日本と中国のワークスタイルの違い。
常に滑り込みセーフ!
がもたらすライブ感

▲プレゼン当日の朝にでき上がったキッチンエリア。社内外の人と一緒に空間を検討したり、実際に料理して考えたり。Photos by Misa Nakata

みなさんこんにちは。上海在住の津田です。今回は中国流のワークスタイル(?)として、滑り込みセーフのお話をさせてもらいます。

通常、仕事を進めるに当たっては、会議や開発日程などの節目節目をスケジュールに入れて、それから逆算して日程をつくっていきますよね。また、再検討や失敗も想定に入れて、必要充分なバッファを持たせて組み立てていきますよね。もちろんこちら中国でもそうです。ヒト・モノ・カネに加えて、時間はとても大事なファクターなので、責任者会議などでは、スケジューリングの作戦立てこそリーダーの采配力の見せ所と、かなり指導徹底しています。が、いくら日程を立てても、最後の最後、なぜかドキドキハラハラの滑り込みででき上がるということが多々あります。

つまり、中国は「Every day is Special day」ですので、悪い方向の想定外や突然のバッドニュースも過激に発生し、バッファをはるかに越えて日程が押してきます。もちろんグッドニュースも紛れ込んできますので、その場合は、少しでも良いものを!と、時間の許す限り貪欲になってしまいます。

それをどうやり切るかを、即興即断で決断しながら進めるというのが、中国のやり方です。日本だと、検討比較や複眼判断をしっかりやって、会議体などを通じて後戻りさせず着実に決めていく、計画的な推進が是とされます。しかしこちら中国では、7、8割見えたスケジュールで業務をガンガン走らせつつ、途中途中で立ち塞がる無理難題を絶妙にいなしながら、するりとくぐり抜け、時には強引に押し込んでいく、そのライブ感がたまらなく面白いのです。

たとえれば、日本のスタイルは農耕的発想、中国は狩猟的発想、のようなものでしょうか? 大げさに言えば、こちらで仕事をしていると、生きている実感のようなものをヒリヒリする毎日のなかで感じているというふうですね。

実際に起きた、滑り込みセーフの事例をご紹介しますと……。

ケース1:重要プレゼン当日の朝ギリギリに展示空間が仕上がっていた

弊社の総経理全員(社長、事業部長クラスの幹部を中国では総経理と呼びます)が集まる重要会議でのデザインプレゼン。ここで今年1年間のデザインセンターの取り組みをお披露目するという1年間で最も重要なイベント。

にもかかわらず、当日の朝いちばんにデザインモデルを展示するキッチン空間が仕上がりました。前日夕方までトンテンカンと工事をしていたので、心配になって朝早くオフィスに出社してみると、疲労の余り真っ白になった工員の皆さんが、力を振り絞って「で、できました……」とのこと。

確かにでき上がっていました。粗い部分はあったにせよ、あとはプレゼンターの即応力でうまく対応し、好評のうちにプレゼンは終了しましたが、当日まで完成しない滑り込み感、胃腸の弱い人は潰瘍ができるんじゃないかと思うくらいスリルがあります。

▲デザイン統一して進めた調理商品群です。

ケース2:大量のデザインモデルをひとつの業者でつくって大丈夫か?

企業でデザインをしている人は当たり前に行う、複数の商品でのデザイン統一や一貫性づくり。これらをモデル化する場合に、普通なら幾つかのモデル業者に分散させて、日程やマンパワーのリスクを最小化しながら進めていくことが多いです。

しかし、先般進めた調理機器のデザイン開発では、調理小物から大型冷蔵庫まで、すべて合わせて11台のモデル、それも外観だけでなく中身までつくり込んだものを、半月から1カ月未満の短日程で、ただひとつのモデル業者だけに依頼して、これもまた前日と当日の朝にすべて完成させてしまったということがありました。その中には、前日に修正指示して当日仕上がったモデルも含まれます。

モデル業者を分けると、色を合わせたり指示することが複線化し、デザインクオリティとスピードが下がるから、ひとつの業者にした、というのがシンプルな理由なのですが、あれよあれよと納品されるその勢いに圧倒されたのを覚えています。これだけの商品数を一気にコーディネイトしたウチのデザイナーの馬力とセンスも大したものだと関心しました。

▲資料は一瞬でつくります!

ケース3:自分の仕事も大変化、資料作成は垂直立ち上げ

私自身も中国化してきたなぁと思うのが仕事の進め方のマインドセットで、プレゼン資料やレポートをつくるときの話です。

いちばん新しい情報やアイデアを集めて、ベストなものをつくり上げたいという考えから(一方でギリギリまで、まあいいや何とかなるさ、という思考もありますが)、頭の中ですべてのイメージングができるまで、手を動かす作業を行わずに、あるときに堰を切ったかのようにつくり上げる、というのが自分のスタイルになりつつあります。もし本当に時間がなくても、イメージができているので優先度の高いものを先にビジュアル化し、残りはアドリブで、その場面場面でオーディエンスに合わせて語っていく、という感じです。

いつか痛い目に遭うんじゃないかと思うのですが、今のところ何とかなっているので、このスタイルは一層磨き上げていきたいと思っています。

決めたから、決まったから、で進めてきた、自分の今までのやり方を思い起こして、結果的にそこからの改善や進化をある意味諦めてしまうという結果になっていたのでは? 最後の最後まであがく執着心を忘れていたのでは? 中国で全く違う考えで仕事を進めるなかで改めて感じる今日この頃です。

追記:今回の原稿をAXIS編集部に渡したところ、「え~?!滑り込みセーフなんて日常茶飯事ですよ!」といったご意見を頂戴しました。ということは、弊社の日程管理が総じてしっかりしているのか、それともAXISがすでに中国化しているということなのか……笑。End