣田 せっかくここまでつくったし、食器とは違う取り組みも必要だとずっと考えてきたので、そういう機会があるのなら最後までやってみようと。

——つくりながら、かたちも変わっていきますね。

玉置 アワードが終わったということでデザインも一度白紙に戻して、最初のソケットタイプではなくLEDの装置と一体化するタイプにしました。でもそのことよって、別の新たな問題が出てきたわけです。

廣田 訪ねた先のLEDの業者から「廣田硝子が自社による製品としてやってくれ、やるなら電気関連による責任とリスク、そしてLED単体での部品が大量に出来るので在庫を持たないといけない」と言われて。つまり相当の量を発注しなければならず、耐久性や性能の試験ができる仕組みもないといけない。それは長年ガラス食器専業の会社として全く経験が無い業界への販売による責任とリスクのある話なので、様々なリスクを背負って自社製品として販売していくのか、他の照明のメーカーと一緒にやるのか、長らく悩みました。試行錯誤しながら気が付いたらアワードから3年くらい経っていました。

▲さまざまな問題にぶつかりながら、絶えずより良い形を求めてきた。

玉置 最終的に「メーカーと一緒にできたらいいな」という話になったとき、タイミングよくパナソニック社さんからコンタクトをいただきました。単に販売するだけでなく、製品として問題はないか試験・検査も十分に行っていただけますし、商品のPRもしていただけます。こうしてようやく生まれたペンダントライトは、2017年4月に発売を開始してから非常に好評です。

商品化が技術のピーアールになる

▲パナソニック社から発売されているペンダントライト。

——商品化が実現した感想は?

廣田(三代目) 私の時代は照明までやりきれなかった。こうやって新しいかたちにつくりかええてもらうことによって、いいものができあがったなと感慨深いです。

玉置 パナソニックの展示会にペンダントライトを出展した際、一緒に廣田硝子の会社と商品の背景含め紹介して戴きました。中小企業の力だけでは広く伝えられる機会は少ないので、技術のいいピーアールになっていると思います。

廣田 当初の目的は「乳白ガラスをもっと多くの人に知ってもらいたい」ということだったので、それが実現でき、商品の販売までできているのは本当によかったです。

——最後に、マッチング成功の秘訣を教えてください。

玉置 実現まで長い時間が必要でした。廣田社長の熱意と判断力がなければ不可能だったと思います。そこに携わらせてもらって僕自身の経験値も上がったし、また何より楽しかったです。ふたりでよく長電話をしたし、一緒に食事したりお茶したりしながら「時間がかかってもちゃんとやろうね」と励まし合ってここまできました。こうして試作を並べてみると、苦労もしたけれど、それ以上に楽しい経験だったなと思います。

——ありがとうございました。(Photos by 西田香織End

▲長いあいだ諦めずに商品化に向けて歩んできた関係性が伺える、和やかな一枚。

廣田硝子 http://hirota-glass.co.jp

Tamaki Design Studio http://www.junpei-tamaki.com

2017年度東京ビジネスデザインアワード
提案最終審査 – TOKYO DESIGN PRESENTATION –

日時
2018年2月7日(水) 14:00〜17:00(開場13:30)
会場
東京ミッドタウン・カンファレンス Room7
   (東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー4F)
定員
80名(先着順)
参加費
無料
お申し込み
ご連絡先(企業名、部署、役職、お名前)と出席人数を、メールにて東京ビジネスデザインアワード事務局までご連絡ください。
タイムスケジュール(予定)
14:00 開会/主催者挨拶/テーマ賞紹介・表彰/
    審査委員長挨拶
14:30 8組のデザイナーによるプレゼンテーション
16:00 休憩/別室審査
16:30 最優秀賞、優秀賞 発表・表彰/審査講評/祝辞
17:00 終了