KOUGEI NOWのプロジェクト「DIALOGUE」
見本市の新しいかたち【後編】

▲京都駅から歩いても12分以内とアクセス良好。

◎前編はこちらからどうぞ。

旅において、旅の準備中の夢想が楽しみの割合を多く占めている。どうやって向かい、どこを訪ね、どこに泊まり、何を食べ、誰に会うか。若い頃は、行き方と泊まる場所を最低限に抑えて、その浮いた金額を他に回した。出張なら夜は現地の人と遅くまで飲むから、「寝るだけ」と思うこともあった。だが、ある程度の年齢から、朝、気分良く起きるには「何かしら良い点」がある宿に泊まりたい、と思うようになった。

ホテルで得られるものは異空間だけでなく異時間だと思う。現実的で面白みのない言い方をすると、ベッドメイキングや部屋の掃除、朝食をつくる時間を人が肩代わりしてくれているからということになるが、ホテルはそもそも、人をもてなす場所。つまり客にとっては受動的な時間が「異時間」として感じられるのだと思う。だが、数多あるホテル。その時間は(平たく言うと居心地だが)、それぞれのホテルでかなり違っている。

京都駅の烏丸口を出て、東本願寺の北側にあるホテルカンラ京都。運営は、東京・目黒のリノベーションホテルで世間をアッと驚かせた「CLASKA」を立ち上げ(※現在は株式会社クラスカの運営)、京都九条ではユニークなリノベーションホテルとして話題の「ホテル アンテルーム 京都」を運営するなど「まちづくり」をテーマに事業展開するUDSだ。先の2軒はアーティストとのコラボレーションを前面に打ち出したところが特徴だったが、カンラ(「感」と「洛、都・京都」を意味する)は滲み出てくる日本の渋い美しさで、客をもてなしてくれる。

▲カンラは館内随所に、石、木、鉄などの自然素材が使われている。

京都のホテルというと、無理に西陣織をキーホルダーに張り込んだり、舞妓や五山の送り火や祇園祭の絵柄を書き込んだティッシュボックスが置いてあったり、「これが京都でございます」といった感じの厚化粧のインテリアが多い。

しかし、カンラは木・石・鉄・土・緑といった、日本人がごく自然に大切にしてきた素材と技術を随所に使うことで、じわり、と日本を感じさせてくれる。今の世の中、新素材を使ったほうが安上がりで細工も簡単な場合も多いが、一見、価値が見えづらいところに力を入れていることは「この感覚がわかるはず」と、客を信じている証とも言えよう。見せかけの華やかさではなく、「時間」を過ごすことを重視してのことだ。

つくりもシンプルで、面を多用している。シンプルなつくりだからこそ、各部屋に備え付けられた檜葉の風呂も引き立つ。

▲檜葉の風呂は乾燥を防ぐため、常に浅く水が張られている。

前回、前振りをしたが、この場所で3月17日と18日(16日はバイヤー向けの内覧会)に工芸の見本市KOUGEI NOW Kyoto Crafts Exhibition “ DIALOGUE”が開催される。発起人の山崎伸吾さんはもともとアートのキュレーターでありミュージシャン。ひょんなことから伝統工芸をサポートする役割についた山崎さんは、前年のKOUGEI NOWの発表の場としてアートと親和性のある「アンテルーム」を選んだ。今回、テーマが「旅」ならば「日本の素材と技を感じさせるホテル」、カンラ京都しかない、と思い至ったのも山崎さんならではの発想だ。ホテルでの見本市の開催は、2016年からオランダのロイドホテル&カルチュラルエンバシーで開催されている「MONO JAPAN」もある。決して無理なことではないはずだ。

そもそも、サービスも目に見えないもの。その根底には人を驚かし、覚醒させる「アート」の精神が隠れている、といってもいいのではないだろうか。営業第一のホテルにとって、書き入れどきの3月に会場提供するというのは業界的にあり得ない話だが、人が来る時期だからこそ、と英断したことに拍手を送りたい。

▲カンラの客室のひとつ。シンプルな構成だからこそ、落ち着いたときを過ごせる。

▲カンラのフロントで、支配人の友岡大輔さん。

▲KYOTO CRAFTS MAGAZINEの編集長であり、「KOUGEI NOW」ディレクターを務める山崎さん。

ふたりによる対談も興味深いので、ぜひ読んでみてもらいたい。

出展するのは、KYOTO CRAFTS MAGAZINEの山崎さんがディレクターを務める、「京都職人工房」の参加者を中心に、県外の応募者も受け入れている。一見、おしゃれなアイテムをつくる若いブランドというふうに見えるが、いずれも伝統工芸に関わる、新旧の向上心のある工房ばかりだ。染織、陶磁器、漆器といったおなじみの素材だけでなく、甲冑、くみひも、香、京扇子といった京都ならではの工房も参加する。

66組に課されたテーマは2017年に開かれたシンポジウムを前進させるかたちで、「未来志向の工芸」そして京都ならではの「旅」だ。客室を舞台に自慢の品をどのように展示するかも見所だが、それと同時につくり手がどのように工芸に向き合っているのか直接話を聞くことができるのも見本市の醍醐味だ。

宿泊しない限りは入れないのがホテルの部屋。宿泊しても自分の泊まる部屋にしか入れないものだが、何部屋も体験できることが今回の見本市の大いなる魅力。 バイヤーはこちらの招待状をプリントアウトし、名刺を持参することで参加できる。

17日、18日は入場無料で入館でき、展示品の購入もできる。ホテル、工芸、つくり手との会話が楽しめて、さらにつくり手の未来に向けた考えを知る、貴重な機会になりそうだ。

前回のおまけ》

▲建設中にしか撮れない写真です。

【KOUGEI NOW】関連イベント
日野明子×永田宙郷トーク

日時
3月16日(金)16:00〜18:00(開場は30分前から)
会場
THE KITCHEN KANRA(ホテルカンラ京都 本館 B2F)
申込
こちらの申込みフォームよりお申し込みください。

KOUGEI NOW 2018 Kyoto Crafts Exhibition “DIALOGUE”

会期
2018年3月17日[土] 11:00~18:00 / 3月18日[日] 11:00~17:00
*3月16日は、招待客・プレスに向けた内覧会を行います。
会場
ホテル カンラ 京都(京都府京都市下京区烏丸通六条下る北町190
詳細
http://kougeinow.com/