メゾン・エ・オブジェ2018 1月展を振り返る
日本デザインが存在感を示した3ブースをピックアップ

▲世界中のバイヤーやジャーナリストで賑わう「メゾン・エ・オブジェ・パリ」の会場。

2018年1月下旬、パリでインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」が開催された。主催者の発表によれば、今回の1月展は日本から過去最多となる約160の企業や団体が参加。欧州での日本文化への関心の高まりを背景に、伝統技術などを生かした日本製品が海外バイヤーなどの関心を集めたかたちだ。

ブナコとnendoによるワイヤレススピーカー

開催初日から人だかりができていたのが木工品製造業の「ブナコ」だ。メゾンでは常連といえる同社が今回展示したのは、デザインオフィスの「nendo」と組んで開発したアンプ内蔵のワイヤレススピーカー。ブナの木を薄く裁断し、コイル状に巻き付ける独自製法から生まれる細かい段差や、ブナ材の吸音性を生かした透明感と柔らかな音色が、訪れた人たちを魅了した。

▲ブナコのブースで披露された「BUNACO SPEAKER」。高さ60cm、直径18.6cmの筐体が響かせる音色に多くの人が関心を寄せた。

一般的には横向きに置くスピーカーユニットをあえて縦向きにして、天井に反射した音が空間全体に広がるように仕上げているのも特徴。海外バイヤーなどからは、「どこから音が出ているのかわからない、その不思議な感覚が新しい」という声が聞かれた。360度の方向に音が伸び、自然と空間を包み込むような音響体験を誘うスピーカーはインテリア性の高さもあり、需要の広がりを印象づけた。3月上旬から国内外での販売がスタートするという。

KISHU+とTAKT PROJECTが描く「先端工芸」

日本有数の漆器産地のひとつである紀州漆器のメーカー5社が、「TAKT PROJECT」と立ち上げた新ブランド「KISHU+」も、初出展ながら展示で気を吐いた。紀州漆器の伝統や技を未来に向けて継承したいと始まったプロジェクトは、当初よりメゾン・エ・オブジェへの出展および海外販路の開拓を目指してきた。

展示した作品は、3Dプリンターを使ってろうそく台の上に波形を付けたキャンドルスタンドや、蒔絵の絵づくりをデジタル技術を用いて3次元状に展開し見る方向によって柄が変わるストレージボックスなど約10点。お椀を逆さにしたような照明をいくつも吊るし、黒塗りの傘からきらびやかな光がのぞく幻想的な灯りで会場を照らしたのが印象的だった。

▲全国四大漆器産地のひとつ紀州漆器産地の5社が立ち上げた「KISHU+」。デジタルテクノロジーなど今日の技術を取り入れる柔軟な姿勢で、日本の工芸の新境地を示した。

樹脂の吹き付けやプラスチック製の型など他に先駆けて積極的に新しいものを採り入れてきた気風を生かし、今回「先端工芸」というキーワードを打ち出して臨んだKISHU+。伝統技術とデジタル技術を組み合わせた取り組みが、着色された塗装技術の一種という海外における漆器のイメージをどう変えていくのか、今後の展開が楽しみだ。「海外での継続的なアピールが大切になってくる」と関係者の視線はすでその先を見据える。

平安伸銅工業とTENTによる”見せる”突っ張り棒

継続的な出展を通じ、着実にビジネスチャンスを広げているブランドもある。突っ張り棒のトップメーカーである平安伸銅工業が、クリエイティブユニットの「TENT」と組んで生まれた「DRAW A LINE」だ。クローゼットや押入れで壁を橋渡しして服などをつり下げる突っ張り棒を、黒と白のマット仕上げにし、“見せる”インテリアアイテムに昇華。突っ張り棒に馴染みの薄い欧米の高感度層にも人気が広がる。

部屋の中に1本の線を引くように、突っ張り棒を自由に配置し、棚やランプを取り付けて思い思いの生活空間をつくれる手軽さに加え、フックやつり棚、照明、マグネットなどの小物類を統一感あるデザインでまとめ、空間をすっきりと見せられる点も人気の秘訣だ。フランスのインテリア誌で紹介されたのをきっかけに認知度が高まり、販売も好調という。

▲黒・白のツートンカラーで、部品を自由に組み合わせて楽しめる「DRAW A LINE(ドローアライン)」は継続的な出店で確実に実績を重ねている恒例。

こうした使い方を自由にカスタマイズできるアイテムは、“インスタ映え”しやすいという利点があり、SNSなどへの投稿を通じて一気に人気化するケースが少なくない。「今は、インスタなどのSNS発信で流行が生まれている」。ネリーロディ社のヴァンサン・グレゴワールもこうした傾向に指摘。新しい情報発信の手段は、商品企画やデザイン設計においても無視できない存在となりつつある。 

いつでもどこでも好きなときに商品の詳細情報をスマホから入手できる手軽さや便利さは、人々の消費行動だけでなく、トレンドの発信源を自認する見本市のあり方にも新たな問いを投げかける。

MOM(メゾン・エ・オブジェ・アンド・モア)」というウェブ上のプラットフォームでリアルとオンラインの融合を進めてきたメゾン・エ・オブジェだが、次回の9月展では展示会場というリアルな場を大きく刷新し、見本市としての新しいかたちを示していくという。その鍵となるのは、限られた時間のなかでいかに会場を見て回ることができるかという動線づくり。まさに効率よく最新の情報に触れられるネット検索のようなアクセシビリティなのかもしれない。

日本の企業や団体による新しいものづくりの取り組みとともに、次回のメゾン・エ・オブジェ(会期は2018年9月7日から 9月11日)の展示構成に期待したい。End