【卒展2018】女子美術大学短期大学部 テキスタイル専攻。
手仕事の先にある作品たち

▲女子美術大学短期大学部 テキスタイル専攻の卒業制作展「TEXTILE DESIGN EXHIBITION」会場。手前の羽織は、安部由悠さんの作品「蟲の息」。縁起がよいとされる生き物を絵柄にした筒描染めで2作品からなる。

▲裏側に展示された安部さんのもう1点は、やもりがモチーフ。

2018年の卒業制作展のうち、首都圏の学外展を中心にレポートするシリーズ。それぞれの大学、学部、コース、そして今の時代の学生たちの特徴や雰囲気を伝えていく。

シリーズ第4回目は、2018年2月15日〜18日までの4日間、AXISギャラリーで開催された、女子美術大学短期大学部 デザインコース テキスタイル専攻の卒業制作展「TEXTILE DESIGN EXHIBITION」。2年生と専攻科の学生、合わせて40人の作品が並んだ。素材自体をつくり上げるプロセスを大事にした学生が多く、膨大な量の手作業そのものを楽しんでいるようだった。

▲一口にテキスタイルといっても、織り、染め、紙漉きなど、制作する技法は多岐に渡る

手でつくることに喜びを感じて

女子美術大学短期大学部は、基本的には2年制だが、さらに学びを深めたい人のために、もう1年かけて専門性を高めることができる専攻科も用意されている。同大学の理事である小林信恵短期大学部部長は、「卒業後に専攻科へ進む学生が多い。また、女子美術大学を含む4年制大学の3年次編入も含めると、卒業生の約半数が進学を選びます」と話す。

今回展示された卒業制作の特徴を小林理事に尋ねたところ、「2年生も専攻科の学生も、完成度の高い作品をつくっているし、内容もバリエーションに富んでいる」と答えてくれた。

また、同大学の竹中明子准教授は、「テキスタイルを専門にする学生は、手でものをつくることに喜びを感じる人が多いのです。教員もひとりひとりの個性を大切にして、楽しく進める方法を一緒に考えます」と話す。

素材と技術から生まれる表現

伊藤みずきさんが専攻科で織りを選んだ理由は、1段1段、自分の手で積み上げて図柄を表現することに魅力を感じたからだそうだ。

月と太陽の図柄が織り込まれた2種類のブランケットを制作した伊藤さん。コンセプトについて「太陽と月に地球が優しく包まれているという暖かい関係性を、ウールのブランケットで表現した」と話す。

▲伊藤みずき(専攻科)「ちきゅうのブランケット」

▲柄を変える部分に苦労したと話す伊藤さん

仁平春希さんは小学生のときから描き続けている女性キャラクターを作品にした。いちばん感情を込めて描くことができるだからだという。

アニメチックなイラストが目を引く作品は、筒描き染めと刷毛染めという技法で制作した染め物。哲学用語の「間主観性」に着想を得て、この図柄を考えたという。未だ、アニメや漫画はサブカル的と受け取られがちなため、最終的な表現方法は悩んだが、先生にも背中を押されて、最も描きたいこの図柄を選んだという。

▲仁平春希(専攻科)「認識の外にあるもの」

▲「もともとはアニメなどのメディア表現に興味があったが、筒描き染めという技法を知ったとき、なにか惹かれるものがあった。それから、これまで描いてきたイラストをこの技法で描き始めた」と仁平さんは話す

真空パックに入った寿司は、レザーやフェルト、モール、和紙など、いろいろな素材でできている。コンセプトは「素材そのものの魅力の表現」であり、多くの人が認識しやすいモチーフとして寿司を選んだ。ひとつひとつの素材でどのような表現が可能かを考えながら制作したという。真空パックは輸出をイメージしていると田中 京さんは話してくれた。

▲田中 京「sushi pack」。すべての寿司が異なる素材と表現手法でつくられている

▲アジは異なるレザーを組み合わせることで複雑な色調を実現した

▲フェルトの断面で表現したタマゴがお気に入りと話す田中さん。

織り、染め、紙漉きなど、技法は多岐に渡る

佐藤瑞希さんは、楮(こうぞ)から和紙をつくることから始め、羽を1枚ずつ制作し、鳩が飛び立つ様子を表現した。紙漉きを授業で学んだときに、その白さを生かせるものを作品にしたいと考えたという。手でちぎると羽毛のように見えることから、純白の鳩をモチーフに選んだ。

▲佐藤瑞希「飛翔」。作品に用いた和紙は、障子などに使われる漂白した楮を漉いてつくっている

▲羽は1枚ずつ手で切り込みを入れ、全部で1,000枚ほどつくったと話す佐藤さん。鳩1羽につき70〜80枚の羽がついている

南米の雰囲気を感じさせる花澤亜矢佳さんのカラフルな作品は、すべて和紙製。楮を漉いて紙をつくり、それを1枚ずつ染めて、「紙布」という手法でヒモ状にしたものをかぎ針で編んだ。配色やサイズは制作しながら直感的に組み合わせていったという。和紙に鮮やかな色が映えることや、とても丈夫であることを教えてくれる作品だ。

▲花澤亜矢佳「shinshoku」。楮は全部で20kgほど使用したという

▲「ビビッドな色が大好き。色そのもので表現する、迫力のある作品にしたかった」と話す花澤さん。

手紙における封筒は、誰かに届けたい自分の思いを隠すためのツールだ。鬼嶋美波さんは、メッセージよりも先に手に取る封筒に特別な触覚を与えるため、それを紙ではなく布で制作した。シルクスクリーンで染めて、接着芯を入れ、ひとつひとつ手で折ってつくり上げている。

▲鬼嶋美波(専攻科)「think of… 」。一見紙の封筒に見えるが、近づいてよく見ると新鮮な驚きがある

▲300以上制作したうち、完成度の高いものだけを展示したと鬼嶋さんは話す

小林理事によれば、同大学短期大学部の卒業制作展を学外で開催しはじめてから、30年になるという。在学中に展示のノウハウを学び、卒業してからも個人的に制作を続け、友人同士でグループ展を開く卒業生も多いことを嬉しそうに話してくれた。4年制大学に比べ、たしかに学ぶ期間は短いが、その濃縮された時間を垣間見ることのできる展示だった。End

女子美術大学短期大学部デザインコース テキスタイルデザイン卒業制作学外展(2年・専攻科)「TEXTILE DESIGN EXHIBITION」

会期
2018年2月15日(木)〜18日(日)
会場
AXISギャラリー
詳細
女子美術大学短期大学部 デザインコース テキスタイル専攻