シェークスピア「テンペスト」をオーストラリアの歴史と重ねる
パース市立図書館の天井画

▲“Delight and Hurt Not”, ceiling mural for the new City of Perth Library, approximately 11 x 14.3 meters, 2016. Commissioned by the City of Perth. Photograph by Bewley Shaylor, 2016.

パース市街地の景色を変えた図書館

2016年3月、西オーストラリア州のパース市に新たな図書館が誕生した。このパース市立図書館は市街地のタウンホールに隣接するアクセスの良さに加え、街を流れるスワンリバーを見渡すこともできる絶好のロケーションが自慢だ。また円筒状に設計された館内は気持ちのいい吹き抜けになっており、外装内装ともに木を多用した温かみのある建築であることも市民に親しみを感じさせている。

▲人通りの多い中心地、さまざまな人々が図書館を利用する。1Fには見晴らしの良いカフェテリアも。

▲インテリアの階段は外光を取り込むので、目に明るく美しい。

設計はアマン東京をはじめとするリゾート建築で知られるパース出身の建築家、ケリー・ヒルが手がけた。市にとっては40年ぶりに建設された公共建築でもあり、構想の段階からどういった図書館にするべきかヒルとともに議論が重ねられたという。

ストーリーが空間を包み込む

この図書館は多くの観光客も訪れる人気スポットだが、最も人目をひくのは天井に描かれた緻密な天井画だろう。この天井画は西オーストラリア出身のアーティスト、アンドリュー・ニコルズによって描かれたもの。アンドリューはこの天井画を任されたことについて「コンペには自分よりもずっと経験豊かなアーティストがたくさんいたにも関わらず、壁画を手がけたことはあってもこれほど大きな仕事を受けたことがなかった自分を選んでもらえて、とても恵まれた機会だった」と振り返る。

▲Anderew Nicholls(アンドリュー・ニコルズ) Photograph by David Charles Collins

パース市立図書館の天井に描かれたモチーフはかの有名なシェークスピアの最後の戯曲「テンペスト」だ。テンペストのあらすじはここでは割愛させていただくが、なぜ今回のテーマに選んだのかをアンドリューに尋ねると「テンペストは植民地支配をメタファーとして取り入れられているとも言われていて、オーストラリアの歴史とも重なっている重要なストーリーだから」という答えが返ってきた。物語の結末に支配してきた島を船で去っていく主人公と、彼が去ったことで自由を手にした元来の島の住人たち。支配という視点からこの絵を見てみると、島の住人たちの伸びやかな喜びが際立ってくるようだ。

▲“Delight and Hurt Not”

また、詳細に描かれている動物や草花にも注目したい。これらのほとんどは現在絶滅を危惧されている西オーストラリアの動植物だという。「この作品と過ごす時間のなかで、来館者の方々には絶滅に瀕している動植物を『発見』してほしいと願っています。そして彼らが生息し、私たちが暮らす地域の環境は変化が著しく、儚いものであることに気づいてもらいたい」。

▲工程としてはスケッチしたものをスキャンし、天井に投影して描いた。制作期間中は腰も首も痛めてしまったそうだ。

市民が誇る図書館

▲テラスから見える景色。

この図書館をぜひ訪れるように、と筆者に勧めてくれたのはパース市で訪れたインテリア雑貨ショップのオーナーだった。この街で行くべきところは?と尋ねて開口一番、「あそこから望むスワンリバーが美しいの。とにかく行ってみて!」と教えてくれたのだ。夕方に訪れると学生たちや小さな子ども連れの親子などがテラスや自由スペースでリラックスしながら過ごす一方で、書庫では調べものや読書に集中している人たちが静かに過ごしており、双方が緩やかに共存する様子が心地よかった。

▲友人同士でリラックスしながら調べものをする学生たち。

じっくり眺めなければ見えてこないほど緻密なアンドリューの天井画はもちろん、ぼうっとスワンリバーや市街地の景色を楽しむのにも、読み書きに集中するのにもぴったりの場所だ。パース市を訪れる機会があった際にはぜひ立ち寄ってみてほしい。

City of Perth Library

所在地
573 Hay Street, Perth
開館時間
月-金曜日: 8:00-16:00
土曜日: 10:00-16:00
日曜日: 12:00-16:00
※祝日は閉館
詳細
https://www.perth.wa.gov.au/living-community/city-perth-library