KOUGEI NOWのプロジェクト「DIALOGUE」
見本市の新しいかたち【前編】

▲京都の祭りにはデザインが溢れている、祇園祭の駒形提灯。グラフィカルで幻想的。

「京都」、と聞くだけで心がウキウキするぐらい、京都の街は楽しい。

最初に訪れたのは、中学の修学旅行という「観光都市」への旅だった。決められた寺にぞろぞろと向かい、いわゆる「土産用につくられたもの」を売る土産物店で土産を買った記憶はあまりいいものではない。

3つ年上の姉の学生時代の愛読書はバブル期に先駆けて創刊された伝説のインテリア雑誌AD Japan(福武書店刊)だった。AD Japanの京都の町を語る松山猛さんの連載(写真の説明のためだけに、染司よしおかの吉岡幸雄さんに書いてもらうという贅沢な企画)や、松山さんの著書「僕的京都案内」(日本交通公社刊)を片手に、京都の安藤忠雄建築や気になる店を一軒一軒周りながら探した京都は、修学旅行とは全く別物だった。

その町歩きがあまりにも楽しかったので、大学時代には青春18切符を使って、京都行きの夜行列車でひとり、ただ町を歩くためだけに何度も行った。宿泊もせず、落とすお金はレトロな喫茶店程度だったから、全く、経済には貢献しなかったのだが……。

▲「僕的京都案内」は、今でもときどき、眺めるほどの永久保存版。AD Japanの豪華な特集、執筆陣も素晴らしい。

工芸を生業にしているのだから、仕事で京都との関わりがあっても良さそうなものだが、なぜか縁がなかった。だが、ある日リビング・モティーフのスタッフさんから「お店のお客さんが京焼・清水焼のつくり手のアドバイザーを探している」と相談を受け、自分で役割を果たせる自信がないまま、「京都に行ける」という思いだけで受けてしまった。当時アドバイザーとしてはあまりにも経験がなく心もとなかったが、普通には入れない20軒もの工房を訪ねて実際に見聞きすることで、アドバイスするよりも、得たもののほうが多かった。

訪ねたなかにはひとり工房もあれば、従業員を抱えた中規模工房もあった。「交趾(こうち)」や「祥瑞(しょんずい)」(ともに、陶芸の技法)を得意とする工房の、古い木造を建て増しに建て増し、迷路のように奥へと続いた先にある色絵の窯(錦窯)は今ではつくられていない年季物だった。代々料亭に器を納めており、何千という見本の全部が頭に入っている、という職人の見本室も見せてもらった。京焼・清水焼のさまざまな形態を見せてもらったが、どこの工房も、「京焼・清水焼」に対するプライドを持っていた。

▲筒描き技法「いっちん」の作業途中。DIALOGUEにも参加する、洸春窯。

たわいないことだと、泉涌寺を「せんにゅうじ」と読めるようになったのはこの仕事のおかげだし、牛肉とぐったりするほど煮込んだ長ネギが乗ったうどんに山椒を振り掛けて食べる美味しさは、案内してくれた京都市役所の所員さんに教えてもらった。

▲京都市役所が大好きで、特権乱用で、館内に器を持ち込み、写真を撮ったこともある。

昨年、久々に京都を訪れ、京都の伝統工芸に従事する人を前に話をする機会があった際、アドバイザーとして不甲斐なかった過去の自分を壇上でお詫びしたぐらいだが、なんだかんだとそのアドバイザー事業は4年続いた。さらにこれをきっかけに京都市の伝統産業審議会の委員、なんていう大層なものも6年務めたおかげか、今年の3月にまた京都に呼んでもらうことになった。

2016年から始まったKOUGEI NOWという京都の伝統工芸の活性化事業がある。主催は京都府。運営は京都リサーチパークだ。第1回は3つの素材(丹後テキスタイル、京焼・清水焼、道具・材料)をテーマにサミットと実演を交えたイベントを開催。その回では問題提起が中心だったが、2018年3月17日18日に開催される第2回目では素材を限定せず、伝統工芸に従事するつくり手が立ち会う、見本市と販売会を複合させたかたちに進化させるという。それも、カンラという伝統とデザインが融合するホテルで。

このホテルという前代未聞の会場はどのように決まったのか。プロジェクトの意図については後編で詳しく触れたい。

そして後編の前に、読者の皆さんにはこのKOUGEI NOW運営スタッフによるウェブマガジン「KYOTO CRAFTS MAGAZINE」を覗いてみて欲しい。

KYOTO CRAFTS MAGAZINEは厚生省から採択を受けた「京都次世代ものづくり産業雇用創出プロジェクト」の一環として運営されているものだ。いわゆる補助金の事業は東京や海外に目を向けられがちだが、このプロジェクトは産業としての工芸や職人の街としての京都に目を向けることを目標にしているという。掲載された華やかな画像の端々に「素材や道具の枯渇・絶滅・廃業」に対する警笛も感じられる。

自分が関わった伝統産業審議会でも、再三、議論に上がっていながら、もうすでに無くなってしまったものもある。無くなってからでは遅いという思い、そして「いま」と「これから」を見つめ伝える思い。それぞれが「KYOTO CRAFTS MAGAZINE」の記事の行間から、伝わってくる。

KOUGEI NOW 2018 Kyoto Crafts Exhibition “DIALOGUE”

会期
2018年3月17日[土] 11:00~18:00 / 3月18日[日] 11:00~17:00
*3月16日は、招待客・プレスに向けた内覧会を行います。
会場
ホテル カンラ 京都(京都府京都市下京区北町190
詳細
http://kougeinow.com/

(後編へ続く)

<梱包について2回に分けて語った前回のおまけ>

▲捨てられないものシリーズ。梱包の基礎は、会社員時代に学んだ。四半世紀前に勤めていた会社のカタログはまだ、捨てずに持っている。